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地球から地球に転生した男 〜黒銀のミストリオン〜   作者: 大志目マサオ
第一章 幼年期編 長い一日
5/11

第五話 朝食。不穏。

マクスウェル公爵家の朝げでございます。


「すいません。お待たせしました!」


 みんな勢揃いだな。公爵家(うち)の朝食は8時頃が目安だ。昼食が12時頃、夕食が18時頃と前世とほとんど変わらずに食事ができるのも良いところだ。

 ちなみに時計はあまり前世の物と変わらない、自前の懐中時計と何ヶ所かに時計が設置してある。不思議なことに表記や機能も前世と大体同じだ。


「グロウバードは見れた?」

「はい母様、とても綺麗でした!」


「良かったわね。さあ座って座って。キュロスも話したいことがあるから一緒に座りなさい」


「はい! ありがとうございます!」

 

 キュロスの奴め。なかなか運がいいじゃないか。

 俺とキュロスは母親に促され席に着くとメイドが料理を運んできた。公爵家(うち)ではこうして食事に配下が同席することは珍しくない。形式なんぞは公的な場だけで十分だ。が、父親の口癖だ。実に素晴らしい。


 最初に運ばれたのは野菜たっぷりのポトフだ。廊下に漂っていた匂いの根源はこいつだな。ポトフにはジャガイモ等の根菜類に玉葱、公爵領特産のソーセージが入っているな。非常に食欲を唆るぞ。更にこれまた公爵領特産の鶏卵の目玉焼きにバケットが運ばれてきた。朝からちょっと重いけど沢山食べられて最高だよ。


 今朝の食卓を囲むのは家族5人とアル、キュロス、ガドインか、大体いつも通りだな。


「さ、皆の力作だ。ではいいかな?」


 父親の一言が食事開始の合図だ。では手を合わせて一斉に……


「「いただきます!」」


 ふふ、このいただきます。は、俺の提案で採用されたものだ。俺は1人きりの食事でもこれをやらないと気が済まない質なのだ。みんな快く理解してくれたし、今やマクスウェル公爵家の食卓は部分的に日本式なのだ。一応箸も作ってもらったがアルに止められた。


「ミスト、味はどう?」

「ああ、ソフィア姉さんとっても美味しいよ!」

「まあ当然よね! 私達とお母様で一所懸命作ったんだもの!」

「グレイスもソフィアもとっても頑張ったものね」


 なんと和む会話だろうか、映画の中かと錯覚するわ。


「うぁいっす……むぐむぐ……ゴク、むぅとさま、これさいろぅすね……」


 むぅとって誰やねん。キュロスお前がっつきすぎだろ。


「おいキュロス! 毎度毎度無礼だぞ! 旦那の前でなんて醜態(ザマ)だ!」

「う、うるへぇんだぁあにり……むぐ……み、水水……プハっ! 美味いもんはこうやって食うのが美味ぇ食い方なんだよ!」

「お、お前なぁ……いい加減にしろ!」


 恒例の兄弟喧嘩勃発かなこれは?今日も平和だ。快調快調~!


「まあまあ、良いのだガドイン。キュロスのこういうところを私は気に入っているのだからな! ハッハッハ!」


 少々見飽きたがこのやり取りも毎度のことだ。読んで字のごとく日常茶飯事だ。


「し、しかし旦那! 自分の主人に対して失礼ではありませんか! 旦那からも言っていただかないと!」


 アルがめちゃくちゃ目を細めているぞ。ぼちぼちやめないと……


「そう言うなら兄貴だってだ・ん・な・さ・まだろ? アイコだろこんなもん!」

「ガドもロスもうるさーい」


 グレイス姉さんが先だったか、ソフィア姉さんはハイハイといった感じで聞き流している。と見せかけ小動物のように頬が膨らんでいる。美味いもんな。


「す、すいませんグレイスお嬢! おい! 兄貴のせいだぞ!」

「申し訳ありませんお嬢。なんだと! 元はと言えばお前の粗相が原因なのだ! まったくこの問題児め! 少しは反省しろ!」

「説教かよ! ガキ扱いすんな!メシがマズくなる!」


 いや、それはこれを聞かされてるみんなのセリフな?


 ――パンパン!


 おっと、大きめの手拍子に皆が注目する。


 あ、これは視線を下げて食事に集中だ。父親(オーウェン)の肩が一瞬ビクッとなった。俺は気づいてるぞ。でも仕方ないよ、本当に怖いからな。


「ガドイン、キュロス。私が教練から戻ったら直々に鍛え直してあげるわね」


「姐さん、それだけは……勘弁してください」

「姐御、後生だ! 本当にそれだけは……」


 ガタイのいい男2人が揃ってこれだ。おバカだなこいつらも、ていうかガドも放っときゃいいのに……まあ弟の粗相じゃ注意したくもなるか…てかその呼び方は…


「その呼び方もやめなさいと何度も言ったわよね?」


 お笑いブームなのか公爵家(うち)は、グレイスとソフィアの肩が小刻みに揺れてるぞ。


「「へい……すいませんでした。」」

「ま、まあいいじゃないかエミリア、2人共悪気があってのことじゃないさ…な?」


 また余計なことを言う。


「あなたは黙ってなさい」

「あ、はい……」


 スプーンを持ったまま停止するな父よ、今のは絶対に踏まなくていいやつだぞ。学習しないとダメだぜ?

