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31 眠る煉獄の竜

 集団の移動は崖に囲まれた広い平地に出たところで歩みを止めた。

 どうやらここが目的地のようだ。


 赤い岩肌が壁のように聳え立ち、カシュカの言う通り、平地の外側は奈落の底のように断絶していた。崖下から吹く風が湿度と水音を運んできて、崖の底には川や滝があるのがわかる。


 殺風景で危険な地形にミランダは身震いしたが、この平地で何よりも違和感があるのは、平地の真ん中にある大きな窪みだ。何かを採掘したかのように砕かれた石が山積みとなっていて、すり鉢状の窪みには褐色の地面とはまったく違う色の、黒く大きな物体が沈んでいるように見える。


 集団が拝むような手をして窪みを覗き込んだので、ミランダも上半身を乗り出して、その巨大な黒い物体を凝視した。


「きゃあ!? こ、これは……」


 あの巨躯を持つ火竜、アンタレスほどのサイズはあるだろうか。黒い竜の上半身が地面から発掘されて露わになっていた。

 巨大な身体には頑強な鱗と鋭い牙や爪も見える。だが固く閉じた目は微動だにせず、まるで眠っているかのようだった。


 ミランダは前のめりになりすぎてバランスを崩し、カシュカに支えられた。


「これが神話に描かれていた、我が国を守る竜です」


 カシュカを見上げると、誇らしげな顔で陶酔するように竜を見つめていた。


「この竜が目覚めればもう、隣国に国民が殺されることも、土地を奪われることもない。神話の通りに煉獄の炎で敵を壊滅させて……僕の父さんと母さんの仇も討てるんだ」


 言葉の最後には少年の本心からの願いがこもっていて、ミランダはやるせない気持ちになった。


 そして同時に、あのチビ竜プルートを思い出していた。

 卵の中に五年も眠って、突然に孵化したと聞いた。神秘的で謎に包まれた竜の生態を考えると、土中に埋まったまま発掘されるまで何千年と眠っているのも有り得るのかもしれない。

 現に埋もれた竜はまるで眠っているように、美しい顔をしていた。


「カシュカさん。竜王様はいったい、どのようにしてこの竜を目覚めさせるのですか?」

「竜王様がこの竜と出会えさえすれば目覚めるのだと、シダ様はおっしゃっていました。シダ様は昔、ユークレイス王国に住んでいたことがあって、竜族と竜の生態を詳しくお勉強されたのです。西大陸の言語を僕に教えてくれたのもシダ様なんですよ」


 どうやらカシュカが西大陸に住んでいたのも嘘だったようで、ミランダはさらりと吐かれた嘘ばかりを信じていたことに唖然とした。

 反体制団体の長がユークレイスで竜族について学んでいたのも意外な経歴で、ミランダはシダという人物がいったい何を目論んでいるのか不安で仕方なかった。


 竜を見つめながら思慮しているうちに、十人ほどいる集団はいつの間にかミランダを取り囲むように近づき、後ろ手に縛られたままの腕を左右から掴んだ。

 ミランダが驚いて身を竦めると、カシュカは背後を振り返って声を上げた。


「竜王様!」


 ミランダは待ち望んでいた再会に体が痺れるように熱くなって、背後の丘の上を見上げた。

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