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ショートショート9月~2回目

誰だよ

作者: たかさば

「あれ!!久しぶりー!!」


 週末、スーパーで半額セールの乾物を漁っていたら、声をかけられた。

 この騒がしい声は……、以前働いていた会社の、同僚だ!


「ああ、こんにちは。久しぶりだねえ、まだあの店で働いてるの?」

「うん、元気にやってるよー、何、今どうしてるの!!」


 ずいずいとこちらに歩み寄り、マシンガンのように言葉を放つ元同僚の様子を見て、やけにフレンドリーな人が多かった以前の職場を思い出す。

 なんというか、距離感のない人が多くてさ、微妙に気疲れしちゃって…わりときつかったんだよな……。


「はは、ごく普通に自営業の手伝いしてるよ。」

「またまたっ!!!聞いたわよぅ、旦那さんすごく羽振りがいいそうじゃないの!!ものすごい買い物してたの、うちの三宅さんが見たって言ってたよ!」


 うちの旦那は前の職場に何度か顔を出したことがある。

 事務所のエアコンが壊れた時に業者として入ったのだが……、非常に大きな体をしている旦那は、一瞬で従業員全員の記憶に残ってしまったのだな。


「まあ、工事屋だから工具とか部材はそれなりに買うけど、自分が使うわけではなくてですね。」


 ものすごい買い物の内容がわからないから、なんと返事をしていいものか。

 スーパーで半額のお惣菜買い込んでるところを見られたのか、子供会のおやつを買い込んでいるところを見られたのか、敬老会の記念品を買い込んでいるところを見られたのか、町内会のお祭りの抽選会の景品を買い込んでいるところを見られたのか、仕事でキッチンのリフォームを頼まれて一式買い込んでいるところを見られたのか…。


「新しい車も買ったんでしょう?見るたびに違う車に乗ってるってみんなが言ってるわよう!!」

「いや…レンタカーで旅行行ったのを見てたんじゃ?それともトラックのこと言ってる?もしかして泥酔した友達の代わりに運転した車の事かも?」


 ああ…なんかこう、自分の近況を根掘り葉掘り聞かれる感じ、非常にこう……げっそりする。

 もう一緒に働いてないんだしさあ、今後付き合いが続いていく可能性なんて皆無なんだからほっといて欲しいんだけど…無下にするわけにもいかないし、もうそろそろ勘弁してくれないかな。娘が来ちゃうよ。


「またまた!!ごまかしちゃって!!裕福になったんだったらなんかおごってよ!!」

「裕福どころか、エンゲル係数が高すぎて風前の灯火だよ……。」


 きっと近々、私の話で職場で盛り上がるんだろうなあ……。久々に見たら老けてたよ、相変わらず恥ずかしいキャラクターもののTシャツ着てたよ、儲かってること隠そうとしてたよ、ぜんぶ否定するところとか全く変わってなくて、靴は犬の毛だらけでかばんは猫の毛だらけでさあ、人ってホント変わんないんだって!みたいなことを、絶対に話すはずなのだ。


 なぜなら、私がまだあの会社で働いていた頃、歴代のやめていった人たちは皆、働く人々の慰み者になっていたからである。


 ―――唐木さん見たよ!めっちゃ太っててウケる!!

 ―――加島さんすごく不幸そうでさあ、縁起悪いから逃げちゃった!

 ―――郡司さんねえ、また転職したらしいよ、相変わらず飽きっぽくてだらしないよね!

 ―――原さんの動きがキモすぎて遠くからでもばっちりわかってさあ、ヤバイよね、あのジジイ!


「でも娘さんもいい所に就職したんでしょう!新聞に載ってたってみんなでほめたたえてたのよ!」

「はは、まあ、うん…、まだ一年目だし。」


 誰がばらしたんだ、疑心暗鬼の火が灯る。娘の就職先など相当チェックしていないとわからないはず。なんでもういない人の動向を気にして騒ぎ立てるのか……。


「お母さん、お待たせ~、あれ、こんにちは?」

「あらお嬢さん?ねえねえ、いい会社に就職したんでしょう、よかったわねえ!」


 トイレに行っていた娘が出てくる前に逃げようと思っていたのに!


 ……ヤバい、娘の顔までバレてしまった。

 どうせ娘がでかいとか爆乳とか似てないとか面白おかしく盛り上がるんだよ……。


「ねえねえ、うちの会社に良い人いるんだけど、どお?」

「あはは、いい人はいっぱいいるんで、大丈夫です!…お母さん、お父さんが迎えに来たって言ってる、早く行こうよ。」


 あまりの食いつきに、能天気な娘がちょっと引いてるぞ……。

 ああ、どうせ娘が塩対応とか彼氏いるらしいとか孫が生まれるとか適当な話で盛り上がるんだよ!


「あらまっ!!旦那さんの送迎?!愛されてるわねえ、うらやましいわあ~……。」


 どう考えても、大事故の予感しかしない。


「あはは、じゃあ皆さんによろしく。ではでは。」

「失礼します。」


「またね~♥️」


 または全力で回避したい。皆さんによろしくだってしたくない。もう遭遇したくない。


 私は、娘を引き連れて、駐車場へと急いだ。


「何、知り合い?騒がしい人だったね!」

「…佐羽商事の同僚だった人だよ。」


 ああ、テンション下がるなあ、もう……。


「あ、お母さん、こっち、こっち!!」


 太ましい声に振り向くと……ピカピカの車から手を降る旦那の姿が。

 今日は、旦那の車検でさ、代車が出るってんでドライブに行こうという話になっていたのだな。

 きょうびの代車って、ずいぶんキレイなんだなってね……。


「じゃー、業務用スーパー行こ!」

「へいへい。」


 車にのりこみ、ふとスーパーの入り口を見ると……、ああ、さっきの元同僚だ。……絶対乗り込むところ見てたな。


 ……果たして、うちは何台の車を所有することになるのかね。


 縁の切れた会社のなかには、私の知らない「私´」が存在し続けて行くのだなあ……。


 おかしな自分が発生するのを全力で阻止したかったけど、もう今さら、無理だな。


「私´」という、自分の知らない誰かの受難を思い、私はため息をひとつ、ついたのであった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 『噂は娯楽』というのが良くでていたと思います。 [一言] わかる、わかる。げんなりしますよねぇ〜。
[良い点]  居なくなった人のあることないことを言い合って笑い話にしたりとか……。  どこにでもしょうもないことで盛り上がる人たちがいますよね( 一一)他人の芝生は青く見えて、さらには巨大な何かへと知…
[良い点] なんじゃこれ、パワーごりごりですな [気になる点] 私’=わだじ [一言] まあ謎々の謎現象。第一印象の一人歩き
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