29.過去2
「お母さんっ!!ひっく……おかあさっ……うっ、うわあぁぁん!!」
ある日、リリアの母ジェリアが持病で倒れて、そのまま帰らぬ人となった。ベットの中で目を覚まさないジェリアの横で次女、パトラが泣いている。
(私は長女。泣いちゃダメ…………)
その様子を見ながらリリアはぐっと涙をこらえた。ちょっとでも気が緩んだらこぼれそうな粒を、目の中にためた。
「………そうですね。我々も手を尽くしたんですが、もう相当、持病が悪化していて」
専属の医師は、言いづらそうに告げた。
「そうですか。いえ。私達の母のためにこれだけ全力を尽くして貰って、母も幸せだったと思います。」
◆◇◆
一瞬だった。朝ご飯を家族で食べて、ジェリアが立ち上がったときにガシャンッ、と言う音と共に、床に倒れ込んだ。食べるのが遅かったリリアは急いで動かしていたフォークとナイフを止めて、その大きな音の方に目を向けた。
「え、何の音……お母様!?」
「え!?どうしちゃったの!?おかあさん!?」
「ジェリア!!」
パトラと、リリア、国王シャルは驚いた様子でその場に固まっている。その中で一番早く我に返ったリリアは、ジェリアに駆けつけると、近くの侍女に医者を呼び出させた。王宮内は緊迫した雰囲気が流れ続ける中ただ、医者の答えを待った。
「…………」
「あ、お医者様、母の容態は……」
医者は静かに首を横に振った。
「お母様は病室の中で、眠りにつきました。良かったら最期を見届けてください。」
「はい。ありがとうございます………」
◇◆◇
そして今、ジェリアの葬式がリリア、パトラ、シャル、そして祖母祖父で、つつがなく行われた。
「あの、お父様。大丈夫ですか?」
「あ、あぁ。すまない。気持ちの整理がついていなくてな。」
「そうですか。皆さんも同じだと思います。でも、最期お母様。幸せそうに笑っていましたよ。」
葬式の端っこでシャルは涙を流した。
◆◇◆
ジェリアが亡くなってから一週間がたった頃、
「お姉さまのせいだっ!!お姉さまのせいでお母様がっ!」
「パトラ!やめてっ落ち着い………お医者様も、持病が悪化したって言っていたでしょう!?」
「うるさいうるさいっ!!」
パトラがよく癇癪を起こすようになった。急に母という大事な存在がなくなったんだから、精神の乱れのようなことがあってもおかしくない。
その後、王宮内である噂が出回った。
「ねぇ、しってる?リリア様って奥様をいじめていたそうですよ。」
「えぇ、ちょっとしか知らないけど……」
リリアがジェリアをいじめていたという噂が
(なんで、そんな噂が……私はお母様のことをとてもお慕いしていたのに……)
「はぁ………」
「どうしたの?元気ないね。」
「ひゃっ!!ビックリした…………あぁ。カク。いや、なんか良からぬ噂が………」
「うーん。そうらしいね。誰がこんなにひどい噂を……」




