19 豪華絢爛な宴
それからしばらくの後。
お茶の席に戻ると、ミランダはやっとルシアンの前に姿を現した。
「おお……ミランダ……!?」
長い時をソワソワと待ちわびたルシアンは、目前に立つ湯上がりのミランダに目を輝かせた。
ミランダの薔薇色の髪も白い肌もより艶やかになって、頬や爪先までピンクに色付いていた。美しい民族衣装を纏った身体は芳しい花の香りに包まれて、ミランダの可憐なイメージは別人のように大人っぽく魅惑的に見えた。
「ルシアン様。お待たせしました」
着慣れない服に照れて頬を染める姿に、ルシアンは時が止まったように釘付けとなった。
「美しい……なんて麗しさだ。まるで異国の姫君……いや、花の妖精か?」
呆然と譫言を呟きながら見惚れ続けるルシアンに、ミランダの後ろに控える侍女たちはクスクスと笑いを堪えている。
ミランダは肩にかかる半透明のベールを手で掬って見せた。
「美しい絹ですね。肌が透けているのでちょっと恥ずかしいですが」
「あぁ、天界の衣のようだ。天女が舞い降りたのだ……」
幻覚に嵌っているうちに、ルシアンは侍女たちに包囲されていた。
「さあさあ、竜王様。次は竜王様のお風呂の番ですよ。浴室に行きましょう」
言いながら既に服に手が掛かっていて、脱がされかけてようやくルシアンは幻覚から戻ってきた。
「いや、俺はいい! 自分で洗うし、自分で風呂に入るから!」
「そんなことをおっしゃらず、せっかくですから」
ルシアンは侍女たちの押しの強さに真っ青になってアルルを呼んだ。
「アルル! 風呂に入るぞ! プルートもだ!」
「はいっ! ルシアン様!」
「ウムゥ!」
走って来たアルルとプルートを小脇に抱えると、ルシアンは侍女たちを振り返った。
「竜王の入浴は女人禁制だ! 絶対に覗いてはならぬぞ!」
まるで神話の一説のような警告をして、浴室に逃げて行った。
♢♢♢
大きな月が空に昇る頃。竜族一行は王宮で行われる夕食の宴に招待された。
広々とした宴の席は華やかな音楽に包まれて、ガレナ王国の民族楽器に合わせて踊る美女たちの幻想的な舞で迎えられた。
見るものすべてが美しくて、ミランダは夢心地だった。
目前には趣向を凝らした宮廷料理が大きな皿に盛られて運ばれてくる。テーブルの上に次々と大輪の花が咲くようだった。
夢中で料理を眺めながら隣を見ると、ルシアンがこの国の王子様のような民族衣装を着て座っている。上質な黒の生地に黄金の刺繍で竜が描かれていて、同じ色の瞳によく似合う。夜空色の髪も一部が編まれて美しく飾られていた。
ますます凛々しく見える横顔に、ミランダは何度も同じ台詞を呟いていた。
「ルシアン様。凛々しいですわ。素敵です」
「ありがとう。だが些か派手すぎないか?」
「いいえ。竜王様の威厳が凄いです」
ミランダの語彙力が退化しているので、ルシアンは笑いを溢した。
反対側に座るアルルも小さな王子様のように着飾って、抱っこされているプルートは頭や首に黄金や貴石を飾られて光り輝いている。
ミランダは異世界に迷い込んだような、お伽話の主人公になったような気持ちになって惚けていたが、目前に置かれた新しい皿を見た途端に、座席から小さく飛び上がった。
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