表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

83/104

29 カシュカの願い

 カシュカは驚いた顔で首を振った。


「恨みなどと、とんでもない! 僕たちは竜の神話を信奉する団体です。我が国に眠る竜を復活させるために、竜王様のお力をお借りしたいだけなのです」


 対面に座る二人の男も頷いた。

 ならば何故、カシュカにも男たちにも悪意の黒い炎が見えるのだとミランダは問い正したかったが、カシュカは申しわけなさそうに頭のスカーフを外した。

 黒いモヤは先ほどより小さくなっているが、やはりハッキリと見える。


「奥様は悪い人の印が見えるとおっしゃっていましたね。それはきっと、僕たちの罪悪感だと思います。国を守るためとはいえ、奥様に怖い思いをさせてしまったので」


 カシュカに聞きたいことは山ほどあるが、ミランダはカシュカが手にする牡丹色のスカーフが気にかかっていた。被れば悪意の炎を隠せて、外せば現れる。そのためにカシュカの真意が見抜けなかったのかと考えると、悔しくて仕方がなかった。


 カシュカはミランダの視線に気づいて、スカーフを広げて見せた。


「僕の曾祖母は加護の能力を持っていたそうです。とはいえ、刺繍にまじない程度の力を込めるだけなのですが……」


 カシュカは悲しげに目を伏せた。


「このスカーフの力は微力で、国境の町を襲った隣国の部隊から両親の命を守ってくれなかった。だけど、今回は竜王の花嫁が持つ能力を防いでくれました。これもすべて、竜の導きとしか思えない」


 カシュカは信奉者らしき陶酔した眼差しでスカーフを見ている。


 ミランダは性別も目的もすべてが嘘だったカシュカへの不信感でいっぱいだったが、両親を失った酷い過去には同情してしまう。まだ十五歳の少年が侵略される自国を憂いて、もしくは隣国への復讐のためか、神話に縋って竜の復活を信じているのだ。


 悲しい顔になるミランダを励ますように、カシュカは力強く続けた。


「竜はあくまで神話であって、この国に実在しないと思っていますか? 竜は本当に眠っているのです。恐ろしく巨大な竜が。きっと竜王様なら、その眠りを目醒めさせることができるはずなのです」


 ミランダはカシュカの確信的な言葉が嘘ではないように感じた。カシュカが竜を語る時、頭上の黒い炎は綺麗に消えるのだ。

 ルシアンが接触することでその竜が目醒め、ガレナ王国を守ってくれるなら、カシュカと同じようにミランダも希望が持てる。


 だが……。


 ミランダは対面に座る男二人を横目で見た。

 悪意の炎をモヤモヤと現しながらこちらを凝視する眼は狂信的な光を宿していて、不穏な予感を覚えずにはいられなかった。


「カシュカさん。ならば何故、ルシアン様に直接お願いしなかったのですか? こんな方法を取らなくても……」


 カシュカは言いにくそうに答えた。


「ガレナ王に知られるわけにはいかなかったのです。竜神話派の代表であるシダ様は、ガレナ王の政策では国を救えないとお考えなのです。勿論、僕は孤児になった自分を雇ってくれたガレナ王に感謝をしていますが、シダ様は両親が惨殺された時に瀕死だった僕を保護してくださった恩人です。僕はその御恩に報いたいのです」


 ミランダは竜神話を信奉する団体がガレナ王政と対立的な関係にあると考え、より不安が大きくなった。

 カシュカがどこまでそのシダという代表の考えを理解しているかわからないが、もしかしたらシダには竜を使って王政を転覆する目的があるのかもしれない。


 ガレナ王に招待されたルシアンがそんな怪しい団体に協力するとは思えず、ミランダは誘き寄せの餌になってしまった自分を改めて悔いた。

第2巻発売を記念して、毎日更新中!

「生贄にされた私を花嫁が来た!と竜王様が勘違いしています」2巻電子書籍をよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