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46 いざ竜族の森へ

 ガレナ王国から出港する船は快晴の空の下、大きな汽笛を鳴らした。


「見送りのパレードはいらないと言ったのに……」


 ルシアンは苦々しい顔で船から港を見下ろした。

 お迎えの時よりもド派手なお祭り状態で、竜族一行は見送られた。


 ミランダは沸いている人々に向けて手を振った。


「皆さん、竜王様が友好を結んでくださったことが嬉しいんですよ。国と国が仲良くするのは良いことですし」

「竜族の森は国なのか?」


 ミランダは笑顔でルシアンを見上げた。


「平和をもたらす竜の国です!」


 ミランダの朗らかな可愛さにルシアンはたまらず密着して、ミランダはルシアンの角が丸出しになっているのに気づいた。


「ルシアン様? 今日は角を隠さないのですね」

「ああ。見送られているのにコソコソしていたら格好がつかないからな」

「竜王様の堂々としたお姿は素敵です。角も格好いいですし」


 人目も憚らずイチャイチャとする二人の横で、アルルは後ろを気にしている。


「竜王様……乗客の皆さんが見てますよ」


 ルシアンが振り返ると、ガレナ王国から乗船した乗客たちが遠巻きに目を輝かせながら、竜族一行を囲んでいた。


 その中の一人が恐る恐るこちらに近づいて来ると、ルシアンに握手を求めた。


「りゅ、竜族の方ですよね? あ、あの、ガレナ王国の旅行はお楽しみ頂けましたか?」


 緊張気味のガレナの民にルシアンは戸惑ったが、手を差し出した。


「ああ。素晴らしい旅だった」


 ガレナの民は握手の成功に感激して、他の者も次々と握手に並んだ。


「まあ。ルシアン様が人気だわ」


 アルルはしみじみと呟いた。


「ルシアン様が角を隠さずお出かけなさったのも、こんなに沢山の人と触れ合ったのも初めてのことです。旅行を経験して逞しくなられましたね」


 まるで爺やのような感想を言いながら、アルルはプルートが入ったリュックを抱えた。


「やっぱりプルートが卵から孵ったことで、ルシアン様に心境の変化があったのでしょうか」

「きっとそうね。竜王としての威厳がますます輝いているもの」

「僕は配下として竜王様が誇らしいです!」


 ミランダは微笑ましくルシアンの堂々とした振る舞いを眺めながら、自分自身のことを考えていた。


(ルシアン様が竜王の座を受け入れて覚悟を決めたのですもの。私も花嫁として、竜王様に相応しくありたいわ)


 毅然と背を伸ばして、ミランダはその先にある竜族の森での生活に思いを馳せた。



 西の大陸に船が到着し、港で待ちわびていたスコーピオに乗って、竜族一行は竜族の森へと帰ってきた。


 久しぶりに見る広大な森はガレナ王国の赤い土の山々と違って、色濃く茂った緑の地だ。

 竜王が帰って来たのを竜たちも感じているのか、空には沢山の竜が飛び交って騒めいていた。


 アルルは先頭でスコーピオの手綱を握りながら、懐かしそうに見回している。


「森中の竜たちが竜王様を迎えに出てきたみたいですね」

「うむ。今度は竜の出迎えパレードか」

「ルシアン様がこんなに長く不在だったのは初めてですから、みんな再会が嬉しいんですよ」


 二人の会話を聞きながら、ミランダは改めてこの森に棲む竜の多さに圧倒された。花畑で挙げた結婚式の時に一斉に集ったのは見たが、このように集団で空を飛んでいる景色は迫力がある。


 ミランダはふと、ルシアンがシダに向かって話した、人類と竜の太古の関係を思い出した。


「ルシアン様。遥か昔、竜は絶滅寸前まで狩られたとおっしゃっていましたね。今は個体数が回復したのでしょうか」

「中には絶滅してしまった竜の種もいるだろう。何しろ多様な種類がいるからな。人類に狩り尽くされる前に、竜たちは存命のために集団で住むことを覚えたのだ」

「昔は別々に暮らしていたのですね」

「ああ。竜は一頭でいたら大勢の人間に狩られてしまうが、集団でいれば人間を凌駕する。地から空から徒党を組んだ竜に攻撃されたら、大国も滅ぶだろう」


 ミランダは竜と人類の戦争を想像して息を呑んだ。竜の集団はきっと、どの国の軍よりも強いであろう。馬が牽く戦車よりも早く、矢も届かぬ高度を飛び、火や氷を吹くのだから。


 ルシアンはスコーピオに横並びで飛ぶ竜の集団を前に手を広げた。

「竜は自ら竜族を作り出し、統率する竜王を据えることで軍隊を成して人類の脅威に対抗したのだ」

「す、凄いですね。自分たちを狩った人類を取り入れる戦略を考えるなんて」

「竜は賢く強い。だからユークレイス王国は怯んだのだ。竜と竜族にすべてを乗っ取られるのではないかという恐怖に」


 竜族への弾圧や迫害が許されるわけではないが、ミランダはユークレイス王国の恐怖と懸念が人として理解できた。

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