47 我が家は竜王城
「まあ、まあ、まあ~! お帰りなさいまし!」
玄関先でメイド長のメアリーが竜族一行を迎え、竜とメイドたちは大量の荷物を竜王城に運んだ。
地上に降り立ったルシアンは森中から集まった竜たちに囲まれている。
「クウ!」
「キエ!」
「グオオ!」
小さき者から大きな者まで集って、ガレナ王国で美女に囲まれた時と同じように、ルシアンは厳つい集団に包囲されていた。
「ちょっと待て、わかったから! 待て待て待て!」
制止も聞かず興奮した竜たちが飛びついて、ルシアンの姿は竜の波に溺れるように見えなくなった。
竜たちの熱気にミランダもアルルも呆気に取られる。
「ルシアン様がまた人気だわ」
「モテ期ですね……あっ、スピカ!」
青竜スピカはアルルのもとへやって来て、まるで「おかえり」と言っているように顔を擦り付けている。
「あははっ、スピカ! 会いたかったです」
ミランダはプルートを抱っこしながら、幸せそうな再会を眺めていた。ツン、と誰かがお尻を突いたので振り返ると、タウラスが愛らしい瞳でこちらを見上げていた。
「タウラス! ただいま!」
ミランダは久しぶりの再会に感激してタウラスを抱きしめた。
「待っててくれたのね……」
ベリル王国を追われて家族と帰る場所をなくしたミランダに、旅は自分を迎えてくれる居場所があることを再確認させてくれた。
♢♢♢
そうして竜王城に日常の朝がやってきた。
まだ旅の興奮は冷めやらないが、住み慣れた竜王城での生活の始まりはミランダに新鮮な楽しさを与えてくれる。
久しぶりに自室の窓を開けて、若葉が輝く森を見下ろした。
身支度を整えるとお気に入りのワンピースに着替え、さらにその上にエプロンを付けた。
「おはようございます、ルシアン様」
「おはようミランダ」
芳しいパンの香りに包まれたキッチンには、ルシアンがポニーテールにエプロン姿で立っていた。
久しぶりに見たいつものスタイルが嬉しくて、ミランダは駆け寄って抱きついた。
キッチンの窓の外に目をやると、アルルがプルートと一緒にスピカとタウラスのお世話をしている。
「あら? ルシアン様、もう朝食を作られたのですか?」
キッチン台を見下ろすと既に色とりどりのサンドイッチが出来上がっていた。しかも、まるでパーティーでも行われるのかというほど、大量だ。
「うむ。朝と昼の分だ。今日はしばらく森を離れていたから、やるべきことが沢山あってな。彼方此方の竜の様子を見て回らないと」
「まあ。お忙しいのですね」
「アルルも買い出し先で昼食を済ませるらしいから、すまないがミランダはプルートと一緒に食べていてくれ」
ミランダは料理を手伝おうと張り切っていた分、肩透かしとなったが、改めて意気込んで前のめりになった。
「私も連れて行ってください!」
「えっ?」
「ルシアン様のお仕事に……竜の見回りに!」
「い、いや、危ないぞ? 強風が吹く崖や蛇が出る洞窟にも行くから」
ミランダは少し怯んだが、さらに前のめりになった。
「大丈夫です! 竜王様のお仕事をお手伝いしたいのです!」
ルシアンが困った顔をしているので、ミランダはさらに押した。
「だって……私は本当の花嫁に。つがいになったのですから。竜王様がどんなお仕事をされているのか、知りたいです」
赤面して言い寄るミランダに、ルシアンは堪えきれず抱きしめながら承諾した。
「わかった。一緒に行こう。可愛い花嫁が来てくれたら、竜たちも喜ぶだろう」
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