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人手不足時代をを迎えてのリストラ

作者: きつねあるき

 皆様は、2025年問題というのをご存知でしょうか。


 いわゆる、団塊(だんかい)の世代約800万人全員が75才以上となります。


 2025年問題とは、超高齢(ちょうこうれい)化社会が(おとず)れることで、医療(いりょう)費や介護(かいご)費の増大、またそれに(ともな)う現役世代の負担の増大になります。


 2025年より10年前には2015年問題というのがあって、第一次ベビーブームで誕生(たんじょう)し、日本経済を引っ張ってきた団塊の世代の方々が、2012年から65才を(むか)え始めて、2015年には全ての団塊の世代の方たちが、年金の全額が給付される65才以上になるというものです。


 団塊の世代の方々の労働者人口の(そう)(あつ)かった為、2015年以降は人気のない職種では人員に穴があき始めました。


 その翌年の2016年頃から、自分が勤務している設備管理業は、団塊世代が抜けた穴が徐々(じょじょ)に大きくなってきました。


 その穴を()めるべく、同業界の各社は一斉(いっせい)に求人を出しました。


 ただ、どこの会社も欲しがるのは新卒の方でした。


 新卒や第2新卒(新卒で入社して3年未満(みまん)の求職者)の方々を、各社(うば)い合いの状態でしたが、若者の人口は年々減っていたので、なかなか採用まで()ぎ付けられませんでした。


 定年が間近に(せま)り、辞めていく社員は多数いるのに、この頃になると現場には若手がほとんど入って来なくなりました。


 そんな時、会社からリストラの話がきたのです


 リストラに(いた)経緯(けいい)は以下になります。


 2016年(平成28年)の秋の事でした。


 自分が勤めている会社は、この年の約2年前にある会社の子会社になりました。


 社長の一族に後継者(こうけいしゃ)がいなかった為、取引のあった会社と子会社化の契約(けいやく)が交わされました。


 その時、大幅(おおはば)減給(げんきゅう)や人員整理が(うわさ)され、大騒(おおさわ)ぎになりました。


 それから1年半位は動きが無かったのですが、2016年の秋から大々的にリストラを始まったのです。


 それは、本社にいた子会社化された社員を、一斉に人員整理した事から始まりました。


 それと、一部の宿直現場から先行して、宿直手当廃止(はいし)をしたのです。


 我々の業界では、現場長以外は宿直手当で食っているという給料体系なので、減給で食っていけない方から次々と退職(たいしょく)していきました。


 当然、その中には若手も大勢(おおぜい)いた訳で、蜘蛛(くも)の子を散らすように退職していきました。


 将来を嘱望(しょくぼう)された若手が(こぞ)って去って行ったので、多くの現場では若手が皆無(かいむ)になってしまった所が続出しました。


 そこで、あちこちの現場のオーナーは激怒(げきど)しました。


「4年も丹念(たんねん)に育ててきて、率先(そっせん)して仕事をしていた若手が皆いなくなった!」


「何て事をしてくれたんだ!」


「海千山千の奴らは使いにくいから(たよ)りにしていたのに!」


 と、あらゆる現場から、再び若手を配属(はいぞく)するよう本社にクレームが入りました。


 そこで、特に(きび)しく言ってきたオーナーの要望(ようぼう)に応えるべく、若手狩りが始まったのです。


 その(あお)りを受け、自分のいる現場も23才の若手が他現場に引き抜かれたのですが、その代替要員で配属されたのが66才の白髪(はくはつ)で太った男性だったのです。


 異動(いどう)した23才の方は、20才で入社して、やっと一通り仕事が出来るようになった矢先(やさき)でした。


 66才の方は、アルバイトで半年契約(けいやく)でした。


 元現場長というだけあって仕事は出来たのですが、契約期間の間は頑張っていましたが、更新(こうしん)をする気はないと言っていました。


 リストラで多くの若手社員を失った後、若手を入れろと五月蠅(うるさ)い現場には、他の現場から問答無用で若手を引き抜き、年齢に対して寛容(かんよう)な現場には、半年契約で65才以上のアルバイトを配属するいう人事をするようになりました。


 この問題においては、まず、宿直手当を廃止したのが愚劣(ぐれつ)でした。


 現場の声も聞かずに、親会社社長の(つる)の一声だけで給料をカットするのは、人件費の削減(さくげん)で利益は上がるものの、長年働いた従業員の存在を無き者にしてしまいます。


