1-15 過ぎる日々、と、ステータスの確認
翌日。
俺たちは村の大工屋の前にログインをして、輪になっていた。
セニャが両手を開いてしゃべる。
「ねえ、烈風の地のボス討伐まで、あと9日しかないけど、どうする?」
「オイラが一撃でボスをやっつけってやるって! 心配すんな」
サクは胸をでんと張る。
セニャは笑いに体を揺すりながら、
「サクは頼もしいわね」
「あったりまえだい! オイラはこのギルドのエースだぞ?」
俺はあごに手をつける。
「とにかく、狩りをして、みんなのレベルを上げるしかないな」
「そう」
メイが頷く。
セニャが思案顔をする。
「そうよね。それでなんだけど、今日からみんなで、山の上の洞窟にこもることにしましょう」
「洞窟?」
メイが疑問が向ける。
「うん。この村の山の上に、僕とトキしか知らない洞窟があるの。あそこなら、狩場を独占できるわ」
「行こう」
メイがやる気をたぎらせて、両手を握る。
「ランタンが必要だな」
俺は右手を軽く上げた。
「うんうん、洞窟だからね。それじゃあみんなで、道具屋に買い込みに行きましょう。ランタン以外にも、ポーションとか、帰還水晶をいっぱい買わないと」
「オイラは! おやつが欲しいな!」
メイがサクの肩にそっと手を置く。
「ピクニックじゃない」
「えー! おやつぅ」
サクが顔をしかめている。
俺たちは大工屋に預けてあったリアカーを返してもらう。
また俺が引くことになった。
「それじゃあ、行きましょう」
セニャを先頭に歩き出した。
それから俺たちは道具屋に行った。
必要な道具を買い込み、カバンに入りきらないものはリアカーの荷台に乗せる。
そして村を出て、洞窟に向かったのだった。
山道で、ビッグスパイダーが出現した。
一匹ずつ落ち着いて倒せば、脅威ではなかった。
それに今はメイとサクがいる。
4人でかかれば、安全に山を登ることが出来た。
道はセニャが覚えていた。
洞窟にたどり着き、俺はリアカーの持ち手を置く。
さすがに洞窟内にリアカーを運ぶのは困難だった。
「リアカーはここに置きましょう」
「そうだな」
俺は頷く。
「え? だけどさ、誰かに盗られたらどうするの!?」
サクが唇をすぼめる。
メイがサクの頭に優しく手をのせた。
「大丈夫。誰も来ない」
「そうかなあ? 通りかかる人もいると思うけど」
俺たちは顔を見合わせる。
「盗られたときは、あきらめるしかないわね」
セニャが両腕を胸にくむ。
「だって持っていけないもの」
「仕方ないか」
俺は頷く。
「うん」
「えー! もったいないよ」
サクが弱った顔をする。
「じゃあサク、一人でリアカーを見張ってる?」
「えー! やだよ。オイラ一人じゃ、モンスターが来たらさすがに死ぬって」
「サクはエースじゃないの?」
「エ、エースだけどさあ。一人じゃ無理だよ」
「ふーん。じゃあ、一緒に行きましょ?」
「仕方ないなあ! バイバイッ、リアカーとアイテム!」
サクは踏ん切りがついたようだ。
リアカーに手を振っている、
「それじゃあ、行くわよ。どんなモンスターが出るか分からないから、みんな、気を付けてね」
「おう」
「うん」
「がってん! 承知の助!」
俺がランタンにマッチを入れて火をつけた。
それを持って先頭に立とうとする。
後ろから肩を掴まれて立ち止まる。
振り返った。
「ん? メイ、どうした?」
「私が先頭」
「いや、いいって。俺が……」
「ダメ」
「なんで?」
「私、盾だから」
「ま、まあそういうのなら」
俺たちのやり取りをセニャが眉をひそめて見つめていた。
メイに先頭をゆずり、彼女が先に洞窟へ侵入する。
彼女は剣と盾を持っているため、ランタンを持てない。
俺はすぐ後ろから道を照らした。
昨日来た時にあった地面に落ちている鎧やローブ、壁に刺さっている剣はそのままだった。
洞窟の奥からカタカタと音がする。
メイが立ち止まる。
「何か来る」
俺がランタンの明かりを照らすと、ガイコツのモンスターがこちらへ向かってきている。
スケルトンだ。
「ランタンを置くぞ」
置いて、戦闘態勢に入る。
スケルトンの右こぶしをメイが盾で防ぐ。
よろけたモンスターを俺が包丁で叩くように切る。
後ろからはサクの弓矢と、セニャのファイアーボールが飛来する。
