28 麻袋の中で
ホテルの裏口に続く狭い通路の中で、ミランダの抵抗は呆気なく終わった。
カシュカの頭上に燃え盛る黒いモヤモヤに注目しているうちに、いつの間にか通路の脇道に隠れていたカシュカの仲間に後ろから麻袋を被せられて、その上からグルグルに縛られた挙句に担がれたのだ。
さらには裏口の路地に用意されていた馬車にあっさりと放り込まれて、今、ミランダは麻袋を被ったまま、走る馬車の中に座っていた。
「……」
ショック状態で無言になったミランダの縄が解かれて、麻袋がズボッと外された。その扱いはまるで自分が芋や人参になったようで屈辱的だった。
「乱暴に運んでしまってすみません。お怪我はありませんでした?」
カシュカはスカーフを被って黒いモヤを隠し、以前と同じように丁寧に会話をした。
だが、ミランダは以前と違う声のトーンに気づいた。少し落ち着いて低くなっているのだ。
「え……カシュカさんはひょっとして……」
「はい。僕は男です。騙してごめんなさい」
普段は高い声を無理に出して少女を偽っていたのか、カシュカはチュニックの詰襟を緩めて喉を摩った。
ミランダの隣にカシュカが座り、正面には男が二人座っている。揃いの黒い服を着てスカーフで顔を殆ど隠しているが、不躾までにミランダを凝視しているのがわかる。男たちの頭上には黒い炎のモヤモヤが色濃く見えていて、悪意があるのは確かだった。
ミランダは途端に恐怖に駆られて、椅子から腰を上げた。だが馬車の揺れは酷く、すぐに椅子に尻餅をついてカシュカが慌てて横から支えた。
「危ないです。山道が険しいので座っていてください」
「ど、どこへ向かっているんですか? 何故、私を連れて?」
パニックになるミランダを落ち着かせようと、カシュカはいつも通りの口調で宥めた。
「ご安心ください。奥様に決して乱暴はしません。竜王様と合流して用が済んだら、必ず無事に帰しますから」
ミランダは愕然とした。
自分はルシアンを誘き寄せるための餌として使われているのだと気づき、歯噛みをする。自分の無用心さでルシアンに迷惑を掛け、それどころかルシアンの身を危険に晒してしまうのではないかと、絶望的な気持ちになった。
「ルシアン様にいったい何を!? 何の恨みがあるのです!?」
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