 それに、一人前の技術者になるのには何年も時間が掛かるので、現場が安定しているからといって、それは従業員の努力によってレベルが(たも)たれているだけの話です。


 それと、現場の方は最低でも資格が3~4個必要なので、すぐには代替えがきかないのがネックでした。


 給料をカットされると、仕事に対するモチベーションは下がりますし、退職者が後を絶たないのも(いた)し方のないところです。


 親会社の方々は、一回も現場の様子を見に来る事も無く、紙っぺら1枚でリストラをした事は、現場の従業員を()めていたのでしょう。


 ただ、人件費を削ればいいという安易な方法をとったので、親会社の従業員は激怒したオーナーの対応に追われ、とんだしっぺ返しを食らう事になりました。


 宿直手当廃止というリストラの反動が大きく、若手だけではなく中堅の方も多数退職したので、会社側は人件費の節減(せつげん)には成功しました。


 しかし、何ヵ月かすると、残った従業員だけでは仕事に支障(ししょう)が出るようになりました。


 あと1人辞められると、現場自体が立ち行かなくなる時もありました。


 配属される方も遅れていたので、契約人数を割り込んだ事による解約(かいやく)危機(きき)(せま)った事も、(めず)しくなくなってきました。


 もし、現場が解約になってしまうと、会社にとっては大損になってしまうので、どうするのかを静観(せいかん)していました。


 しかし、リストラの圧力はとどまる事を知らず、先行して宿直手当をカットした現場の次は、自分のいる現場の宿直手当をカットするという話が来ました。


「これは戦うしかない!」


 と思い、自分は何人かの若手を連れて、本社まで直談判(じかだんぱん)に行きました。


「宿直手当をカットするなら辞める」


「現場の皆さんに宿直手当が出ないなら、全員18時で帰宅する!」


 と、他の部署(ぶしょ)にも聞こえるように、声を荒げて(うった)えました。


 若手に関しては、どこの会社も引く手数多だったから、交渉(こうしょう)決裂(けつれつ)したら有給休暇(ゆうきゅうきゅうか)を全部使って転職活動をすればいい話でした。


 すると、程なくして宿直手当カットの話が流れたのですが、戦わなかったらずっとこのままだったでしょう。


 (ちな)みに、カットされた額ですが、手取り金額から約7万円だったようです。


 技術職は、お金を生まないから甘く見られがちですが、低賃金でやる気の無い高齢者バイトの()まり場になるのは勘弁(かんべん)して欲しいです。


 人材(なん)の割には、職にあぶれてホームレスになっている方が多いのも事実です。


 そう思うと、今の世の中が如何(いか)に病んでいるかが分かります。


 かつてのバブル崩壊(ほうかい)後に、各社が次々にリストラ(この時は人員整理)をした反動で、何年にも渡り自殺者の数が高止まりしていたり、人生設計を大きく(くる)わされた方も相当多かったでしょう。


 会社勤めをしていると、必ずと言っていいほど訪れるリストラには、戦々恐々(せんせんきょうきょう)です。


 バブル崩壊後の、行き過ぎたリストラの後に学んだ事は、


「リストラを、するもされるも誰も幸せになれない」


 という事でした。


 会社の言いなりで(はげ)しく首切りをしていた担当者は、怨讐(おんしゅう)で自宅を()やされたり、駅のホームや歩道橋から突き落とされたり、はたまた夜道で暴行(ぼうこう)を受けたとか、壮絶(そうぜつ)な過去がありました。


 しかし、人は何年かすると過去の教訓(きょうくん)を全く忘れて、同じ事を繰り返すのです。


 最近では、何の為に働いて利益を上げているかというと、企業の内部留保(りゅうほ)の為というのが現状です。


 従業員の給料が上がらない反面、内部留保は着実に増えていますからね。


 それでもって、物価高がずっと続いているので、庶民(しょみん)の暮らしは益々苦しくなるでしょう。


 労働条件のいい正社員として転職をする場合は、35才迄に長く勤められる会社が見つかるといいのですが、先の事は誰にも分かりませんからね。


 話しを戻しますが、その66才の元現場長の方なんですが、配属される時に、


「契約は半年だけだから」


「半年後には若手を入れるから、それまで(つな)いどいて」


 と、サラッと言われたらしく、本人も半年で終わりだと思っていました。


 しかし、今の時代は現場作業員が人材難だから、そうそう即戦力の若手が確保出来る訳もありませんでした。


 結局、66才の方は、更に半年延長になったのです。


 会社側としては、現場の契約人数の頭数だけ(そろ)っていればいいのでしょうが、やはり寄る年波には勝てぬのか、現場に配属された65才以上の方は、半年でだいたい8~10キロ位()せます。


