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36 撃たれた者は

 ターン、と甲高い火薬の音が響き、ミランダはその時が永遠のように感じた。

 近距離でミランダを庇ったままルシアンに放たれた弾は外れようもなく、ミランダは自分が身を挺してルシアンの盾になりたいと願ったが、後ろ手で縛られたまま抱えられた体は、動くことが叶わなかった。


 そうして煙とともに地面に音を立てて倒れたのは、夜空色の小さな竜だった。

 アルルの背中の鞄にいたはずのプルートが、ルシアンを庇って飛び出し、撃たれていた。


 一瞬の出来事に全員が絶句し、シダは次弾を装填することのできない銃を握ったまま、その場で崩れた。


 ミランダは地面に落ちたプルートに釘付けとなり、喉が張り付いて息ができずに屈み込んだ。


「プ、プルートちゃん……? 嘘……」


 プルートは小さな体の真ん中を撃たれて仰向けで地面に転がり、薄目を開けたままピンク色の舌をダラリと出していた。血溜まりがゆっくりと広がって、ミランダの膝を赤く染めていた。


「い、嫌……プルートちゃんが!」


 その残酷な光景は、まるでルシアンが撃たれて命を失ったのと等しくミランダの心臓を凍りつかせた。

 プルートの亡骸を見つめたまま過呼吸になるミランダから、ルシアンは縄を解きながら呟いた。


「大丈夫だ。ミランダ。見なくていい」

「で、でも、プルートちゃんが! し、し……」


 死んだと言えずに、涙が滝のように溢れた。


 ルシアンが立ち上がった代わりにアルルが駆け寄ってミランダを支え、ルシアンは足元に転がったままのプルートを見下ろした。


「バカな。俺を庇う必要などないとわかっていただろう。銃で撃たれたくらいで死にはしないというのに」


 ルシアンは苦しそうに唇を噛むと、右手の手刀で自分の左手首を掻き切った。鮮血がプルートの亡骸の上に注がれるのを、ミランダとアルルと、倒れたカシュカとシダも呆然と見守った。


「起きろ。お前は不死の竜だろう。プルートよ」


 プルートの穴の開いた体は竜王の血で満たされ、再生を始めた。穴はみるみるうちに塞がれて、プルートは小さく呼吸を取り戻した。

 ピクリと舌を動かすと金色の目を少し開けて、ルシアンの顔を見つめている。


「ウム~……」


 その声にミランダは前のめりに飛び起きて、プルートに泣いて縋った。


「プルートちゃん!」


 ルシアンは左手の切り傷を押さえてカシュカのもとに歩み寄った。

 カシュカは肩口から胸まで大きく切り裂かれて瀕死の状態だった。ルシアンは左手をカシュカの身体の上に翳した。


「プルートは死と再生を司る特別な竜だ。俺の血がある限り、何度でも再生する。だが俺は死んだ人間の再生はできないのだ。お前に魂が残っていたのはラッキーだったな」


 言いながらルシアンはカシュカの傷口に自身の血を大量に注いだ。


「竜王様……」


 カシュカの流血は止まり、傷はみるみるうちに塞がっていった。カシュカはやりきれない複雑な顔で涙を溜めている。


「カシュカよ。何を信じていいかわからなくなったか? 神話か、王国か、自分を洗脳したシダとその仲間なのか」


 カシュカは崇拝に陶酔する顔から純粋な少年の顔に戻って頷いた。

 ルシアンはふん、と傲慢に鼻で笑った。


「ここに竜王がいる。俺は現実に存在する偉大なる竜王だ。俺を信じてみればいい。悪いようにはしないぞ」


 血を流し続ける竜王の黄金の瞳を見上げたまま、カシュカはもう一度頷いて、子どものように嗚咽した。

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