30 令嬢らしからぬ
悪路が続く山道を馬車は延々と登り、ミランダのお尻は痺れるほど痛くなっていた。
だがそんなことに気を掛ける余裕はなく、周囲の景色に集中した。
殆ど緑のない赤い岩肌のなだらかな坂道が続き、恐らく昔は採石場だったのだろう。石が掘られて放置された跡も見られる。
陽はだんだんと傾いて夕方に近づいていた。
宮廷にいるガレナ王はこの誘拐に気づいただろうか。
そしてルシアンとアルル、プルートは今どこにいるのだろうか。
心配が尽きないが、ミランダは馬車が急停車したので我に返った。
「この先は馬車が通れないので、すみませんが乗り換えていただきます」
何に乗り換えるのかと思いながらカシュカに従って馬車を出ると、そこには待機していた別の男たちと、立派な角を生やした山羊たちが屯ろしていた。通常の山羊よりも大きく逞しい身体をしている。
「や、山羊!?」
「ガレナ山羊は屈強でどんな坂や崖でも登れますから。竜の眠る場所まで山羊に乗って向かいます」
ミランダは乗馬をしたことはあるが、山羊に乗るなんて経験がないので戸惑った。が、有無を言わさず後ろからいきなり手を縛られて、また荷物のように担がれて山羊に乗せられた。
「キャー!?」
後ろにカシュカが飛び乗って、ミランダと自分を腰紐で繋ぐと手綱を持った。
「窮屈で揺れるけど、どうか我慢してください。僕は山羊には乗り慣れているのでご安心を」
「て、手の縄を解いてください!」
「ダメです、パニックになって暴れると転落して命に関わりますから」
ミランダは恐怖で冷や汗をかくが、カシュカは待ったなしで山羊を走らせた。
「やぁ!」
勇ましい掛け声とともにカシュカと他の山羊に乗った男たちも一斉に坂を駆け出して、ミランダは激しい上下の揺れに絶叫した。
「ギ、ギャーッ! こ、怖い!」
初めて竜に乗った時さえ、こんなに恐怖を感じることはなかった。
山羊が跳ねて登る岩場の坂は荒れているが、カシュカの言う通り、彼らは騎乗に慣れているのだろう。凄いスピードで進むものだから、ミランダは舌を噛みそうで悲鳴や文句を飲み込んだ。
涙と鼻水も拭けない令嬢らしからぬ酷い有様にカシュカを恨めしく思ったが、カシュカは終始紳士的だった。
「申しわけございません。怖い目に遭わせてしまって……」
山羊が目的地に着くと、カシュカはすぐに地面に降りてミランダを担ぎ下ろし、涙と鼻水でビショビショの顔を丁寧に拭いた。
ミランダは憮然とカシュカを睨んだ。
「自分でやりますから、早く縄を解いてください」
「すみませんが、竜王様と合流するまで縄は解けません。ここは一歩でも踏み間違えれば奈落の底に落ちる危険な場所なので」
そう言いながらロープを掴んで安全な道を誘導されて、ミランダはまるで自分が散歩中の犬になったような気分だった。
自分のせいでルシアンが危険な目に遭ったらどうしようと考えつつも、不安と疲労から本人に会いたいと強く願ってしまう。
あのバリトンの堂々とした声と逞しい腕の中で安心したい、と思ううちに恋しさで涙が滲んだが、十人近くに増えた反体制集団の視線の中で弱々しい顔を見せるのが悔しくて、ミランダは毅然と前を向き直した。
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