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【閑話】メイド集団の襲来(後編)

 うららかなお昼の森で。

 木漏れ日の中、敷布をひいて。クッションを置いて。

 ルシアンとアルルに挟まれて、ミランダは座った。


「これって、ピクニック……」


 メアリーに渡された籠の中には、大量のサンドイッチとデザートが入っていた。色とりどりで美味しそうだ。


「私のお仕事って、ピクニックですか?」


 ミランダはルシアンを見上げて、不安そうに尋ねる。

 3人がピクニック・ランチに興じている間に、竜王城では大掛かりな掃除が行われていた。


「ああ。花嫁のお仕事は、俺の隣にいることだからな」


 ルシアンは嬉しそうに身を寄せて、ミランダは近い距離に照れて赤面した。

 アルルは紅茶を淹れて渡してくれる。


「どうせ城にいても、ぼっちゃまは邪魔です! って追い出されます。メアリーさんは完璧主義ですから」

「プロメイドさんがお掃除してたから、物が溢れていてもお城は綺麗だったのね」

「流石に僕とルシアン様であの広大な城の手入れはできないので。週に何度かメアリーさんたちが来ていたのですが、ルシアン様が急に暇を出したんですよ」


 アルルはルシアンを見上げたが、ルシアンはそっぽを向いている。


「花嫁殿がメアリーたちの勢いにビックリしちゃうからな」


 過保護ぶっているが、本当は「ぼっちゃま」と呼ばれて怒られる姿を見られたくなかったのではと考えて、ミランダはまた笑いが込み上げていた。


「メアリーさんたちは普通のメイドさんじゃないっていうか、迫力が凄いですね」

「ああ。先代の竜王から信頼されて、ずっと仕えているからな。俺より城に詳しいし、プロメイドとしてのプライドが高いんだ」


 そう言いながらルシアンは籠から葡萄を一粒取って、ミランダの唇に押し当てた。ミランダが恥ずかしそうに口を開けて葡萄を含むのを、ルシアンは愉しそうに眺めている。苺、プディング、カップケーキと次々と食べさせられて、ミランダはあっという間にお腹がいっぱいになった。


(花嫁の仕事って……まるで雛鳥だわ)


 籠が空になるとルシアンとアルルは寝転んで、ミランダもつられて仰向けになった。ふたりに挟まれて青空を見上げる時間は至福で、ミランダは雛鳥らしく微睡んだ。


 それからルシアンと手を繋いで森の中をお散歩して、アルルと一緒にスピカの背中に乗って浮遊しているうちに、メイド集団が竜王城の掃除を終えて庭に出てきた。


「メアリー。ご苦労だったな」


 ルシアンが声をかけると、振り返ったメアリーは瞳を輝かせていた。


「ご苦労なものですか! 物置みたいな城が広々として、なんとも掃除のしやすいこと! 私は久しぶりにスッキリしましたよ!」


 嬉しそうなメアリーに、ルシアンは両手を広げた。


「なぁ、メアリー。この庭に薔薇を植えたいのだが。花嫁みたいな色の薔薇を」

「ええ、ええ! 素晴らしいではありませんか! 早速庭師を呼びましょう。あの酷い雨が止みましたから、庭のお手入れもできますよ。ぼっちゃまがやっと泣き止んでくれて、私は安心しました」

「い、いや、泣いてたわけじゃないんだが……」


 狼狽るルシアンを、ミランダとアルルは顔を見合わせて笑った。


庭の掃除も終わった夕方。メイド達は夕陽に染まる森の中で、次々と竜に乗った。

 ワイルドな集団乗りを背に、メアリーは玄関先で丁寧に挨拶をした。


「それでは、また明後日に伺いますね」


 清掃された城内に見惚れていたミランダは、慌ててメアリーに駆け寄った。


「あの、メアリーさん! お城を綺麗にしてくださって、ありがとうございました! 私のお掃除が不充分だったせいでご迷惑をおかけしてしまって……」


 メアリーは穏やかに首を振り、お辞儀をした。


「ミランダ様のおかげで、この城は本来の姿を取り戻しました。これからも竜王様をどうかお願いしますね」


 メアリーの中で「ぼっちゃま」は初めて「竜王様」に昇格したようだった。

 メイド集団を乗せた竜は空を飛んで、北の方向に帰って行った。


 ミランダはロビーに立ち、見違えるように美しくなった城内を見回した。


「ぼんやりしていた床や家具の色がハッキリしたわ。私は掃除をしている気になって、撫でていただけみたいね」


 アルルは落ち込むミランダを見上げた。


「ルシアン様は、箒を持ってウロウロしているお妃様が可愛い、可愛いって、毎朝物陰から覗いてましたよ? 花嫁のお仕事に大満足だったみたいです」


 竜王による甘すぎる仕事の評価に、ミランダは苦笑いした。

 そんな噂も知らずに、ルシアンが楽しそうにキッチンから現れた。


「メアリーが夕食を用意してくれたぞ! 花嫁を囲んでディナーにしよう!」


 ミランダは花嫁らしく優しく微笑んだ。


「ルシアン様。喜んで」


 日常の中で少しずつ実態が明かされる度に、ミランダは自分の中に、ルシアンへの愛が満ちていくのを感じていた。




閑話 おわり

第一章はこれで完結となります。ありがとうございました!

今後、物語は番外編へ、そして第二章へと続きます。「ブックマークに追加」を押して、見守って頂けたら幸いです。

そして少しでも楽しんでいただけましたら、広告下の★★★★★印のボタンで評価をお願いします!皆様のご期待に添えるよう、執筆の参考にさせて頂きます。

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