表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

54/104

10 竜族の番

 それからしばらくして。


 僕の怪我は完治して、竜に騎乗する訓練も再開しました。

 竜王は僕が転落を恐れてもう乗らないと思っていたようですが、僕は()りませんでした。スピカと共に空を飛ぶ快感は変わらず僕を夢中にさせて、スピカとの(きずな)も深まっていったのです。


「スピカ。今日も可愛いですね。スピカは美人な竜ですね」


 僕がスピカを褒めながら身体を拭いていると、後ろで見ていた竜王は呆れているようでした。


「アルルはスピカに特別な感情があるようだが……いくら竜族とはいえ、竜とは(つがい)になれないぞ」


 僕は吹き出しました。どうやら竜王は、僕が本気でスピカに恋をしていると疑っているようです。


(つがい)って、せめて結婚と言ってくださいよ。スピカは女の子だから、いっぱい()めてるだけじゃないですか」

「確かに(メス)だが……お姉さまの代わりってことか?」


 僕はドキリとして、赤面しました。


「お、お姉さまのこと、ルシアン様にお話しましたっけ?」

「怪我で意識を失った時も、寝言でも、ずっとお姉さまを呼んでいたぞ。甘えた声でな」


 僕は茹蛸(ゆでだこ)のように真っ赤になりました。


「ぼ、僕は兄たちとはあまり仲良くなくて、三人いるお姉さまに可愛がってもらったのです」


 竜王は目を丸くしました。


「姉が三人も?」

「ルシアン様には姉や妹は……」


 竜王は首を振り、興味深げに質問しました。


「お姉さまはそんなに優しかったのか?」

「それはもう……僕は代わる代わるちやほやされて。お姉さまたちは柔らかいし、良い匂いだし」


 思わず本音を溢してハッと口を塞ぎましたが、竜王はポカンと口を開けて僕を見つめていました。


「柔らかく……良い匂い……」


 ああ、この人は女性に可愛がられたことが無いどころか、免疫も無いのでしょうか。僕はまた、涙が(にじ)んできました。

 竜王は戸惑うように目線を外しました。


「先代の竜王も言っていた。女は柔らかく、良い匂いがするって。とびきり甘やかすものだと」

「あ、甘やかす? 確かに、優しくすべきですね」

「先代は女好きで世界中に愛人がいた」

「そうだったんですね。じゃあ、ルシアン様もいずれは……」

「いや……俺の近くにいてくれるなら、番は一人でいい。一人だけを甘やかして、優しくして……」


 言ってから、竜王は我に返って真っ赤になって、その顔を隠すように城に戻ってしまいました。


 なんたるウブな反応でしょうか。

 僕は心の底から、竜王を優しく愛してくれる(つがい)……女性が現れますようにと、天に願いました。


「神様、竜神様。どうか竜王様に沢山の愛を与えて、幸せにしてください」



 ――これは竜王様のもとに最愛の花嫁が現れる、三年前のお話です。


 僕は懐かしい日記を閉じて部屋を出ると、階段を降りました。


 城のロビーでは白昼から、ルシアン様とお妃様がイチャイチャと抱きしめあったり、小鳥のようにキスをしたりしています。


 僕に見られているのも気づかずに夢中で愛を(いつく)しむ竜王を眺めて、僕もにやにやとしました。

 神様か竜神様かわかりませんが、僕の願いは叶ったのです。


 僕は邪魔をしないように透明になって、ふたりの後ろを通って外に出ました。


 ミランダ様というお妃様はそれはもう、優しくて可愛らしくて美しくて。ルシアン様をデレデレにしてしまう、最強の花嫁です。

 それに柔らかくて良い匂いで……僕はお妃様に抱っこされてスピカに乗ると、まるでお姉さまがいるようで幸せです。でも、この気持ちは竜王に知られると嫉妬でぶっ飛ばされそうなので、僕だけの秘密にしておきます。


今日も竜族の空は晴れ渡り、森は愛で満ちています。


「さぁスピカ。一緒にどこへ行きましょうか」




アルルの竜族記 おわり

番外編「アルルの竜族記」はこれで完結となります。ありがとうございました!

今後の物語は登場人物の紹介を挟み、第二章に続きますので「ブックマークに追加」を押して見守って頂けたら幸いです!

そして少しでも楽しんでいただけましたら、広告下の★★★★★印のボタンで評価をお願いします!皆様のご期待に添えるよう、執筆の参考にさせて頂きます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