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37 竜の森の女神

 それからしばらくの後——。


 やっと決まった方向性に、お針子達はミランダを囲んで拍手をした。デザインを選んだだけなのに労ってくれる優しい女子の園に、ミランダは照れた。


 クレアは興奮してスケッチブックにメモを書き取っている。


「バッチリだわ。絶対、可愛いわ。これにミランダさんがイメージする装飾でデザインすれば、もう完璧な花嫁だわ」

「あ、ありがとうございます。じゃあ、このデザインの方向でと、ルシアン様にもお見せして……」

「まだです!」


 クレアは部屋の端にミランダを連れて行き、鏡の前の椅子に促すと、髪を結いはじめた。


「仮とはいえ、せっかく竜王様にドレス姿をお披露目するんですもの。ドレスに合わせた髪型にしましょう」

「クレアさん。ありがとうございます」


 クレアは鏡越しで、ミランダに微笑んだ。


「ミランダさんのおかげで、竜王様がまたこの街に来てくださるようになって本当に嬉しいわ」

「ルシアン様は、こちらのお店に通われていたのではないのですか?」

「ええ。幼い頃はね……先代の竜王様が亡くなられてからは、ルシアン様はずっとお城に篭ってらしたから。兄と私が森のお城に採寸や納品に行っていたのよ」

「そうだったんですね……」


 ミランダはアルルの言葉を思い出していた。

〝寂しさで、心が壊れてしまった〟と。

 ルシアンを想って悲しげな顔をするミランダの肩に、クレアは優しく手を置いた。


「でも、大丈夫。竜王様にはもう、ミランダさんとアルル君という最愛の家族がいますから。それに、本当はこの街にも、竜王様を陰ながらお慕いする竜族の仲間が潜んでいるんですよ」


 ミランダは驚いて、クレアを見上げた。


「本当に? 竜族の子は、みんな森のお城に捨てられるって、ルシアン様が……」

「ええ。王族や公族の子は家族ごと逃げるわけにいかないから、森にこっそり捨てられるそうね。庶民は竜族の子が生まれると、ユークレイス王国の弾圧を避けて、このスファレ公国に逃げてくるのよ」


 クレアは自分のお団子頭の片方を解いて、ミランダにそっと見せた。

 鏡には、金髪と同じ色の小さな金の角が輝いていた。

 ミランダは思わず目を見開いた。


「竜族……!?」

「そう。不思議でしょう? 兄や両親には無いのに、祖父と私だけ角を持っていたの。竜族は先祖返りのように、ユークレイスの国民の中から突然に生まれるのよ」


 ミランダは初めてルシアンとクレアが並んだ時に、不思議と親密な関係に見えた理由がわかった。クレアはそんなミランダの気持ちを察するように念を押した。


「私が竜王様をお慕いするのは、竜族の配下としての本能だから安心してね? ルシアン様にお仕えするアルル君のように、お役に立ちたいの」


 ミランダはやきもちがクレアにバレていたのが恥ずかしくて、真っ赤になって頷いた。




 隣の部屋では、ルシアンのサイズを測り終わったエリオがお茶の席を用意して、ルシアンを座らせていた。


「そんなに心配しなくても花嫁は戻ってくるから」


 隣室を気にしてソワソワが止まらないルシアンにエリオは呆れている。


「それにしても引きこもりのくせに、どうやって人間の花嫁を見つけたんだ?」

「ミランダは貢ぎ物として生贄台に捧げられたのだ」


 ルシアンの答えに、エリオは紅茶を咽せた。


 そのタイミングで、隣室から声が掛かった。


「ルシアン様。お待たせしました」


 クレアの声が聞こえてルシアンが振り返ると、そこには白いドレスを纏ったミランダが立っていた。


 まるであの高原の花が白いドレスとなって咲いたように、ドラマチックにスカートが広がっていた。ミランダの綺麗なデコルテや腕を大胆に見せつつも、シルエットが美しくて全体が清楚に纏まっている。綺麗に編み込まれた薔薇色の髪は、ミランダの上品さをより醸し出していた。それはルシアンが初めて見るミランダだった。


「ミランダ……なんて綺麗なんだ」


 ルシアンは金色の瞳を輝かせて、繊細な花を扱うようにそっとミランダに触れた。


「あの、少し、大胆すぎるでしょうか……これは一応方向性という事で、その、お仕立てはルシアン様のご意見を伺いたくて……」


 照れすぎてしどろもどろになるミランダの小声の言い訳は、ルシアンには聞こえていないようだった。


「ああ、可愛い! 可憐だ! 竜の森の女神だ!!」


 ルシアンは感激して、ミランダをドレスごと抱きしめた。

 こちらを見ている嬉しそうなクレアと目が合って、ルシアンは満面の笑みになった。


「クレア。俺の花嫁をこんなに可愛くしてくれて、ありがとう」

「竜王様。お喜びいただけて配下冥利に尽きます。本番のデザインもどうぞご安心してお任せください!」


 兄のエリオは隣で、妹の竜族らしい遵従ぶりに複雑な顔で笑っていた。

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