11-3 服屋(2)
ルナイルナイの服屋に来ていた。
セニャがカタログを持ち、女性陣がそばに寄って服を選んでいる。
「現実はもう秋なのに、薄手の衣装が多いわね」
「うん、それと、種類が少ない」
「でも、どれもカワイイでございますよ」
「うちは、どれにしようかしら」
「一応、コート、も、あり、ますね」
「あたしは黒っぽい服がいいんだよなー」
「あっ、これカワイイんじゃない?」
「カワイイね」
「これもカワイイでございます」
「うちは、このカワイイ衣装が気になるんだけど」
「この、カワイイ、服は、まだ、誰も、選んで、いませんか?」
「あたしも、今回はこのカワイイ服にしてみようかなー」
女の買い物は長い。
男性陣はわきに寄り、苦笑をこぼしつつ、待っていた。
「姉ちゃんたちぃ、服ぐらいさっさと決めておくれったら。もうずいぶん待っているぜい」
サクがぶちぶち言う。
その肩にキルが手を置いた。
「そう言うなサク。女たちがカワイイ服を着てくれるみてーだぞ?」
「うす、楽しみすね」
「女にとって服は命であーる」
「服か。僕は興味がないなあ」
俺はサツイに顔を向けた。
「サツイは、新しい服を作るのか?」
ピンクのスーツが似合ってはいるが、最初に会った時から変わらない衣装だった。
サツイが禁煙パイプをゆびでつまむ。
「いいや、吾輩はこのスーツが気に入っているのだ」
「おっさんも着替えろよー。同じ服ばかりだと飽きるぞ?」
「おっちゃん、同じ服ばかり着てると臭いと思われるぜい」
キルとサクが指摘する。
「自分も、着替えた方が良いと思いますね」
ユズが同意していた。
「同じ服を何着も持つという手もあるが?」
シグレが人差し指を立てる。
「それは厳しいな」
俺は苦笑する。
「シグレに同意であーる」
「うん。白衣があれば、作るとしようか」
「ピンクのスーツがあれば、作るのである」
サツイとシグレが顔を見合わせてにやりと笑う。
「おいおい兄さんたち二人、服ぐらい新しいのを着ようぜー」
キルが悲しそうな顔をした。
俺は女性陣の方を見やる。
「よしこれに決めた!」
「私はこれ」
「ノノカは、これを着てみるです」
「うちは、これに決まりね」
「誰も、選んで、無いよう、なので、これに、します」
「じゃああたしはこれだ」
どうやら決まったようだった。
セニャが歩いてきて、俺にカタログを渡す。
「女性陣は決まったから、トキ、これパス」
「了解だ」
俺は受け取ってメンズのページをはぐる。
「セニャ助けてくれ。サツイとシグレが今までと同じ服着るって言ってるんだよ」
キルが笑って言った。
「「うそ!」」
女性陣がびっくりした顔をする。
リリアが寄って来た。
「サツイ、お前の服をあたしが選んでやる」
ミユも来た。
「シグレ、新しい、服を、選んで、あげます、からね」
二人がカタログを再度見つめて、選び始める。
サツイとシグレが反対するように言う。
「ピンクスーツで良いのだ」
「僕も、この白衣が気に入っていてな」
「「ダメ!」」
女性たちはそろってダメ出しをした。
そして男性陣とリリアとミユが服を選び、作成する服が決まる。
セニャとメイがカタログを返却し、NPCの店員から素材を調達できるモンスターが沸く場所を聞いた。
みんなで建物を出る。
「それじゃあ、みんな、着いてきてね!」
セニャが言って、地図を開くメイと並んで歩き出した。
「新しい服はいらないであーる」
サツイがまだぶつぶつと言っている。
俺たちは谷を登って、山道に入った。
ずっと登っていくと、開けた草原に出る。
狩場に到着した。
「ここね」
「うん」
セニャとメイが立ち止まる。
「リアカーはどうすれば?」
シグレが聞いた。
「そこらへんに置いてくれ」
俺は草原の入口の横を指さす。
「分かった」
シグレが返事をし、そこにリアカーを置く。
ゲーム内は暗くなってきていた。
