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1 断罪の舞踏会

 数週間前の、宮廷での(きら)びやかな舞踏会の夜。

 突然それは始まった。


「ミランダ! 貴様が(くわだ)てた暗殺計画の証拠は、すべて(そろ)っている!」


 ジョゼフ王太子の厳しい声が会場に響き渡り、音楽も踊る人々も時を止めた。


 名指しでいきなり断罪された侯爵令嬢ミランダは、大きな瞳をさらに見開いて呆気に取られた。頭の上に「?」が浮かんだまま、凍りつく。


 ミランダの婚約者であるジョゼフ王太子の隣には、〝予言の聖女〟フィーナが純白の修道服を身につけて(しと)やかに佇んでいた。

 フィーナは天啓(てんけい)を受けたと言わんばかりに、遠く空を見つめて切なげな顔をすると、両手を広げて予言を下した。


「私には見えたのです……ミランダ侯爵令嬢が王政に関わる者達の暗殺を企て、毒物を精製(せいせい)している恐ろしい姿が!」


「は、はあ?」


 王太子がすかさず、印籠(いんろう)(かざ)すように小瓶を(かか)げた。


「証拠の毒物はすでに押収されている! 貴様の部屋からな!!」


 見覚えのない小瓶を凝視しているミランダに、フィーナは続けた。


「さらに! ミランダ侯爵令嬢は犯行を隠蔽(いんぺい)し、私欲のために王妃の座を得る為に婚約者であるジョゼフ王太子殿下に、魅了(みりょう)の魔力を使っていたのです!」


 怒涛の断罪に息つく暇も無く、ミランダは唖然として立ち竦んだ。

 何ひとつ、身に覚えが無いのだ。

 舞踏会はザワザワと不穏な空気が立ち込めている。


「ちょ、ちょっとお待ちください! いったい何の事だか……」


 ミランダの訴えはジョゼフ王太子の声で(さえぎ)られた。


「おかしいと思っていた! 貴様のその怪しげな瞳は、人を(たぶら)かす力を持っていたのだ!」


 ドーン、と大袈裟(おおげさ)に指されたミランダの瞳は確かに、ダークなルビー色で妖しいまでの美しさだと評判だが、ただ珍しい色というだけで特異な力は無い。

 というか、以前はジョゼフ王太子こそ、この瞳が美しい、好きだと散々惚気(のろけ)ていたのに。


 そんなジョゼフ王太子の様子がおかしくなったのは、聖女フィーナがこの宮廷に現れてからだ。

 「予言がよく当たる聖女がいる」という噂が王都に広がり、その予知の的確さからフィーナは王室から直々に宮廷に招かれた。いくつかの災難を予言で的中させて、ジョゼフ王太子は徐々にフィーナを盲信するようになった。そしてフィーナもジョゼフ王太子を(した)っているのは明らかだった。


 ジョゼフ王太子が「予知を国策に生かす」という名目を唱え、婚約者であるミランダよりもフィーナと一緒に過ごす時間が増えた頃から怪訝に感じていたが、まさか2人が結託して、自分を陥れる計画を進めていたとは(つゆ)にも思わなかった。


(聖女フィーナは予言に嘘を混ぜて、私を失脚に追い込むつもりだわ。予知の能力を王室が信頼しきっている分、(くつがえ)すのは難しい……)


 ミランダが脳内で状況を整理する間も、ジョゼフ王太子は高らかな声で罪状を述べ、隣の聖女フィーナは勝ち誇った顔で頷いている。


 「よって、王太子である私ジョゼフ・ベリルは本日を以って、ミランダ・ブラックストンとの婚約を破棄する!」


 ザワッと大きなどよめきが起きて、ミランダの背中に悪寒が走った。

 冤罪での断罪、偽の証拠、婚約破棄と、展開が一方的で乱暴すぎる。


「ジョゼフ王太子殿下! 話を聞いてください!」

「ええい、黙れ! 言い訳の続きは罪人らしく、牢獄で語るんだな!」


 王太子の言葉の終わりと同時に、両サイドから兵士が力強くミランダの腕を抱え上げ、ミランダは殆ど宙に浮いた状態で捕われた。

 ミランダはこれ以上喚いても醜態(しゅうたい)を晒すだけだと悟って、黙って兵士に従った。


 やりきった正義漢(せいぎかん)顔のジョゼフ王太子と、(ほの)かな笑いを浮かべる聖女フィーナと、眉を(ひそ)めて軽蔑の眼差しを向ける人々が遠ざかっていく。

 止まった音楽の代わりに「なんて恐ろしい悪女……」「あの目の色は見るからに……」と悪辣(あくらつ)な小声が退場するミランダを見送った。


 ミランダの視界は屈辱の涙で歪んだが、毅然(きぜん)と顔を上げて歩いた。


(こんな滅茶苦茶な冤罪がまかり通るわけがないわ。ジョゼフ王太子に事実を説明して、無実を証明してみせる)


 だが、悪夢のような断罪劇には、さらに恐ろしい現実と結末が待っていた。

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