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1-1 プロローグ



 借金のかたに俺は売られた。



 込み入った家庭事情の説明は、いまはしない。

 聞いたって胸くそ悪くなるだけだろうし。

 それにいま俺には、心に余裕が無いんだ。



 勘弁な。



 家の借金の総額は五千万円。

 とてもじゃねーけど、うちにそれを返済できるような貯金は無いわけで。



 その日、家の客間で、取り立て屋はある紹介をした。



「高校生のお子さんに、ゲームに参加してもらえませんか? そうすれば借金を帳消しにすると、社長は言っています」



 ここで言っているお子さんとは俺のことだ。

 ちなみに俺の下には妹がいる。

 まだ中学生だ。




 たまたま俺は客間に居合わせていた。



 父さんは声を震わせる。



「あ、あの、ゲームとは?」

「ゲームの内容については教えられません。しかし、ただ一つだけ、教えてあげましょう。お子さんはもうこの家に帰ってきません」

「そ、そんな! 身売りじゃないですか?」

「うるせえぞ!」



 取り立て屋が木製のテーブルを乱暴に蹴る。

 けたたましい音が鳴った。



「烏丸さん、いまのあなたに拒否権はないんですよ。もし断りたいのなら、断りたいで、それ相応の礼儀を見せてくださいよ。金は払えるんですか?」



 取り立て屋が怒りに頬をひくつかせる。



 青白い顔の父さんが視線をこちらに向けた。



「いいか? トキト」

「いいよ、父さん」



 ……借金を帳消しにできるのなら、俺はどうなったって良い。



 借金取りは満足そうな面で、契約書を取り出した。

 父親が立ち上がってテーブルを直す。

 ペンを取り出してサインした。

 その手は震えている。

 捺印する。



 その日の夕暮れ、借金取りの車で俺はどこかに連れていかれた。



 多分、この家にはもう帰って来れない。



 高校にも行くことができない。



 ……そして



 案内されたホテルの一室。



 四畳ぐらいの小さな部屋だ、調度品っていうものが全然ない。

 あるのはシングルベッドが一つと、その隣に置かれている電化製品……これはゲーム機器か?



「ベッドに座りなさい」



 車を降りてから、俺をここまで案内した男性が言った。

 取り立て屋とは別の人間だ。

 黒いグラサンをかけているせいで表情が読めない。

 服装は黒のスーツである。



 俺は言われた通りにベッドに腰を下ろした。

「あの、これから俺は、何をするんですか?」



 黒のスーツは答えず、ゲーム機器のヘルメットを俺の頭にかぶせた。



「な、なんですかこれは?」

 


 俺は身じろぎする。

 視界をふさがれた。



「これはVRMMO専用のフレームギアです。トキトくん、君には今からRPGをやってもらいます。デスゲームです」



 淡々とした低い声だった。



「デ、デスゲーム!?」



「そうです。このゲームをクリアできれば、君は自由になれます。しかし、ゲーム内でモンスターや誰かに殺されるようなことがあれば、このフレームギアから発生するマイクロ波が君の脳を焼くでしょう」



「そ、そんな!」



「落ち着いて聞いてください。いま、このゲームに参加している日本人は三千人ほどいます。君と同じように、特殊な理由があって参加しています」



 ……特殊な理由とは一体なんだ? 俺みたいに身売りされた人が三千人いるってことか?



 黒のスーツは言葉を続ける。



「日本の富豪たちが、プレイヤーたちにお金をかけて遊びながら、プレイ状況を鑑賞しています。賭博の内容は、誰がこのゲームを一番にクリアできるか、とか、誰がより多くの試練を乗り越えることができるか、というものです」



「は、はあ」

「トキトくん、今日から君もこのゲームのプレイヤーです」

「嫌だ、って言っても、無駄なんでしょうね」

「ええ」



 俺はがっくりと頭を垂れる。



「では、靴を脱いで、寝てください」

「はい」



 俺は言われた通りにした。

 両手の感触をたよりにベッドに寝転がる。

 枕を見つけて後頭部をつける。



「説明を続けます」

「はい」



「プレイヤーには、一日八時間以上のゲームプレイが義務付けられています。それ以上の時間をゲームするのは自由ですが、八時間よりも少なくてはいけません。これも抹殺の対象になるので、よく覚えていてください」



「は、はい……」



「しかし、今日のところは、もう夜の七時過ぎということもありますので、今夜は八時間のプレイをしなくても大丈夫です」



「あ、はい」



「プレイヤーには、朝昼晩と食事が出ます。食べたいときに、ゲームをログアウトして、現実に戻ってきてください。食事は、この階に食堂がありますのでそこで摂ってください。何時でもかまいません」



「はい」

「以上になります」

「あ、ありがとうございます」



「それでは、習うより慣れろ、という言葉もありますので、早速、ゲームをしてください。準備は良いですか?」



 俺は返事のかわりに頷いた。



 黒のスーツがフレームギアについているスタートボタンを押す。



「生き残ることです」



 最後に聞こえた声が、何となく印象に残った。



 意識がどこかに吸い込まれる。


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