27.監禁
「うっ……うーん」
目が覚めると薄暗い部屋の中、固い地面に横たわっていた。
(………また、知らない天井。なんでここに居るんだっけ、)
手足は縛られていていて思うように動けない中、何とか起き上がって部屋を見渡してみる。部屋はドアに鍵が掛っており四畳ほどの小さな場所で水とご飯らしき物が乱暴に床に置かれている。
ここがどこか分からない中、記憶のカケラから事の発端を思い出してみる。
(あ、そうだ。ベルが鳴ったからドアを開けたら、後ろから叩かれて、)
薬屋を訪ねてきた人物の顔は靄が掛ったように思い出せない。途端に、記憶喪失になった日のことを思い出す。
(また記憶喪失になってたら、)
「マリア・レオナドール、イエラド・ウル・カク。トア・スピン。それに、レオ。私の大切な人達。私はマーガレット・アル・リリア。…………良かった。」
ちゃんと思い出せたことに安心しながらも、今の状況を飲み込めないでいた。
これからどうするか考えていると、部屋の中に入ってきた人物が居た。
「こんにちは。リ、リ、アさん♪」
声の方を振り向くと、パーティーに行くたびに嫌がらせをしてきた元妹。
「パトラ?なんでここに、」
「え?何でだと思う?ここはあたしのお家なんだから。当たり前でしょ?」
「パトラの家、って事はここ、スノウ・クロック国の王宮なの?」
困惑していると、パトラはこれまでに無いほどの、満面の笑みになった。
「あははっ。そうよ、これが見たかったの。地面に這いつくばって、あたしを見上げるお姉様がっ!あたしから、すべてを奪ったっ、あのお姉様が!」
大きな声で笑いながら、すべてが満たされたような笑顔を見せるパトラはもはや狂気の沙汰では無かった。冷や汗が背中を流れて、心臓の音がバクバクと鳴り止まないで、脈の音と同時に視界が揺れ動く。
(すべてを奪った?どういうこと?)
「パトラ。あなたは何をしたいの?何をするためここに、」
「分からないの?……ま、仕方ないか。記憶喪失だって、私がやったことだし。」
「…………は?どういうこと?」
その場で放たれた事は頭を混乱させた。それを見たパトラはリリアの髪の毛を乱暴に引っ張り、衝撃の言葉を言い放った。
「痛………やめっ」
「ねぇ、リリアさん。サリス製薬って知ってる?そこでね、私、記憶喪失の薬って言うのを作ったの。でもでも、実験体がいなくて、困ってたんだよね。」
「な、なにを……言、って」
記憶が無くても分かった。
(この人はやばい。逃げないと、でも身体が動かない。動いて、私。)
身体が反応するより早くパトラが口を開いた。
「あはっ。お姉様を実験体にしちゃおうと思って。
それでそれで最近、記憶回復の薬を作ったの。また飲んでくれるよね?今日はそれをするためにここに連れてきたの。
この薬を飲んだら、記憶がブワァって流れてきて、その記憶に耐えきれなくなった身体はどうなっちゃうかな?フフッ。楽しみ。」
「嫌っ、だ。やめてパトラ。私には待っててくれる大事な人が、」
「またあの時みたいに嫌って言うの?大丈夫。すぐ終わるから」
次の瞬間、パトラは髪の毛から手を外し、首を強く握ってきた。
「っ………息…がっ……苦し…」
ある瞬間を思い出した。
(あの時見た記憶に似てる、誰かが私を押し倒して、薬を無理矢理飲ませて、)
その時、リリアの頭の中に何かが流れ込んできた。それは薬とは違う懐かしい思い出だった。
「リリア!」
大好きな人の声が聞こえたような気がして、そこで視界は途切れた。