 公爵家(うち)だけなのかも知れないけど、貴族の夫婦も大して変わらないんだよな。早く食べちゃお! 


◆◆◆◆◆


「「ごちそうさまでした!」」


 さて、モーニングコントショーも終わり食後のティータイムだ。俺は子供だがブラックコーヒーだ。決して背伸びではない。中身も味覚もオッサンだからな。


「もう支度は調えてあるから、この後すぐにシビデ侯爵領ワーガナの都市リバラに向けて発つわ。先方には3日以内に到着するって伝えてある。それとイグを含めたメイド3人……あと護衛から何人か連れていくわね。マルスとエドワードに加えて新人5人ってとこかしら?」

「うむ、予定通り人選も人数も十分だろう。向こうでの滞在期間は一週間程度の予定だったか?」

「ええ、まあ面白い人材がいれば延びるかも知れないわね。こっちから連れていく新人もいるし」


 母親(エミリア)はここマクスウェル公爵領ネスナーシャから、西南に馬車と転移門(ポータル)で2日程の距離にあるリバラに行く予定だ。


「いつもすまないな。エミリアの教練は評判が良くて依頼が絶えんのだ」


 母親(エミリア)は王国でも五指に入る魔法剣士でありながらその容姿や家柄の良さも手伝い、様々なところからひっきりなしに領軍の指導教練の依頼が来るらしい。


「母様人気者~!」

「ふふ、トキ王国の男共はちょ~っと軟弱なのよ。だからビシバシ鍛えてあげないとね!」


 グレイス姉さんは頭を撫でられうれしそうだ。


「私もいつか連れていって欲しいです母様」

「ええ、いつか連れていってあげるから、ソフィアもゆっくりでいいからきちんと訓練しなさいね?マクスウェル家の女は腕っ節が何より大事よ」

「はい母様。必ず母様に追いつけるよう努力します」


 この瞬間も面子は朝食時のままだが男は全員黙っている。この場にいる使用人を含めた女性陣は全員が目を輝かせ頷いている。なあ、これでいいのかみんな。パワーバランス偏りすぎなんじゃないか?


 ん、俺?俺は中身はともかく現実には子供なんだからまだいいんだ。いいに決まっている。早く誰か話題変えて?


「そういえば最近ジェシカを見かけんようだが何処に行ったのだ?」

「ジェシカ様でしたら先週あたりからご実家の方に滞在されているみたいです。」


 父の問いかけにそうアルが答えた。ああ、ジェシカさんは実家にいるのか、なんだか帰りたくなさそうにしてた記憶があるな。


「多分お見合いの話じゃないかしら? そういえば段々しつこくなってきたって嘆いてたわね。」

「ふむ。ジェシカも我々と同じ年齢だしな。そろそろ結婚ぐらいしないとビルバード卿も心配だろう。末っ子だからと安心し……」

「オーウェン! あなたそれ絶対にジェシカに言っちゃダメよ。あの子独身なの本当に気にしているんだから、いつもそうやってデリカシーの無いことばかり言って、あなたはジェシカに接近禁止よ!」

「う、うむ。すまん」


 これ絶対本人に言うつもりだっただろ。顔に書いてあるぞ父よ。危機一髪だったな。


 ジェシカ・ヒルデ・ビルバード。俺の誕生に立ち会った人間族(ヒューマン)の女性神官だ。年齢は……ね。同級生らしいよ?

身長150cm程の割と小柄な体格で、髪は肩までぐらい、茶髪で緑の濃い瞳。父親のビルバード卿という人は王都の学園で理事長をしているらしい。秀才ばかりの家庭で上に兄が2人、姉が2人いるらしい。もちろん兄姉は皆既婚。

鑑定文書き換え事件の後すぐに王都の神殿本部に出向き、誕生のあらましを鑑定文書き換えのことと加護の能力を伏せ、刻印の方を強調して報告。それでも本部でかなりの騒ぎとなり、これで実は現在の俺の状況がある訳だが…まあ件に関して今は置いておく。

 女神の紋章の刻印を経過観察するという密命を帯び、これを引き受けたらしい。うちの両親と近しい間柄というのもあり屋敷内の部屋を1つ与えられそこで基本的には生活している。週に一度は公爵領の神殿に出向き経過を報告しているようだ。普段はキュロスに次いで一緒にいることの多い人物でもある。


