16 豪快なガレナ王
ガレナ王国の宮廷は聞きしに勝る絢爛さだった。
東と西の大陸の文化が混ざり合うオリエンタルなデザインの建築は黄金の飾りで綾取られ、贅沢に色とりどりの鉱物が埋め込まれている。
眩しい宮殿の内部にミランダもアルルもプルートも、ぽかんと口を開けて天井を仰いだ。高い天井には見事な竜が描かれている。
通された広間にはズラリと使用人が並んで竜族一行を迎え、これまた絢爛な宝飾と織物に身を包んだガレナ王が待ち受けていた。
「おお~! 親愛なる新生竜王様!!」
ガレナ王はルシアンの顔を見るなり興奮して駆け寄り、早口で賛辞を述べながら力強く両手で握手をした。
ガレナ王の両隣には妃とみられる美しい女性が五人はいて、それぞれが嬉しそうに笑みを浮かべている。
一夫多妻制の国らしい光景に、ルシアンは気圧されていた。
「う、うむ。お目にかかれて光栄だ。ガレナの王よ」
ガレナ語での挨拶にガレナ王はより興奮し、ルシアンは早口すぎる会話の半分も理解できずに苦笑いをした。
すると王の横から、救いの手が現れた。
「『新生竜王様は先代竜王様のように威厳のある方だ。何よりもその凛々しくも美しい見目に、我が国の美女たちは夢中になっている!』と申されています」
竜族一行は流暢な通訳に驚いて王の隣を見た。
小柄で目鼻立ちのクッキリとした可愛い女の子が、慎ましくお辞儀をしている。
「初めまして、竜王様。そしてご家族の皆様。私は通訳を務めさせていただきます、カシュカ・ムトゥと申します」
「カシュカ殿。俺は竜族の王、ルシアン・ドラゴニアだ。よろしく頼む」
ルシアンの隣で王の勢いに押されていたミランダは、やっと会話が通じることにホッとした。
「通訳してくださって助かるわ。私は竜王の妻……ミランダ・ドラゴニアです」
優雅にカーテシーをしながら、ミランダは妻と自称した上に竜王のラストネームを名乗ることに照れて頬を染めた。
「僕は竜王様の配下でアルル・ドラゴニア。そしてこの子は竜のプルートです」
ガレナ王と王妃たち、そして通訳のカシュカはアルルの角に注目し、さらにプルートを見て「おぉ」と声を上げた。
「竜王様と奥様、竜族の民と本物の竜にも会えるとは! 何て素晴らしいのじゃ!」
王様の感動はカシュカが訳してくれた。
朗らかな対面の場だが、ミランダは王の後ろにはさらに大勢の美女たちが控えており、やたらとルシアンに艶やかな笑みや色っぽい目線を送っているのが気になって仕方がなかった。
そんなミランダのやきもきをルシアンは察して、咳払いをした。
「ところでガレナ王よ。俺は妻のミランダとは結婚式を挙げたばかりで新婚なのだ。竜王の妻はただ一人と決まっているので、お申し出いただいたハーレムはご遠慮願いたい」
手紙で伝えたお断りと同じ内容の念を押した。
しかしガレナ王は目を丸くした後に大笑いした。
「ガハハ! 何をおっしゃる! 先代の竜王様は我が国にハーレムを持っていたし、世界中に恋人がいたと知っておりますぞ! 我々は竜王様のお目に留まる美女を揃えております! どうぞどうぞ遠慮せずに!」
ルシアンは呆れたようにこめかみを手で押さえ、ミランダは目を丸くした。どうやら先代竜王の豪胆な女遊びの印象が強すぎて、ガレナ王は〝竜王はハーレム好きである〟と思い込んでいるようだ。
後ろに控えるハーレム隊の美女たちも爛々とした顔で頷いている。
収拾がつかない勢いにルシアンは一呼吸置くと、大きな声のガレナ王を上回る大声で場を制した。
「竜王ルシアンの妻はミランダただ一人である! 俺は妻だけを愛すると竜神に誓っている!!」
胸に手を当てて姿勢を正す姿は毅然としていて、黄金の瞳が鋭く煌めいていた。説得力のある意思の表れに、ガレナ王はやっと納得したようだった。
「なんと! 新生竜王様は一途な愛妻家でらっしゃる!? これは失礼をした!」
控えの美女たちは落胆した様子だが何故か大きな拍手が湧き起こり、ルシアンとミランダは祝福の言葉を沢山受け取った。
ルシアンはミランダの肩を抱いて礼を述べ、ミランダはルシアンだけでなく、皆に竜王の花嫁として受け入れてもらえたことに大きな幸せを感じていた。
新婚旅行として最善のムードで盛り上がった面会に、アルルも胸を撫で下ろした。
新作の連載が完結しました。お読みいただけたら嬉しいです!
「宮廷魔術師の専属メイド 〜不吉と虐げられた令嬢ですが、なぜか寵愛されています〜」
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