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【閑話】メイド集団の襲来(前編)

 爽やかなお天気の朝。

 竜族とミランダは優雅なお茶の時間を過ごしている。


 お花畑で挙げた式の余韻でミランダの頭はまだふわふわとしているが、竜王城は婚前と変わらない日常に戻っていた。


 ミランダは相変わらず客室を寝室としており、自室で寝起きするルシアンと朝に出会い、夜にそれぞれの部屋に戻る生活を続けている。以前と変わった事といえば、「おやすみ」と「おはよう」のキスをするようになったくらいだろうか。いや、「おさんぽ中」も「いってきます」の挨拶も、何度でも……。


 ミランダは好きな人とキスをするだけで気持ちが浮かれて、朝から晩まで口元が緩みっぱなしだった。結婚式を挙げたらルシアンとの距離が急速に変わるのではないかと身構えていたが、意外にもゆるやかに深まる関係は付き合いたての恋人同士のようで、初々しい新婚生活が始まっていた。


 今朝もいつものように、ミランダは正面に座るルシアンの神々しい黄金色の瞳を見つめるが、ルシアンは彼方此方と視線を泳がせている。何か言いたげな顔でティーカップをよそよそしくいじったりして、明らかに様子がおかしい。

 竜王らしからぬ珍しい落ち着きの無さに、ミランダは小首を傾げた。


「ルシアン様? どうかしましたか?」

「ん? いや……今日も花嫁が美しいなと……」


 挙動不審さに拍車がかかる竜王に、紅茶を注いでいたアルルが呆れて突っ込んだ。


「ルシアン様。まだお妃様に言ってなかったんですか?」

「うん、まぁ」

「もう限界なんですから、ダメですよ?」

「確かに……限界だな」


 いったい何の話だかわからず、ミランダはルシアンとアルルの顔を交互に見た。


「限界って、何のこと?」


 不安げなミランダに答えが返る前に突然、玄関の鐘が鳴った。


 リンゴーン♪


「きゃ!?」


 普段鳴ったことの無い鐘に驚いて、ミランダは椅子から飛び上がった。

 アルルは紅茶を置いて席を立つ。


「ほら〜。来ちゃいましたよ、メアリーさん」


 突然出て来た女性の名前に、ミランダは中腰のまま固まった。


「メアリー……さん?」



 アルルが玄関の大きな扉を開けると……。

 女性がひとりどころか、ずらりと5人並んでいた。


 ミランダは誰が訪れたのか気になってアルルの後を追いかけたが、人数と異様な雰囲気に気圧されて、立ち止まった。

 5人の女性は全員同じ服を着ている。

 黒いワンピースに白いエプロン。ショートブーツにレースのカチューシャ。

 そう。メイドさんだ。だが、彼女たちの眼光は鋭い。手には各々、自前の箒やハタキを持って、まるで武器を持つ戦闘集団のような面構えだ。

 中高年のベテラン風のメイド集団の中央には、より厳しい顔をした年配の女性が背筋を伸ばして立っていた。白髪には一切の乱れが無く、磨かれた丸い眼鏡が光っている。


「ルシアンぼっちゃま!!」


 その大きな声に仰反るミランダの真後ろで、ルシアンは返事をした。


「うむ……メアリー。久しぶりだな」

「うむ、じゃありませんよ! 突然来るなと言ったきり、何週間も!! 竜王城が埃まみれじゃありませんか!!」


 メアリーに言われて、ミランダはそっと城内を見回した。

 確かにミランダが初めてここに来た時と比べたら、うっすら汚れているような。


 ミランダなりに花嫁らしく毎日掃除をしていたが、いかんせん侯爵家の箱入りで育ったミランダには掃除の術がわからず、まるで行き届いていなかったようだ。アルルが言っていた「限界」は掃除の事だとわかって、肩を竦めた。


 メアリーはミランダの方を向くと丁寧に挨拶をした。


「お話は伺っております。ぼっちゃまのお妃様になられたお方だと。私はメイド長のメアリーと申します」

「あ、は、初めまして! 私はミランダです」


 2人の挨拶の間に、ルシアンが「コホン」と咳払いをして、割って入った。


「メアリー。その、〝ぼっちゃま〟はいい加減にやめてくれないか」

「まぁ〜、ぼっちゃまはずっと、ぼっちゃまのままじゃないですか!」


 顔を顰めつつも黙るルシアンを見上げて、ミランダは笑いを堪えた。竜王様にも頭が上がらない人物がいるのだと知って、可笑しくなっていた。

 メアリーはズカズカと城内に足を踏み入れて、途中で驚いて立ち止まった。


「なんと……有象無象に溢れた物が、全部無くなっている!?」

「ああ。ミランダの助言で断捨離したんだ」

「あれだけ私が減らせと言っても、ぼっちゃまは聞かなかったのに……」


 メアリーは驚いた顔のまま、ミランダを振り返った。

 ミランダは苦笑いしている。不充分な掃除の方が気になって、負い目を感じていた。


「あの、メアリーさん。私にお掃除の仕方を教えて頂けませんか。私はお掃除が下手みたいで……」

「なりません! お妃様のお仕事ではないですから! 私たちプロメイドにお任せください!」


 メイド集団の5人は通せんぼするように、ズラリと並んだ。

 そしてやたらと大きな籠をズイッと出して、ミランダに手渡した。


「お妃様のお仕事はこちらです。頼みましたよ」


 謎の籠を抱えて、ミランダは目をぱちくりとした。

閑話後編へと続きます!

籠の中身はいったい何でしょう?

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