1-7 双剣のリリア
プートゲールの道具屋。
そこで俺たちは広告に使うための白い紙と黒ペンとガビョウを買った。
ヴァンパイアイリュージョンを売るために、村の掲示板に広告を貼りだすのである。
広場に向かった。
テーブルつきのベンチに座る。
セニャが広告を広げてペンを持つ。
「トキト、なんて書けば良いかなあ?」
俺は両腕を組んだ。
「うーん、簡単な文章でいいんじゃないか?」
「簡単な文章、って?」
「売ります。双剣のスキルの書、ヴァンパイアイリュージョン。値段は要相談。みたいな感じで」
「本当、簡単だね」
セニャが苦笑する。
「凝ったふうに書いても、分かりにくくなるような気がするけど?」
「うーん、そうね」
彼女が頷く。
「でも、会う時間は指定しないとね。買いたい人は何時に掲示板前に来てください。とか」
「それはそうだな」
「朝の10時頃でいいかなあ」
「いいんじゃないか?」
「よしよし、分かった。それじゃあ書くよ?」
「ああ、頼んだ」
セニャが紙にペンを走らせる。
ヴァンパイアイリュージョンの名前がデカデカと書かれた。
目立つようにするためだろう。
作業はすぐに終わった。
「これでよし」
黒ペンのキャップをはめる。
俺たちは顔を見合わせて立ち上がる。
広場の掲示板に行った。
その木製の板には様々な広告が出ている。
フレンド募集、ギルドメンバー募集、狩り友募集、物を売ります買います、様々だ。
セニャが広告を張って、俺がガビョウでとめる。
ふと、後ろから俺の肩に手をのせる者がいた。
ビクッとして振り返る。
そこには見覚えのある女剣士の姿があった。
黒のジャケット、ショートカットの髪型の女性である。
彼女は小声で、
「あんたら、ヴァンパイアイリュージョン持ってんの?」
ぷっくりとした唇が弧を描く。
セニャも振り返った。
「誰?」
「あたしはリリアだ。そんなことより、その持っているヴァンパイアイリュージョン、売ってくれないか?」
俺は彼女の腰の剣を見る。
二つの剣が鞘に収まっている。
双剣使いだ。
「えと」
セニャは俺に顔を向ける。
俺は頷いて、右手のひらをかかげた。
声を低くして言う。
「金貨1000枚で売ろうと思っています」
「嘘!」
セニャが両手で口を押えた。
俺は本気である。
リリアは整った顔立ちをしているのだが、眉間にしわを寄せたせいで表情がゆがんだ。
「金貨1000枚となると、白金貨100枚か。ヴァンパイアイリュージョンとしては、妥当な値段だな」
俺は表情がびくついた。
銅貨で買い物をした経験から、銀貨や金貨もあるのだと推測していた。
しかし金貨の上に白金貨があることをいま知った。
「払えますか?」
俺はたずねる。
「いまは払えないな。持ち合わせが足りないんだ。だけど、三か月待ってくれないか? そしたら買う」
俺とセニャは顔を合わせる。
彼女は首を振った。
俺はまたリリアを向く。
「三か月は待てません」
「どのくらいなら、待てるんだ?」
俺は斜め下を向いて考える。
そこで名案が浮かんだ。
顔を上げる。
「リリアさん、あなたは、このゲームのプレイヤーとなって、どのくらい経っていますか?」
「なぜそんなことを聞く?」
リリアが口角をつりあげる。
「必要な情報です」
「ふん。まあ、大体五か月ぐらいかなあ」
「いま、なんレベルですか?」
「いま、37レベルだ」
「なるほど」
セニャが不満そうに眉をひそめている。
「トキト?」
「大丈夫だ」
俺は彼女に頷いてから、リリアに言った。
「リリアさん、白金貨100枚のお支払い待つ代わりに、俺たちの仲間になってください」
「は?」
リリアの目が点になる。
「俺たちと行動を共にするのであれば、お支払いは三か月待ちます」
「なるほど!」
セニャがコクコクと頷いていた。
そうだ。
俺たちは初心者で、リリアはもう五か月もゲームをやっている。
情報量は豊富だろうし、なによりレベルが高い。
強いのだ。
そんな彼女が一緒にいてくれることほど心強いものはない。
「あんたら、最初に着ている服を、今も着ているところからして、レベル低いんじゃねえのか? と言うか、お前は昨日見たし」
リリアが俺に視線を合わせる。
覚えていてくれたようだ。
「はい。低いです」
「ふーん。あたしの存在を魔除けに使おうって魂胆か」
「まあ、そんなところです」
「条件がある」
リリアがあごに手をつける。
「何ですか?」
「一日中、行動を共にすることはできない。なぜなら、あたしはあたしで、自分のレベルに合った狩場に行かないといけないからだ」
「はい」
「そうだな。一緒に行動するとしても、一日三時間が限界だ」
俺は、んー、と唸うなる。
そして、
「分かりました。一日三時間で」
「それと」
リリアはあごから手を放して人差し指を立てた。
「ヴァンパイアイリュージョンは先に覚えさせてもらう」
「それは……」
俺は困った顔をした。
「それでも、いいか?」
リリアが真っすぐな瞳で見つめる。
俺は思考する。ヴァンパイアイリュージョンを覚えられて、はいさようならと言うことだって考えられる。
ここは……断るしかない。
「分かった!」
セニャがはきはきと了承した。
「おい、セニャ、いいのか?」
「大丈夫。でも、リリアさんでしたっけ、いま持っているお金は全部ください」
「全部か? ポーション代を除いてなら良いが」
「いくらあるの?」
「えっと」
リリアが持っているカバンの中から銭袋を取り出す。
数えて、それから難しい顔をした。
「ええっと、ファイラットって言う町の銀行にいくらか預けているから、白金貨が20枚ぐらいあるかな」
「じゃあそれを、まず払ってください」
「分かった。ちょっと待っていてくれ」
リリアはカバンの中から水晶を取り出す。
「使用、ファイラット」
そう言うと青い光に包まれて消えた。
ワープしたようだ。
ファイラットにすぐに移動できる水晶なのだろうか?
セニャが俺の肩に手を置いた。
「トキト、すごいね!」
「ああ。こんな良いことになるとは思わなかった」
「白金貨20枚なんてもらったら、何でも買えるよ!」
「そうかもな」
「うんうん、そうだよ! 僕、服を買おうっと」
俺とセニャが長話をしていると、近くの地面に青い光の柱が立つ。
光が消えるとリリアが地面に立っていた。
こちらに歩いて来る。
「待たせたな」
リリアは右手に銭袋を持っていた。
それをかかげる。
「スキル書と交換だ」
「白金貨が20枚あるか、数えても良いか?」
俺は右手のひらを出す。
「くっ、まあいいよ。でもその前に場所を変えてくれ」
「分かった」
ここで金を数えようものなら、ひったくりに合うかもしれない。
俺たちは相談しあい、村のレストランへと向かうことにした。




