05 怪鳥の巨大卵
ガタン、バタンと一日中、竜王は片付けに励んでいました。キッチンが広くなって、応接間も何とかスペースができてきたようです。
埃だらけの部屋をふたりで掃除すると、竜王はテーブルに本を広げました。
「文字は読めるのか?」
竜王の質問に僕はキョトンとしました。
「読めるし、書けますよ。何なら外国語も少しできますよ」
「えっ? お前……小さいのに凄いな」
「僕は公爵家で天才児と言われてましたからね。文章を記憶するのが得意なんです」
僕が暗唱した竜の物語を外国語で聞かせると、竜王は感心しました。
「じゃあ、別の科目にするか」
「?」
どうやら竜王は教師のように僕の面倒を見ないといけないと思っているようで、無気力な青白い顔をしつつも授業をしてくれました。
「ふわーっ! わぁーい!」
僕は竜に乗っています! 飛行の授業です!
はしゃぐ僕を竜王は後ろからしっかりと捕まえて、竜の手綱を持っています。青い竜は滑らかに空を滑って、森を自由に飛びまわりました。
緑の森が、岩場の崖が、そこを流れ落ちる滝が、次から次へと景色を変えて、僕は空の飛行に夢中になりました。
「まずは飛ぶ事に慣れるんだ……と言いたかったが、もう楽しんでいるみたいだな」
竜王は僕が怯えるかと思っていたようです。
「僕はずっと、竜に乗ってみたかったんです! 僕も竜を運転したい!」
「まだダメだ。竜と意思疎通ができなければ、危ないからな」
アルルは言われてみて、竜王が持っている手綱はただの命綱として利用していると気づきました。
「ルシアン様は、どうやって竜をコントロールしてるんですか?」
「右へ行け、上昇しろと、脳内で指令を出すのだ」
「テレパシーってこと!?」
「竜族の角はそのためにある」
僕の角は公爵家にいた頃、皆を悲しませた原因だったけど、本当は竜族にとって大切な器官なのだと知って嬉しくなりました。いいえ、それどころか誇らしい気持ちです。何より、竜王とお揃いの物が僕にも付いてるなんて……。僕が振り返って笑顔で竜王を見ると、竜王も笑っていました。
「あっ! あれを見てください! 大きな鳥の巣です」
「ああ。あれは怪鳥の巣だ。人が近寄れない崖の壁に作る」
「行ってみましょうよ! 卵があるかも!」
「バカだな。親鳥に見つかったら、竜といえどもただでは済まないぞ」
「見つからなければいいのですね?」
僕は竜王を驚かせようと、透明になってみせました。
「うわ!?」
竜王は突然消えた僕が竜から落下したと思ったのか、予想以上に驚いて、竜ごと数メートル急下降しました。
「わわわ! 僕はここにいます! 落ちてませんよ!」
「お、お前、透明になれるのか!?」
「はい。生まれつきの特技です。それに、透明にできるのは僕だけじゃありません」
竜も竜王も透明にすると、竜王は動揺して飛行が乱れました。
「凄い能力を持っているな!」
竜王の素直なリアクションと褒め言葉に、僕はご満悦になりました。
竜も僕たちも透明のまま崖の巣に近づくと、大きな巣の中には大きな卵が3つあって、僕はスリルと好奇心で興奮しました。竜が竜王のテレパシーに従っているのか、器用に卵を一個手に取ると、素早く巣から離れて高速で逃げ飛びました。
僕はこんなにハラハラしたのは生まれて初めてで、声を押さえたまま内心で歓声を上げました。