 結局、66才の方は、(ひざ)が痛くて仕事が出来なくなるまで働いていました。


 そして、回りの同僚の制止を押し切って、70才で退職した時には2020年になっていました。


 人材難になると、より良い条件の会社に人が流れますが、休日が4週8休(週休2日制)が多いご時世で、4週6休で、盆、暮れ、正月、ゴールデンウィークを含んで3日以上の休暇(きゅうか)が無い為か、なかなか人が集まらないようです。


 今後も、上記のような人の入れ替えが続くのが確実なので、とても気が重いです。


 66才の方が配属されてから、65才以上の方が何人か配属されましたが、彼らの強みはオーナーや現場長に()しき慣習(かんしゅう)をズバっと指摘(してき)したとしても、頭ごなしに怒鳴(どな)られる事がないという事です。(年配者を無下(むげ)(あつか)えないという慣習もあるので)


 時には、平社員の味方になってくれるので、ずっと止まっていた仕事が進む事があります。(現場は取引先以外では物が購入(こうにゅう)出来ないので、ストップしがちな物品購入を、人脈(じんみゃく)を使って簡単に他の現場から持って来たりします)


 ただ、難点(なんてん)を挙げると、プライドが高くて仕事を人に聞けないというのがあります。


 上役には一目(いちもく)置かれても、ある程度仕事が分かると、その先は裁量(さいりょう)でやってしまう事が多いのです。


 すると、同僚からは、


「この(じい)さん、やる気がないからいつも間違っている!」


 って言われていました。


 かと言って、同僚の方は65才以上の方に、間違えた部分を教えたりはしませんでした。


 自分は、65才以上の方に対しても、どんな些細(ささい)な間違いも指摘(してき)して丁寧(ていねい)に教えていたので、その問題は徐々に解消していきました。


 プライドが高い分人に聞けないので、間違いを教えると危機感を持って取り組むので、意外と対応力がある事が分かりました。


 どうやらこの世代の方は、仕事が聞けるのは最初の1年だけだと思っている方が多いので、2年目にダメになるケースが多いのが特徴(とくちょう)でした。


 今までの先輩(せんぱい)方に、散々こう教えられたからなのでしょう。


「お前、ここに入って何年だ?」


「はい、1年過ぎたところです」


「馬鹿野郎!1年もやって何で出来ない(分からない)んだよ!辞めちまえ!(または帰れ!)」


 なので、その教えがずっと()み付いているのでしょう。


 真面(まとも)に教えられた経験もなく、何か聞いたとしても、


「仕事は教わるものじゃない、(ぬす)むものだ!」


「仕事中に目で盗め!」


 とか、言われ続けた背景(はいけい)があったからでしょう。


 現場が、65才以上のアルバイトの方ばかりになると、次の半年契約をするかしないか気になるのと、半年おきに本社に行って再契約するので、その度に勤務を抜けられて作業が遅れがちになります。


 あとは、一人暮らしの方の場合、無断で何日も休まれて連絡もつかないと、自宅訪問の際に緊張(きんちょう)が走ります。


 実際、3日間連絡が取れず、現場長が日勤明けに65才の方のアパートに行った時に、亡くなっていた事もありました。


 こういったケースもありますが、一人工(いちにんく)として頭数に入っているので、代替えの方が来るまでは、一日でも長く続けて欲しいのが現場側の願いだと思います。


 ですが、高齢の方は大病をしてしまうと、弱気になって辞めていく方が多いのも事実です。


 現場の皆さんに迷惑が掛かっていると、自責(じせき)(ねん)()られてしまうからなのでしょう。


 やはり、年齢を重ねても、健康を維持するのは大変なんでしょうね。


 2015年問題の次は2040年問題でしょう。


 団塊世代の次に労働人口が多い、団塊ジュニア(第2次ベビーブーム世代で1971年~74年生まれ)の方が、2040年には皆65才以上になり、生産年齢人口が大幅に減少し社会保障費が急激に増加するでしょう。


 2040年では、いくらその時の高齢者に無理をして働かせたとしても、団塊ジュニアが最後の人口の厚い世代になる訳なので、全ての世代が安心できる社会保障の基盤を構築するには、システム自体の改革を行わないとならないでしょう。


 現在でも、労働市場は若手一辺倒の求人ばかりですが、若手の生活環境は必ずしも恵まれているとは言い難いところです。


 労働については、何でもかんでも外国の真似をするだけでなく、古き良き日本の労働環境も、時には見直してみてはいかがかと思います。


 今回のお話は以上になります。


 最後までご拝読頂きまして誠にありがとうございました。

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