06 竜王の涙の雨
夜は片付いたキッチンで、卵を調理しました。
ガン! ゴン! と石で叩きつけると頑強な殻が割れました。ボウルに流し込んだ卵は、見たことがないような濃厚な色と艶です。
「これが怪鳥の卵……」
僕が見学する横で、竜王は塩、胡椒と森で採ったハーブを加えて、攪拌しました。
「ルシアン様はお料理ができるんですか?」
「先代がやっていたのを真似ているだけだ」
料理ができるなら野菜を焼却などせずに、ちゃんとごはんを食べればいいのに……と思いましたが、竜王の思い詰めたような顔を見て質問はやめました。
釜戸に薪を重ねた後に、竜王は人差し指を翳して、チカッ! と静電気のような青い光を放ちました。ボワッと薪が炎に包まれて、僕は思わず叫びました。
「ルシアン様は、火付けの能力をお持ちなのですね!?」
竜王は乾いた笑いを浮かべました。
「これは小さな雷だ。竜王は代々、天候を操作する能力と決まっている」
「え……それじゃあ」
僕は窓の外の豪雨に目をやりました。嵐は収まったものの、雨は一日中降っています。
「……」
無言の拒絶を感じたので、僕は黙りました。竜王の金色の瞳には炎が映って揺れています。この城に降りしきる雨は、竜王の涙なのだと僕は察したのです。
怪鳥の卵焼きは濃厚でとろりと甘く、ふわふわと至高の味でした。
こんなに美味しい卵焼きは公爵家でも食べたことがありません。シンプルな調味料が素材の旨味を引き出して、口あたりの良い半熟ぶりは火加減のおかげでしょうか。
身体が栄養で満ちていくのを感じて、それは竜王も一緒のようです。青白かった顔に血の気が戻り、その顔は出会った時よりも凛としていました。
僕は美味な感動とともに、あの巣があった場所を思い出しました。あんな過酷な所に隠されていたのは、怪鳥が卵を守るためなんだと、心にズシリと感じました。
「僕たち、卵を盗んじゃいましたね……」
思わず呟いた僕に、竜王は頷きました。
「我々は生きるために、森から卵や肉や果物……たくさんの食べ物をいただいている。だからせめて生態系を壊さないように、根こそぎ獲ってはいけないのだ」
3つあった卵を全部獲らなかった理由がわかりました。
「そっか……僕、感謝して食べます」
公爵家にいた頃、好奇心で調理場に忍び込んだことは何度もありますが、食べ物を狩ったり採ったりするのは見たことがなかったのです。神妙な顔になる僕に、竜王は優しく微笑んでいました。
この怪鳥の卵をきっかけに、釜戸で野菜を焼いたり煮たりするようになり、竜王城のキッチンは復活したのです。
竜王は「子供に栄養が必要だから」という理由で図書室にある調理の本を読み漁り、料理を習得していったのでした。
一方で竜の扱い方や森の地理も教えてくれて。竜王は相変わらず覇気は無いものの、律儀に僕の面倒を見てくださったのです。




