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24 神秘の洞窟

 竜王城に戻り、夜も深まった頃。

 ネグリジェを着て髪をとかし、就寝の用意をしているミランダの部屋がノックされた。

 ドアを開けると、ラフなシャツの上にマントを羽織ったルシアンが立っていた。


「ルシアン様? こんな夜更けにお出かけされるのですか?」


 先ほどの蛮行への衝撃が冷めやらぬまま、ミランダは動揺した。

 ルシアンは企むような笑顔でミランダの手を取った。


「夜の偵察だ。ミランダも一緒に行こう」


 小声で伝えると、人差し指を唇に当てた。


「アルルには内緒だぞ?」


 その仕草が妙に色っぽかったので、ミランダは不安とときめきがごちゃ混ぜになり、ドキドキしながら深夜の謎のお誘いを受け入れた。



 星空の下、ルシアンはネグリジェにマントを羽織ったミランダを抱いて、スコーピオに乗った。夜の森は葉擦れと風の音だけが聞こえて静かだ。


 いつもより強くルシアンのマントを握りしめるミランダを、ルシアンは見下ろした。


「夜の森は怖いか?」

「いいえ。ルシアン様と一緒だから怖くありません。ただ……」

「何だ?」

「ルシアン様がまた危険な事をするのではないかと、心配になるのです」

「ハハハ。竜王に心配などいらないぞ」


 確かにあんな雷の威力を見たら、竜王は人間の手に負えない能力者なのだとよくわかる。しかしミランダは、あの懺悔室で聞いた予言の内容を思い出していた。

 強盗に、毒物に、大火事、そして戦争……

 いくら竜王といえど、戦争などどうやって阻止するのだろうか。例えスパイを捕獲したとしても、ザビ帝国の北の地への侵攻は止められないはずだ。


 心配のあまりルシアンの胸に強く抱きつくと、胸のあたりに何か硬い物があるのを感じた。


「ルシアン様? これは……何ですか?」


 四角く長細い物体を手でなぞっていると、ルシアンがマントの中に手を入れて、それを取り出した。途端に、ミランダの顔は灯りに当てられたように光った。


「これは……金塊⁉」


 今朝方、生贄台に置かれた各国からの謝罪の金塊だ。


「ああ。アルルに怒られないように内緒で一つ、くすねてきた」

「竜の視察に、何故金塊がいるのです?」

「それは見てのお楽しみだ」


 「?」を浮かべるミランダを乗せて、スコーピオは洞窟がある山の麓に舞い降りた。


 ミランダはルシアンと手を繋いで、慎重に洞窟の中に入っていった。

 中は真っ暗だが、所々にまるで蛍の光のような青い発光物が点々と輝いていた。

 奥に進んで行くとその光は数を増やして、ピンクや紫、黄色の光も混じって、煌びやかに洞窟内を照らしていた。


「綺麗……光っているのは鉱物ですか?」

「ああ。ここは鉱物の宝庫だ。何万年もかけて結晶した、様々な種類の鉱物が眠っている。結晶は地中の成分を取り入れて色を変えているんだ」


 ミランダがいろんな形や色の鉱物に見惚れるうちに、洞窟の奥から何やら大きくて重い物体が、地面を揺らして近づいて来た。


 ドシドシ……。


 音が近づくにつれて洞窟内が明るくなって、ミランダは驚きで立ちすくんだ。


「あれは……竜⁉」


 竜王を見つけて嬉しそうに駆け寄って来た巨漢の竜は、青白い体の背中に沢山の鉱物の結晶を背負っていた。まるでハリネズミのような、不思議な姿の竜だ。

 ルシアンは竜の頭や顎を撫でながら紹介してくれた。


「シリウスという夜行性の竜だ。よ~しよし」


 眩い御体に瞬きをするミランダにシリウスは顔を近づけて、フンフンと匂いを嗅いでいる。そしてルシアンの方を向くと、さらに胸の辺りに顔を突っ込んで、フンフンと鼻を鳴らしている。


「ハハハ、シリウス。お前は鼻が利くからな。これの場所がわかるのか」


 ルシアンはマントから金塊を取り出すと、シリウスに見せた。


「あ⁉」


 ミランダが叫ぶのと同時に、シリウスはルシアンの手にある金塊をパクッ! と口に咥えて……。


「ボリッ! バリン! ボリン!」


 金塊を噛み砕き、食べてしまった。


「きゃあ⁉ た、食べた⁉」


 信じられない歯の強さ、というより異様な偏食ぶりにミランダは仰け反った。


「ゴリ、ゴリ……ゴクン」


 奥歯で咀嚼し、シリウスはあっという間に金塊を食べ尽くしてしまった。

 シリウスは2個目の金塊をおねだりするようにルシアンに甘えている。


「こらこら、ダメだ。一個だけだ」

「ルシアン様、この子のお腹は大丈夫なんですか⁉」

「ああ。シリウスは鉱物を餌にする竜なんだ。体の中で鉱物を吸収分解し、背中に結晶を作り出す。食べた鉱物によっては珍しい貴石を生み出すことがあるから、たまにこうして貴重な物を食わせてみるのだが……アルル曰く、勝率の低いギャンブルだからやめなさいと」


 ミランダはアルルらしい堅実な意見に笑った。

 そっとシリウスの身体に触れてみると、確かに他の竜と違って、その皮膚はまるで岩のようでゴツゴツとして硬い。そして背中にある結晶はどれも美しい輝きを放っていた。


「なんて神秘的なの。あなたはまるで、生きた宝石ね」


 結晶が乱反射して、ミランダの薔薇色の髪と瞳も、ルシアンの夜空色の髪と角も幾何学の模様で輝いていた。


「ミランダも宝石のようだぞ」

「ルシアン様こそ」


 シリウスに金塊のおやつをあげた秘密を共有して、ふたりは悪戯っぽく微笑みあった。


 ミランダは蛮行を目の当たりにした自分のショックを和らげるために、ルシアンが美しく珍しいものを見せてくれたのではないかと考えて、胸が温かくなっていた。

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