2-21 メイの戦い(メイコ視点)
アナウンスで名前を呼ばれた。
私は立ち上がる。
仲間たちの励ましの声を受けて、気合を入れなおした。
階段の方へと歩いていく。
この背中のちくちくとした痛みは何?
……ずっと前から、気づいてた。
セニャがトキくんの事を好きなことに。
だけど、私だって。
いまから何十日も前。
初めて出会った日。
あの四ツ目のナイトイーターに私は殺されかけていた。
みんなの前では気丈に振舞っていたけど。
本当は、帰還水晶を使うことも忘れて、ぶるぶると体を震わせていた。
あそこで死ぬと思った。
トキくんのおたけびの力で、フクロウの巨大モンスターが地面に落ちた瞬間。
私の体の中で、赤い実が弾けた。
トキくん。
トキくん。
気づけば彼を見ている。
また気づけば、彼の言葉に耳を澄ましている。
初めての感情。
サク以外に大切な人が出来た。
トキくんは、かけがえのない人。
だから私は。
……私は。
負けるわけにはいかない。
階段を下りて、試合場の地面へと向かう。
血生臭い地面を真っすぐに歩いた。
「メイ、頑張れーー!」
トキくんの応援の声。
ほっこり。
「姉ちゃーん!」
サクが私を呼ぶ。
いい子にして待ってて。
「メイさーん! 頑張ってくださいまし―!」
ノノが声を張っている。
妹のように可愛い存在。
セニャは声援をくれなかった。
きっと、私と同じ気持ちだから。
試合場の中心で立ち止まる。
相手は、背の高いおじさん。
鉄の鎧を着ており、一振りの剣を持っている。
たぶん、トキくんと同じ職業の、両手剣の剣士だ。
相手のHPバーを見る。
名前は、ユタカ。
「おいおい、女の子が相手かよ」
ユタカがどんよりと顔をくもらせる。
私たちの間に、ワルキューレが姿を見せた。
「二人とも、準備は良いか?」
私は頷く。
剣と盾を油断なく構えた。
「準備って、あのー、ワルキューレさん」
ユタカがたずねる。
「何だ?」
「年端もいかない娘っ子を、殺してもいいんですかい?」
「かまわない」
「そうかい」
「準備は良いか?」
「ああ、いつでもいいけど」
「それでは、戦闘開始!」
ワルキューレが剣をかかげた。
うっすらとなり姿を消す。
私の戦術は、とにかく相手の攻撃を防ぐこと。
動かずに、相手の出かたを待った。
ユタカが頭をぼりぼりとかいた。
「嬢ちゃん、悪いけど、悪いけど殺すね」
ユタカが一歩一歩、近づいて来る。
「俺らは、俺の仲間たちは、前に進まなきゃいけねえんだ。そのためには、ここで、通行手形を取らなきゃいけなきゃいけねえ」
「来い!」
私は闘気をみなぎらせた。
「本当に、本当に殺すからな!」
ユタカが走り出す。
唱えた。
「回転斬り!」
両手の剣を水平に伸ばし、横にぐるぐると回転する。
その勢いはすさまじい。
砂ぼこりが舞った。
私は唱える。
「ドレインスラッシュ&シールド」
HP吸収タイムである。
持続時間は、以前は5秒だった。
それに、攻撃を当てた時にしか吸収できなかった。
いまはスキルの熟練度がLV2に上がっており、持続時間は8秒間と長くなった。
攻撃を防いだ時にも吸収できるようになっている。
ユタカの回転斬りが迫る。
私は避けることなく、わざと盾をぶつけた。
剣と盾が衝突する。
ゴンゴンと、けたたましい音が響く。
私のHPは減らない。
そしてユタカのHPバーはゴリゴリと削れた。
びっくりした相手が回転をやめる。
「な、なんでっ!?」
自分のHPが減っていることが不可解だったのだろう。
「うふふ」
私は不敵に笑った。
そして走る。
「好機!」
「く、くそ!」
ユタカが両手で剣を構える。
それを振り下ろす。
私はまた盾を前につきだす。
盾の使い方のコツは、ずっと前から掴んでいた。
剣と盾が衝突する寸前、両足を思い切りふんばる。
ゴン!
私の盾が、ユタカの剣と両腕を弾き飛ばしていた。
体勢を悪くする相手。
私は右手の剣で、首を狙う。
「うわぁぁぁぁっ!」
鮮血が飛ぶ。
首の切り口は浅い。
少しがっかりだった。
だけど焦らない。
ユタカが後ろに跳んで距離を取った。
膝をつく。
「お、お前、女の子のくせに、こんなに強えーのかよ!」
これから殺す相手と、これ以上会話をしたくない。
私はゆっくりと前へ歩く。
「や、やめ、ゆ、許してくれ!」
「うふふ」
楽しい。
だけど油断しない。
ある程度近づくと、ユタカは剣を持つ両腕に力を込めた。
ほーら、やっぱり。
言葉は罠。
「おおおおおお!」
彼は立ち上がり、私の首めがけて突きを繰り出してくる。
焦らない。
盾を構える。
「ドレインスラッシュ&シールド」
唱えた。
相手の剣の切っ先と盾が衝突する寸前、両足に渾身の力を込める。
ガン!
けたたましい音と共に、相手のHPバーがごりっと削れる。
「な、なんで?」
ユタカがまたバランスを崩した。
「さようなら」
私はその首に剣を振り下ろす。
血潮が吹いた。
「まじ……かよ」
おじさんが地面に仰向けで倒れる。
やがて、赤い光になって消えた。
観客席の一角から悲鳴のような声が上がる。
おそらく、ユタカの仲間たちだ。
空中にワルキューレが出現する。
私の方に剣をかかげた。
「勝者! メイコ!」
私の仲間たちが大きな拍手をくれる。
ワルキューレはポケットから木の札を取り出した。
「クロギド山の関所の通行手形だ。受け取るがいい」
私は受け取った。
「ありがとう」
「ああ。それでは、下がっていいぞ」
「はい」
私は試合場の出入り口へと歩く。
サクが右手の指を口に突っ込んで笛を吹いていた。
「メイ! 頑張ったなー!」
トキくんがねぎらいの言葉をくれる。
それは、一番の私の栄養。
うふふ。
「メイさん、強かったですよー!」
ノノがまだ拍手を続けている。
可愛い。
いつか、私の本当の妹。
セニャはぷいっと顔をそらしていた。
だけど、まんざらでもない表情をしている。
私は手を振って、それから観客席へと戻った




