04 焦げたブランチ
「それで……さっきまでの元気はどうしたんだ?」
竜王はベッドの上から、呆れてこちらを見ています。
僕は部屋を当てがわれて、寝巻きのシャツもお借りしたのですが、枕を持って竜王のお部屋を訪ねてしまいました。
「その……お恥ずかしいのですが、僕……」
「ひとりで眠れないのか?」
「はい……」
竜王は「ハァ~」と溜息を吐いて、ポンポンとベッドを叩きました。
僕はスゴスゴと竜王のベッドによじ登って、ちんまりと肩を竦めて隣に横になりました。
「アルルは子どもだな」
「はい……6歳なので」
フフン、と意地悪そうに笑う竜王はこちらに顔を向けていて、僕は金色の瞳に魅入りました。何故か竜王の瞳を見ていると安心するような、頼もしいような気がするのです。本人は覇気が無くてヒョロッとしているのですが……。
竜王は灯りを消すと静かに仰向けになって、しばらくすると眠っているようでした。もしかしたら狸寝入りかもしれませんが。僕は寝たふりをして少しずつ竜王に近づくと、寝返りを装って腕にしがみ付きました。
「……」
思った通り凄く安心して、僕はあっという間に眠りに落ちたのでした。
♢♢♢
何やら騒がしい音がして、僕は目を覚ましました。
竜王の腕にしがみ付いていたはずが、枕を抱きしめて眠っていたようです。身代わりの術でしょうか。
「おはようございます」
騒がしい階下に降りてみると、竜王がキッチンから物を運び出していました。どうやらキッチンも物置状態になっていたようです。
「ルシアン様。大掃除ですか?」
「ああ。朝ごはんを作ろうと思ったが……今日はまだ無理だ」
竜王は未だ雑然としたキッチンを見て舌打ちをすると、玄関に向かいました。
「仕方無い。外で食べるぞ」
「え? レストランでも行くんですか?」
竜王が無言で扉を開けると、昨晩大嵐だった城の外は雨は降っているものの、風がやんでいました。
「あ、嵐が止みましたね。台風がどこかへ行ったのでしょうか?」
「……うむ……」
竜王は驚いた顔で空を見上げています。
傘を差して僕を連れて外に出ると、さらに雨の外側に出ました。城の上だけに雨が降っているのは不思議です。
城の外には、竜が三頭。竜王を待っていました。それぞれの手に、南瓜や芋などの野菜や果物を持っています。
「うわぁ、竜だ! 格好いい!」
興奮する僕を他所に、竜王は竜に野菜を地面に置かせると、「スコーピオ」と呼ばれる赤い竜を向いて何やら指示をしました。
ゴオ!
竜が炎を吹いて、ひとかたまりに置いた野菜をまとめて炎上させました。
「わぁ!?」
初めて見た火竜に僕は感激しましたが、野菜がまるでゴミの焼却のように燃やされて、衝撃を受けました。美味しそうな野菜を、まさか処分してしまうなんて。
炎が収まると竜王はしゃがんで、「熱……」と言いながら、なんと焦げた野菜を拾って口に入れたのです。僕は再び衝撃を受けました。
「え? あ、朝ごはん……?」
「うん。まあ、少し焦げてるけどイケるぞ」
僕は目眩がしました。ダメです、この人。どんな生活をしているんでしょう。焼却処分した焦げ野菜を拾って食べるなんて、人として、いえ、竜王として終わっています。
僕は同情から涙がちびりそうなのを我慢して、粉々になった南瓜を拾って食べました。おや? 意外とほくほくして美味しいです。
「はい。イケますね、案外……」
竜王が僕の顔をジッと見ているので、僕は何個も食べました。ほくほくしている部分を探して竜王にもお勧めすると、芋の欠片を受け取って竜王は呟きました。
「次は……もっとマシなの食べさせるから」