セニャがカバンからランタンを取り出して点灯させる。
草原を見渡すと、やはりと言うか、狩りをしているプレイヤーが多い。
出現しているモンスターは、オークエリート、オークエリートアーチャー、デスマジシャン、フォノンドラゴン、そして、小さな月に乗っている妖精のようなモンスター、アルテミスである。
アルテミス以外のモンスターの体格がでかい。
それに遠距離攻撃をしてくるモンスターがいる。
俺は注意を呼び掛けた。
「みんな、突っ込みすぎずに、注意して狩ろう」
そう言ったのだが。
「さあさあさあ、大暴れしてやるのである。吾輩の怒りは爆発寸前! アトミックフィジカルスマッシャー」
サツイが近くに沸いたオークエリートに向かって突入していく。
「馬鹿……」
セニャがつぶやいた。
その肩にリリアがぽんと手を置く。
「やらせとけ」
「ぬうおっ!」
スピードに乗っていたサツイが石につまずいて転んだ。
肩からズザーと地面を滑る。
「ぐほほ!」
オークエリートが吠えた。
サツイに剣を振り下ろす。
「この馬鹿! ヴァンパイアイリュージョン!」
リリアがすぐに助けに行った。
九人のリリアの分身がオークエリートを切り裂く。
バシュウッ。
「ぐうぁー!」
モンスターが倒れた。
赤い光になる。
リリアが転んでいるサツイに手を差し出した。
「ほら、サツイ。大丈夫か?」
サツイは手を取らなかった。
立ち上がり胸ポケットからタバコを取り出す。
そのタバコも今の衝撃で少し折れ曲がっていた。
一本くわえる。
シュボッ。
「何だか最近、吾輩は散々であーる」
悲しそうな声だ。
ピンクのスーツが肩から土で汚れていた。
……指名手配されたことで腹が立っているのが分かるが。
俺は再度注意を呼び掛ける。
「サツイ、下がれ! 連携を取って戦うぞ」
彼はそっぽを向く。
また走り出した。
近くのアルテミスを狙っている。
「さあさあさあ、今度こそ行ってみよう!」
「ぽふぉん!」
アルテミスが鳴き声を上げ、サツイに魔法をかけた。
小さなウサギに変身するサツイ。
……そう言うデバフか。
「全員アルテミスを!」
俺は指示を出す。
「さっちゃんは何で言うことを聞かないのよー、もう!」
「承知」
「かしこまりましたです」
「分かったけど!」
「分かり、ました」
「おいおいトキト、どうすりゃあいいんだ?」
「おっちゃん子供みてーだなー」
「おーけー」
「うす、行きます」
「行こう」
全員がアルテミスに攻撃をしかける。
やがて倒すと、サツイの姿がまた人間に戻った。
彼はキレたような顔つきである。
「吾輩の怒りはいま! ボルケーノであぁぁぁぁああああある!」
叫んでいた。
また近くの敵に向かって走っていく。
「トキ、どうしよう」
「ご主人様、どうすれば」
セニャとメイが俺に困ったような顔を向ける。
俺は盛大なため息をついた。
やりようが一つしかない。
「全員、サツイを援護するように戦え! セニャはサツイにヒールをかかすな!」
「分かったわよもう」
セニャが不承不承返事をする。続けて、
「ヘイストとアグレッシブをかけとくわ!」
セニャがサツイを指さしてバフスキルを唱えた。
サツイの頭上に赤と緑の玉が灯る。
「なんか、トキが、気の毒、ですね」
ミユが弱ったような顔をした。
「ったくあの野郎」
リリアが吐き捨てる。
みんなは返事をするものの、ぶつぶつと文句をこぼした。
ちなみにヘイストポーションは、カバンに入っている数に限りがあるので、基本的には温存である。
そしてサツイを援護しながらの狩りを1時間ほど続ける。
素材がリアカーに溜まった頃には昼の12時近くだった。
「見たか。吾輩の華麗な腕さばき!」
サツイの顔が赤い。
鬱憤は晴れていないようだ。
声をかけるにも、怒っている人にはかけづらい。
みんなで帰還をし、服屋にまた戻った。




