03 竜王城の惨状
「大丈夫か?」
根暗の少年はお城の中で、温かいお茶を淹れてくれました。
僕は泣きすぎて頭が呆然として、涙も鼻水も垂らしたままソファに沈んでいました。
少年は森の中にあるお城まで僕をおんぶして連れて来てくれたのですが、僕がパニックになっていたので、ずっと困惑しています。
「お前、ユークレイス王国に捨てられた竜族か?」
少年が確かめるように聞いてきて、僕はまた涙が溢れました。号泣の気配を察したのか、少年は慌てて言葉を被せてきました。
「俺も王国に捨てられた、竜族の子どもだ」
同じ竜族で、しかも同じ捨て子である少年に僕は縋るように、必死で自己紹介をしました。
「ぼ、ぼぐはアルルです。ろ、6歳です」
「俺はルシアン・ドラゴニア。竜族の王にして、この竜王城の主だ」
「え?」
僕は正直、拍子抜けしました。竜王というのは、喋る竜だと思っていたからです。この、根暗で青白くて、まだ少年の人間っぽいのが……竜王……?
唖然として見上げる僕の視線から目を逸らして、自称竜王は言いました。
「先代の竜王は2年前に死んだ……だから俺が跡を継いだんだ」
「……」
竜王というのは、お店を継ぐ、みたいな感じなのでしょうか。でも、前髪で隠れていてよく見えなかったけど、少年の瞳は確かに黄金色をしていて、あの青い竜と、同じ色をしています。
中性的な顔立ちで痩せて顔色も悪いので、とても竜王的な力があるとは思えませんが……。
「あ、あの、ご飯食べてますか?」
「え?」
僕は思わず、鞄の中の林檎を差し出しました。
「栄養が足りないんじゃないかと。あの、お城も酷い状態なので」
古めかしくも立派な竜王城の中には、家具や美術品が散乱していて、普通の状態ではありませんでした。灯りはろくに点いてないし、外は暴風雨が吹き荒れているし、少年がまともな物を食べているようには思えません。
「いや……食べているが」
「何をです!? ダメですよ、育ち盛りなのに!」
「育ち盛りはお前だろ……っていうか、急に元気になったな」
狼狽る少年、いえ、竜王を前に、僕はソファから飛び降りました。
「ひとりぼっちで暗いとこにいたら、どんどん元気が無くなっちゃいます!」
僕はテーブルの上の燭台を取って、部屋中にある燭台の蝋燭に点けて回りました。
室内はどんどん明るくなって、物置みたいな雑多な惨状が明らかになっていきます。
そして、ポカンと口を開けて僕を見ている竜王の姿も明るく照らされました。
夜空色の髪と角と黄金色の瞳が露わになって、僕はハッとしたのです。
角が、いえ、頭の中でしょうか? ビビビと電気が流れたみたいになって、この人が竜王様であると、何故か確信したのです。その瞬間に、泣いていたはずの僕は急に力が湧いて、何かの使命を感じました。
「ルシアン竜王様。僕は竜族で貴方の配下です」
毅然とした顔になって従者のように胸に手を当てて跪く僕を、竜王は目を丸くして凝視しています。
「な、何だ急に? 配下って子供の癖に……」
竜王はプ、と吹き出すと、アハハハ! と声を出して笑いました。
僕も笑いました。滑稽なのは承知でしたが、本能に従ってこうするしかなかったのです。