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プロローグ 生贄の乙女
侯爵令嬢ミランダは手足を縛られて、ドレス姿のまま森の中で横たわっている。
ここはベッドの上ではなく、石造りの冷たい祭壇の上だ。
身体の周りにはゴロゴロと、南瓜、芋、人参……。
沢山の付け合わせ野菜に囲まれている。
深夜の黒い森の中にぽつんと、鮮やかなランチプレートが置かれたような奇異な風景だ。
ミランダは現実に理解が追いつかずに、呆然としていた。
満天の星空の下、うら若き乙女が自分を捕食する怪物を待つだなんて。
こんな残酷なことがあるだろうか。
心の整理がつかないまま、ミランダの身体が震えだした。
地面から伝わる振動で、祭壇ごと揺れているのだ。
ズン、ズシン、と。
森の奥から、生贄を求める巨大生物の足音が近づいてくる。
「ああ……」
ミランダはそっと瞼を閉じた。
「どうして、こんなことに?」
発端は、あの悪夢の舞踏会だった……。