「と、ところでグレイスとソフィアは学園は順調かい?」

「はい父様! とても楽しく通わせていただいてます! 剣術が特に楽しいです!教師の方にも褒めていただきました!」


 グレイス姉さんは元気がいいよね~ホント。


「私も楽しいです。友達も最近ですが出来ました。早く父様や母様の様に強くなりたいです」


 ソフィア姉さんも順調に楽しめているようでなによりでございます。


「うむうむ。だが何事も無理せず自分のペースでやりなさい。成人したら必ず聖獣様に会わせてあげるからな。約束だ」


 もう泣きそうじゃん。本当に親バカだよな。


「あ、獅子王の儀のことですね! 今からとっても楽しみです!」

「私もすごく楽しみです」


 中二にはたまらん響きがきたぞ。これすごい気になってたんだよな。


「あの、気になっていたんですが獅子王の儀って何をするんですか父様?」


 父親(オーウェン)がテーブルに少し身を乗り出して覗き込んでくる。


「ほう、ミストもやはり気になるか? しかし残念だが獅子王の儀について詳しくは答えられんのだ。これも聖獣様との誓約の1つでな。心血伝承(ジーンロア)と言うんだ。聖域に1人で出向き、聖獣様と契約者の間で儀式は行われる。だから内容はその時までわからないんだ。逸話として有名なのはトキ王国建国の祖ムジーン様の竜王の儀だが、基本的には聖獣様との儀式は秘匿されるのが慣例だな」


 獅子王の儀なのか、心血伝承(ジーンロア)なのかどっちなんだ?


「つまり〇〇王の儀、というのは一般的な呼称であって実際に聖獣様との間で行われるのは心血伝承(ジーンロア)という認識で間違いないでしょうか?」

「おお、その通りだミスト。お前は本当に賢いな。私は嬉しいぞ」


 なるほどなるほど。一度中二臭いワードに惹かれて軽く図書室で調べたことがあるけどそりゃ要領得ない訳だ。やってみてのお楽しみってことか


「さ、そろそろ皆でエミリアを見送ろう。私も今日はこれから緊急で陛下に謁見しに行かなくてはならないのでな」

「……オーウェン、もしかして北が?」

「ああ、どうも最近動きが活発なようでな。それに諸外国のこともある。朝食前にアルフレッドに報告を受けたばかりだ。早ければ夜には戻るつもりだが、事態によっては数日帰れない可能性もあるだろう」

「まあ、出立前だというのになんだか不安ね。教練は延期した方がいいかしら」

「なに、それには及ばんさ、シビデ卿にも悪いしな。怪しいには違いないがすぐにどうこうという訳でもないさ」


 少々の間を置いて父親(オーウェン)が続けた。


「いや、だがまあ……念には念を入れておくべきか、ここは……」


 父親(オーウェン)はガドインにチラと目を合わせた。するとガドインは小さく頷いて答えた。


「料理は旦那が戻るまで副料理長(オーガス)の出番ですね」

「うむ。ガドインここはすまんが頼まれてくれ、キュロスも非番の者達には悪いが全員招集、警戒レベルを引き上げろ。それとジャクソンにも庭園の手入れは入念に(・・・・・・・)、と伝えておいてくれ。他の皆も悪いがそれぞれ出来ることを考え協力を頼む。万が一にも対応に遅れは許されん。良いな?」


 家人の全員が頭を下げ了解の意を示す。


「あの、父様学園はどうすれば?」

「通っても良いのですか?」


 姉妹の質問に父親(オーウェン)は一瞬考えたように見えたが


「アルフレッド」

「はい、旦那様」

「二人の送迎はお前がやれ」

「……国王陛下への謁見の同行はよろしいので?」

「確かにお前抜きだと体裁は少々悪いが構わん。陛下にもわかっていただけるさ、それにもし有事となっても私とエオウィンで勝てぬ相手などそうそうおらん。そこまでの相手を送ってくるのは現状を考えれば可能性は極めて低いだろう」

「は、畏まりました。ではそのように」


 空気読めてないかもだけど、なんか急にかっこいいな父よ。威厳たっぷりじゃないか。


 顎に手を当て、腕を組みながら思案する姿も様になっている。


「ふむ……まだ一手甘い気がするな……よし、キュロスは警備隊の動員が済み次第指揮をガドインに預けミストの側にいろ。目を離してはならん」

「了解ですぜ。すぐに全員集めます。兄貴、警備隊(うち)の奴らを頼んだぜ」

「ああ、任せろ」


 拳をぶつけて頷き合う。こういうところはさすがに兄弟だな。

 

「こんなところか、ミストも外出は控えるようにな。屋敷内で過ごし、必ずキュロスの目の届くところにいるんだ。わかったな?」

「はい父様、約束します。お戻りになるまでキュロスと共にいます。父様も王都への道中お気をつけて」

「よし、では向かおうか、陛下はともかく側近の連中は待たせるとウルサイからな! ハッハッハ!」


 笑い方のクセだぞ父よ。


 少し強い風が吹いたのか、建付けのいい窓が珍しくカタカタと鳴った。


 それはあまりいい予感のすることでは無かった。



怪しい気配が漂ってきました。


以下蛇足です。


家人と共に食事を取る。ほとんどの貴族に見られない光景だと思います。もちろん基本的には公爵家の面々と家人は時間もずらして別々の食卓ですが、マクスウェル公爵家は少々訳ありなのです。

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