2-2 兄妹の再会
その日の朝。
いつものようにホテルの食堂で食事をしている。
対面にはセニャがいた。
彼女の皿の上には、油っこいおかずが並んでいる。
フライドポテト、チキンソテー、春巻きなど。
俺はサラダを中心とした、野菜料理を口に運ぶ。
ふと、俺の背中に声がかかった。
「お、お兄ちゃん?」
「え?」
びっくりして振り返る。
「え、ええ!?」
俺は同じ単語をつぶやいてしまった。
「おはようございます。お兄ちゃん、ですよね?」
「ノノ!?」
妹のノノカが立っていた。
「お兄ちゃん、ノノカ、来ちゃいました」
ノノはうっすらとした微笑を浮かべる。
「トキの妹さんっ?」
セニャも驚いた様子だ。
「はい。そうでございます」
ノノが頭を垂れる。
「ど、どうして、来たんだ?」
……まさか。
「父さん、また借金を作ったのか? それで、ノノも身売りになったのか?」
彼女がゆっくりと頷く。
「はい。おっしゃる通りでございます」
俺は怒りを隠せなかった。
「何でだよ……父さん」
自分の腿を拳で打った。
ノノは明るい調子で、
「お兄ちゃん、また会えてうれしゅうございます」
「あ、ああ。そうだな!」
「お兄ちゃん、ノノカも、一緒に食事を摂ってもよろしいでしょうか?」
「いいよ。もちろん」
言った後で、セニャに顔を向ける。
「セニャも、いいかな?」
「もちろんだよ! トキの妹さんだもん」
快く頷いた。
「あ、ありがとう存じます」
「メシを持って来いよ。ノノ」
「了解いたしました。少々お待ちくださいませ」
ノノは歩いていく。
セルフサービスである。
俺はうつむいた。
「くそっ、父さんのやつ……」
一気に食欲が失せた。
セニャは楽しそうな雰囲気だ。
「妹と会えて、うらやましいな。僕、そういうの、いないから」
俺は顔を上げる。
「セニャは、一人っ子なのか?」
「うんうん、僕、兄妹とか、いないんだ」
「そうなのか」
「だから、トキが羨ましいよ」
「まあ、再会できて嬉しくはあるが」
「うんうん。一緒にゲームクリアをして、早く自由になろうよ」
「そ、そうだな」
頷いた。
ノノがオボンを両手に持ってきた。
パンと、オムレツと、シーザーサラダと、飲み物が載っている。
もちろんハシもある。
ノノが俺の隣に腰をおろす。
「お兄ちゃん、お久しぶりでございますね」
俺は笑顔を作った。
「ああ、ノノ、元気してたか?」
「はい。元気でございました」
「それなら良かった」
セニャがフライドポテトをかじりながら、
「ノノちゃんって言う名前なの? 歳は? 見た感じ、中学生ぐらい?」
ノノは自分の胸に手を当てる。
「ノノカと申します。中学一年生でした」
セニャがもぐもぐと口を動かす。
「ノノカだから、ノノちゃんね。僕も、ノノちゃんって、呼んで良い?」
「もちろんでございます」
ノノはうれしそうに両手を合わせる。続けて、
「あなたさまは、お兄ちゃんの、恋人でしょうか?」
「そうでーす」
セニャが右手をあげる。
「いや、違うだろ」
俺は首を振った。
「え、えーっ!?」
不満そうなセニャの表情。
ノノは口元に右手をあげた。
笑い声をこぼす。
「仲がよろしゅうございますね」
「うんうん、僕とトキは、仲良ち」
「あなたさまの、お名前を聞いてもよろしいでしょうか?」
セニャは自分の顔を指さす。
「僕はセリハ。でもでも、セニャって言う愛称で呼んでね」
「了解いたしました。セニャさん。ノノカは気の利かない者ですが、よろしくお願いいたします」
ノノは腰を折った。
「オッケー」
セニャは指で輪っかを作る。
俺はサラダを食べ終えて、ハシを置いた。
朝はこれで、ごちそうさまにしよう。
「ノノ、もうゲームはプレイしたのか?」
「昨日、少しやりました」
ノノがジュースに口をつける。
「ですが、昨夜ここに連れてこられたばかりで、まだまだ、ゲームのことが、分からずにいます」
「色々教えてやるよ」
俺は両腕をくむ。
「食事の後、ログインしてくれ」
「ログイン?」
ノノは顔をかたむける。
「お兄ちゃん、ログインって何でございますか?」
……そこから教えないとな。
セニャが人差し指を立てる。
「ログインって言うのは、ゲームを始めるってことだよ」
「そうでございましたか」
ノノは両手を合わせる。
「了解いたしました。お食事の後、ログインいたします」
「うんうん」
セニャが頷く。
俺はうなった。
「ノノは初心者だから、プートゲールにいるはずだよな」
「そうだね。僕たち、迎えに行かなくっちゃ」
セニャが指をくるくると回す。
ノノが笑顔になった。
「迎えに来ていただけるのですか? 感激でございます」
俺は苦笑する。
「ノノ、ログインしたら、村から出ないで待っていてくれるか?」
「了解いたしました」
「野良猫の住処にも入れなきゃね」
セニャは楽しそうに肩を揺らす。
「野良猫の住処、でございますか?」
ノノが疑問そうに、瞳を大きくする。
「これから、ゆっくり教えていくよ。」
俺は背もたれに寄りかかった。
「よろしくお願いいたします。お兄ちゃん、それと、セニャさん」
「どんとこーい」
セニャが自分の胸をたたいた。




