25.ブレスレットとベル
「お嬢様、お帰りなさいませ。」
薬屋の二階へ続く階段を上るとマリアが出迎えてくれた。その顔には心配の色が出ていた。カクとお出かけをするだけと言ったのに、帰るのが遅くなったからだろうか。
「えぇ。ただいま。薬草の採取に行っていたの。」
「そうですか。本日の収穫を見たいですが、それは明日にしましょう。もう遅いですしね。」
マリアはホッとしたような笑顔を見せた。その後、温かい紅茶を一飲みし、私は寝室に行って椅子に座った、そしてポケットの中に入っている、花のブレスレットを出した。これは今日カクと別れる際に貰ったものだった。
カクは
『はい。俺からのプレゼント。レオが来てお買い物とか出来なかったから。』
と言った。
あの時のカクの優しい顔を思い出して顔に熱が溜まる。そのまま、ベッドに顔を埋める。
「……あの顔はずるいよぉ、」
と、寝室の中に独り言が響いた。
◇◆◇
朝、リリアはカーテンから差し込む光で目を覚ました。むくりと起き上がり時計に目をやる。短針は五時を指している。
「まだ五時、目覚めちゃった。薬でも作ろうかな。」
ベッドから出て、私服に着替える。顔を洗って調合部屋へ足を運ぶ。部屋に入ると、昨日持って帰ってきた薬草がきれいに並べられていた。
(マリアがやってくれたのね。仕分けから始まると思ってたから、楽で良いわ。)
棚にあるすり鉢と精製水を出す。並べられている薬草から、葉をちぎりすり鉢に数枚入れて柔らかくなるまですっていく。そこに精製水を混ぜようとしたとき、
カランカラン
ベルが鳴る。マリアが起きていないのでリリアは、自分が出ることにした。ドアの前まで来てドアノブを回そうとしたとき、
ドクン、血がいやな音を立てて脈打つ。まるでこのドアを開けちゃいけないと言っているように。
「って、何考えてるんだろう私。はーい。どちら様、です……か、」
ドアの前に立っていたのは、ハッキリと見覚えのある顔だった。なんでここにいるのか聞こうとしたところで、ドッ。と言う鈍い音を聞いた後、意識が途切れた。




