35 悪足掻きの末に
シダは激昂した。
「この恩知らずめ! 焼き討ちされた村で拾ってやったことも忘れたのか! お前の教育に我々がいくら注ぎ込んだと思っている!」
さらにカシュカに手を下そうとするシダに向かって、ミランダは思わず叫んだ。
「やめなさい! 貴方がカシュカに施したのは教育ではなく洗脳です! 反体制の分子としてこの子を利用したに過ぎません!」
シダは腰からナイフを抜くと、ミランダを捕らえている男を突き飛ばし、自らミランダを掴んで大きなナイフを首に当てて吠えた。
「さあ、竜王よ、壺に血を満たすのだ! さもなくば女の首を斬り落としてっ……」
言葉の途中でシダは目を見開いた。
数メートル先にいるルシアンは微動だにしていないが、シダのナイフはミランダの首の手前で何かに遮れていた。
ミランダ自身も、何か硬い物が自分の首を刃からガードしているのがわかった。
その瞬間に、下の方から聞き覚えのある声が聞こえた。
「お妃様に乱暴は許しませんよ!」
まるで空気から突然出現したように、透明から姿を現したアルルがミランダの腰元にいた。市場で買った剣を頭上に掲げて、鞘をミランダの首とナイフの間に差し込んでいた。
「なっ!?」
シダが驚愕して一歩後ろに飛び退いた瞬間に、シダの右手はナイフごと空に舞い上がった。血飛沫が弧を描いて、時が止まったように誰もが硬直した。
「ギャーーッ!!」
ルシアンの手刀がシダを目掛けて疾風を放ち、鎌鼬となってシダの右腕を切断していた。
続けて周囲の者も飛び交う鎌鼬に次々と斬られ、さらにルシアンの後ろに控えていた集団に雷が落ちた。ドーーンという爆発音が山々に反響して響き、ルシアンは落雷を背にシダにさらに手刀を向けた。
シダの胴体が大きく斬られたように見えたが、斬られたのはカシュカだった。咄嗟にシダの前に躍り出て、代わりに肩から胸に掛けて深手を負っていた。
ミランダは信じられない光景に叫んだ。
「カシュカさん!」
カシュカが身を挺してシダを庇ったのが信じられなかった。
大量の血が飛び散って、ミランダはショックで膝から崩れた。そのまま後ろに向かって転倒する寸前に、ルシアンが駆け寄り支えていた。蒼白のミランダを見下ろして一瞬安堵の顔を見せた後、地面に倒れたカシュカを見てルシアンは舌打ちをした。
「お前のような子どもを斬ろうなどと考えていなかったぞ」
喋れないまま横たわるカシュカをシダは押し除けるように立ち上がり、半分失った右腕をぶら下げたまま、懐から左手で予想外の物を取り出してルシアンに向けた。
「銃!!」
アルルが叫んだのと、シダが発砲したのは同時だった。
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