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13 船上の偵察

 客室に運んでもらった食事を済ませた後、ワインを飲んでいるルシアンを置いて、ミランダとアルルは船内を探索しに出た。


 豪華な客船には各国の貴族が旅行や帰国のために乗船していて、着飾った人々がラウンジやレストランで寛いでいた。

 ガレナ王国の民族衣装を着た者もいれば、西大陸のドレス姿の貴婦人や正装した紳士もいる。


 ミランダはルシアンの代わりにユークレイスの国民を探してみたが、外見だけでは誰がどの国の者かはわからなかった。


 人気のない廊下まで来ると、手を繋いでいるアルルが小声で質問した。


「お妃様? わざわざ透明になって船内を偵察しなくても良いのでは?」

「アルル君。透明の能力を使わせてごめんなさいね」


 ミランダはアルルに頼んで、透明の姿になってウロウロしていた。


「お妃様もベリルの国民に会うのがお嫌ですか?」

「いいえ。私はルシアン様に無実を証明して貰えたから……ただ、船内に悪者がいないか偵察したかったの」


 透明のままのアルルが歩みを止めて、こちらを見上げたのがわかった。


「あの黒いモヤモヤですか!?」

「ええ。悪意のモヤが頭上に見える人がいないか、探してみたくて」

「なるほど。お妃様の能力は事前に悪事を働く人を見つけられますもんね。便利です!」

「でも、特別悪い人はいなかったわ。皆、純粋に旅行を楽しんでいるみたい」

「それでは、船内で泥棒をしたり、船ジャックを(たくら)む犯罪者はいなかったということで安心ですね」

「うふふ。そうね」



 二人が安心して客室に戻って来ると、ルシアンは窓辺で夜の海を眺めながら片手でプルートを抱き、片手で本を開いていた。


「おかえり。船内の探索は楽しかったか?」

「はい。とても平和でしたわ」

「それは良かった」


 ミランダがルシアンの隣に座って本を覗き込むと、それは〝異国の竜の物語〟だった。


「まあ。本を持って来てたんですね」

「ああ。アルルがな」


 アルルはニコニコしてこちらにやって来た。


「だって、本の舞台の国に行くんですよ? ガレナ王国の景色と本の挿絵を見比べて楽しむんです! それで今夜、ルシアン様にお願いがあるのですが……」


 ルシアンはその先を見透かして続きを被せた。


「寝る時に読み聞かせしてほしい、だろ?」

「はい! お願いします!」



 客室にある二つのベッドの一つにはルシアンとアルルが、もう片方にはミランダとプルートが潜り込んで、じっと耳をすませた。


 アルルのリクエストに応えて、ルシアンが〝異国の竜の物語〟を朗読してくれていた。以前読んでもらった一巻の冒頭だが、何度聞いても心に沁み渡るようで、ミランダは小さく溜息を吐いた。


 遠く聞こえる波音と丸い窓から射し込む月明かりの中にルシアンの穏やかなバリトンの声が映えて、物語への没入感が増していた。


「ウム~……」


 腕の中のプルートはあっという間に眠りについて、その寝息に誘われるように、ミランダは小さな灯りに照らされたルシアンの横顔を眺めながら眠りについた。


 しばらく後に目を覚ますと、客室は深夜になっていた。

 ミランダがベッドの中で周囲を見回すと、プルートがすぐ横で眠り、隣のベッドではアルルが熟睡している。


 だが、そこにルシアンはいなかった。


「……あら? ルシアン様?」


 ミランダはプルートを寝かせたままマントを羽織って、客室の外にルシアンを探しに出た。


 船内の乗客達は寝静まり、廊下は波の音だけが聞こえる。



 甲板に出ると夜の海に三日月が青白く輝いていて、波が月光を反射していた。船首の方に向かって歩くと、星空の下に(なび)く夜空色の髪のシルエットを見つけた。


「ルシアン様……」

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