38 竜王の花嫁
「おかえりなさい!」
アルルが竜王城の玄関を開けて、竜王と花嫁を迎えた。
ふたりはまるで小花が散るような空気の中、ふわふわとした顔で帰って来た。
「ウェディングドレスのお仕立てが上手くいきそうで、良かったですね」
アルルはお茶を淹れながら、スファレ公国でのお仕立ての報告を聞いた。
いかに花嫁のドレス姿が可愛く、美しく、その後のデートが楽しかったか。竜王の舞い上がったテンションに、アルルも嬉しそうに頷いた。
「それで、どこで式を挙げるんです? スファレ公国の教会ですか?」
アルルの問いに、ルシアンもミランダもキョトンとした。
どうやら互いにドレスで頭がいっぱいだったようで、顔を見合わせた。
「そういえば、人間式は教会で挙げるものだな。誓いますか、だからな」
ルシアンの言葉にミランダは笑って、少し考えた。
「竜王様……私は人間式を挙げたい場所があるのですが……」
「おお、花嫁殿の希望通りにするぞ! 盛大に行おうではないか!」
♢♢♢
そうして、盛大な人間式の結婚式の日がやってきた。
ミランダが望んだのは、竜族の森のあの高原のお花畑だった。
丘から見える岩山のパンケーキのような地層と、バニラアイスのような雪の山脈はパフェの景色であり、掛かる虹はプロポーズで貰ったシリウスの宝石で、風に揺れる花々はクレアが作ってくれたウェディングドレスらしい。
ルシアンとの思い出が詰まったこの場所で、竜族に囲まれて式を挙げたいというのが、ミランダの希望だった。
花畑の周りを森中から集まった竜たちが集団で囲んでいて、それは壮大な風景だった。
丘の上では正装をしたルシアンと、神父らしき格好をした仕立て屋のエリオが、花嫁を待って立っている。
「それで……何故、俺が神父役を? 本当にこれでいいのか?」
エリオは聖書を手に、困惑しまくっていた。
「ミランダの望みなのだ。俺と仲良しのエリオにお願いしたいと……仲良しじゃないんだが」
突っ込みどころが満載すぎて、エリオは追求を諦めた。招待客が壮々たる竜の集団という時点で普通ではないので、開き直るしかない。
そうこうするうちに、向こうからベールを被ったミランダがやって来た。
長いベールをアルルとクレアが持っている。
ルシアンは本番のウェディングドレスを見たのは今日が初めてで、また感激が込み上げていた。仕立て屋で試着したドレスよりも、より神秘的なデザインに一新されていた。
風や雲のような柔らかく半透明のレースがスカートを飾って、ミランダが歩くたびに、花弁とともに、ふわりと舞う。
ルシアンには本当に、この地に女神がやって来たように見えた。
見惚れて時が止まったルシアンを他所に、エリオは練習通りに聖書を読み上げた。
意外に様になっている神父に、ふたりは誓いを結んだ。
「「誓います」」
クレアが差し出したクッションの上の指輪を取り、ルシアンはミランダの指に、ミランダはルシアンの指に嵌めた。
「では、誓いのキスを……」
ミランダのベールを上げてからのルシアンの溜めが長すぎて、エリオは突っ込みたいのを我慢して待った。存分に花嫁を眺めて満足したのか、気持ちが高まったのか、式で交わすには熱すぎるキスを交わした。
その瞬間に、これが何かの儀式であると竜たちにもわかったのか、一頭が「クエーッ!」と雄叫びを上げた瞬間に、「キーッ」「クワッ!」と羽ばたきながら合唱を始め、花畑は怪獣に囲まれたコンサート会場のように盛り上がった。
「皆の者、これが竜王の花嫁だ! 付き従え、お守りすると忠誠を誓え!」
ルシアンがミランダを抱えて叫ぶと、竜たちはひれ伏すように、花畑に一斉に突っ伏した。
「わ……わぁ~っ」
タウラスもスピカも、スコーピオも、アリエス、ポラリス、シリウスに、アンタレスまで。
見知った竜も知らない竜も、全員が自分に忠誠を誓う迫力に、ミランダは仰け反った。
アルルとクレアは満面の笑みで籠から花を撒いてお祝いした。
「おめでとうございます! 竜王様、お妃様!」
「おふたりの幸せは我らの幸せです! 竜族万歳!」
竜の咆哮に負けないテンションの祝福に、ルシアンとミランダは顔を見合わせて笑った。
情熱的なキスをもう一度、二度、と重ねて、人間式の結婚式は盛大に幕を閉じた。
大好きなパフェと虹と花と、竜に囲まれて。
ミランダはこれから始まる愛の生活に、胸をときめかせていた。
第一章 おわり
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