スケルトンはすぐに力尽きて倒れた。
「なんだ、弱いじゃない」
セニャが両手を腰に当てて息をついた。
「ふん! オイラの弓矢のおかげだな!」
サクはふんぞりがえっている。
「先に進む」
メイが歩き出す。
「ゆっくり進んでくれ」
俺はランタンを持った。
洞窟に出るモンスターは、スケルトン、スケルトンソルジャー、ゾンビ、一つ目小僧と言った、アンデット系のモンスターばかりだった。
ひらけたところを見つけて、そこにランタンを置く。
そこで俺たちは、飽きても疲れても狩りを続けた。
ある時、スケルトンソルジャーがボーンソードという剣を落とした。
俺がそれを装備することになり、包丁とはやっとのことでお別れとなった。
洞窟にこもって狩りをしながら、一週間の日々が過ぎていく。
ボス討伐の日まであと二日だった。
俺たちはレベルが上がり、みんなで確認しあった。
みんなのステータスはこんなふうなものである。
名前 トキト
レベル 9
HP 75
攻撃力 17
防御力 14
素早さ 116
魔法攻撃力 0
魔法防御力 5
会心率 2、5%
会心ダメージ 1、1倍
スキル おたけび
アビリティ なし
もちろん素早さにステータスポイントを全振りしている。
ちなみに防御力が高いのは、非表示にしている装備のせいだ。
この一週間の間で、洞窟と村を行き来して、みんなの分そろえたのだ。
攻撃力も、ボーンソードのおかげで通常値より4上がっている。
次はセニャである。
名前 セリハ
レベル 7
HP 43
攻撃力 3
防御力 12
素早さ 9
魔法攻撃力 123
魔法防御力 28
会心率 2、5%
会心ダメージ 1、1倍
スキル ファイアーボール アイスランス ヒール キュアポイズン ヘイスト
アビリティ 恋心LV1
セニャは新しいスキルを二つ覚えた。
アイスランスとキュアポイズンである。
俺とは違ってレベルが上がるごとに魔法を覚えるようだ。
さらに恋心と言うアビリティも覚えていた。
「セニャ、お前、誰かに恋してるの?」
俺が突っ込んで訊くと、
「う、うるさぁぁい! 見るんじゃない! トキの、えっちっちー」
ステータスボードをすぐにしまった。
次はメイである。
名前 メイコ
レベル 11
HP 201
攻撃力 8
防御力 20
素早さ 5
魔法攻撃力 0
魔法防御力 14
会心率 2、3%
会心ダメージ 1、1倍
スキル ドレインスラッシュ
アビリティ 恋心LV1
メイはHPがべらぼーに高い。
ステータスポイントをHPに全振りしているからだった。
そしてスキル、ドレインスラッシュをはじめから覚えている。
洞窟の狩りをしている時に何度もそのスキルを見る機会があった。
それを使うと5秒間の間、攻撃時に敵のHPを吸い取ることが出来る。
そしてセニャと同じく、アビリティに恋心というものを覚えていた。
セニャがギクッとしてたずねる。
「メイも、恋心、覚えてるね」
「うん。覚えた」
「だ、誰かに恋をしているの」
「……うん」
「え? だ、誰?」
「内緒」
メイは首を振った。
相手は教えてくれないようだ。
それにしても、恋心というアビリティはどんな効果があるのだろうか?
次はサクである。
名前 サク
レベル 7
HP 47
攻撃力 8
防御力 12
素早さ 20
魔法攻撃力 6
魔法防御力 6
会心率 12、5%
会心ダメージ 1、2倍
スキル 落とし穴
アビリティ なし
サクは会心率にステータスポイントを全振りしていた。
会心が出ると攻撃力は、サクの場合なら1.2倍になる。
その上、敵の防御力を貫通できる。
セニャの魔法ほどではないが、サクはギルドで2番目に与えるダメージが高いのだった。
「へっへーん、どうだ! オイラのステータスは。参ったか!」
「うんうん、参った」
セニャはサクが可愛くて仕方ないようで、彼がしゃべるといつもニコニコする。
「惚れんなよな!」
「それは、無いかな」
「嘘でも惚れるって言え!」
「惚れる惚れる」
「へっへー」
サクが鼻の頭をかいた。
以上である。
その日、俺たちはランタンの油を買いに村へ戻っていた。
リアカーはワープができないので、洞窟前に置いてきている。
広場を歩いていた時のことだ。
事件は起こった。




