第二話 誕生。鑑定。
誕生しましたね。
いや女神様よ、一体ここはどの時代のどの辺の地球だよ。誰か教えて欲しい。
だがどうしようもないようだ。女神様の話によれば連絡できるようになるらしいので、いつか聞いてみるとしよう。
少し痛い思いするとかなんとか言ってたが、まあ、あの女神様のことだ、きちんと覚悟しておこう。
色々と容姿のお願いとかもしておいてなんだが…ああ、そりゃ産まれるところからですよね~!が、正直な感想だ。
いざ謎地球に生誕し、赤ん坊としての本分でもあるが泣き喚く自分の声にげんなりウンザリしながら目覚めると、おそらく産婆の女性に、おそらく金髪の両親と思しき男女が2人、その周りにもメイド?らしき姿の人と医師っぽい何人かの人がいるようだ。
「まあ旦那様、奥様、元気な男の子にございます! 待望の男児の誕生、これでマクスウェル家もより一層安泰となりましょう!」
はいはい、どうもどうも、女神様と痴話喧嘩?の果てに産まれて参りましたよ~。
ていうか泣くのやめたいのにやめられない。自分がうるさいなんて経験は転生者しか味わえないんじゃなかろうか。名前すごく立派だし。マクスウェルって、産まれて秒で名前負けの予感ですよ。下の名前は大層なのにしないでくださいね~。
「おお! 良くやってくれたエミリア! 皆もありがとう!」
「まあ! なんて愛らしい子でしょう! ずっとあなたに逢うのを楽しみにしていたわ! さあリリアン、抱かせてちょうだいな!」
産婆の方がリリアンで、母親の方がエミリアかな?
いや~涙ながらに喜んでもらえるとこっちも嬉しい限りですよ。ただ赤ん坊の視界は良好とは言えないな、ボンヤリとしていてきちんと人相まではわからない。
「うむうむ! でかしたぞ本当に! さあでは神官殿! 祝福をよろしく頼みます!」
「はい、ではマクスウェル公、あ、夫人はご子息を抱いたままで構いませんよ」
おっと、声で判断するに女性の神官かな?神官なんて呼んで一体何をする気なんでしょうかね。
「夫人だなんて、いつも通りエミリアでいいのよジェシカ。」
ジェシカと呼ばれた女性神官が母親の耳元に顔を寄せ、ひそひそと小声で言う。
「ねえ、今はやめてよ。この間話したじゃない。私、今日祝福をする神官として来てるのよ? しかも公爵家の長男の誕生なのよ? お願いだからちゃんとやらせて。」
「フフ、そうだったかしら? はいはい、じゃあ神官殿よろしく頼みますわね」
女性神官は多分不満気だ。そして母親は多分満足気だ。産んだばかりだと言うのに気丈な人物のようだ。
「ゴホン……では、祝福を執り行わせていただきます。夫人以外は少々離れてください」
わざとらしく咳払いをした神官に父親らしき男性が豪快に笑い出す。
「ハハハ! エミリアには言っておいたのだがな! ジェシカよ、畏まらずともいつも通りで構わんぞ! ハッハッハ~!」
おい父よ、あんたそりゃないだろう。話聞いてた?ちゃんとやりたかったらしいぞ。どうやら父親は少々空気の読めない性格らしい。
ギロリと睨みが音を立てたように思えた。女性神官と両親の仲はやりとりを聞いた限りでは普段近しい間柄のようだ。
「む……いやはやこれはすまんな。少々はしゃいでしまったようだ。ではよろしく頼む」
せっかく今日は大事な日だからさ…ちゃんとしようとさ……エミリアもオーウェンも酷いわ……と神官からブツブツ聞こえてくるがここは流そう……ふむ、父親の名はオーウェンというのか。
「では、始めます」
女性神官はそういうと胸の前で手を組み、目を閉じて祈り始めた。
「全知全能の最高神、万物の母なる女神テッラよ。新しき生命の誕生に、その御力を以て泰平なる世の為、その一助となるべき貴女の御子を、その大いなる祝福の息吹により、照らし、導き給え」
女性神官の組まれた手が淡く光り出す。
まあ本格的!流石です!うんうん!なんかめちゃくちゃ祝福っぽい光出てるし!こりゃもう間違いなくこの世界最高峰の儀式に違いないよ!女神様もビックリだね!ちょっと俺の知ってる女神様象とは違うけど……
て、う……うん?あれ?あの~神官さん?なんか……ア、アッツいよ!熱いよ胸が!!心臓焼けちゃう!!死んじゃう死んじゃう!!やめて!!誰かこの光止めて!!!!
「な、なんだこの光は! ジェシカよ! どうなっておるのだ! 我が子の胸が発光? いや焼けてるように見えるぞ!」
いやそもそも祝福の正解が何か知らんけど絶対おかしいって!光量マシマシでみんな目眩んでるしてんやわんやじゃん!てかやっぱ焼けてんのかよ!おい、インチキ神官!はよ止めてくれ!
「ンギャアアア! ホンギャアアア!」
こちとら大絶叫だよ!また死ぬのかよ!こんなすぐ死ぬなんて聞いてないよ!
片腕で光を遮りながら女性神官が答える。
「な、なんでしょうこの光は! ここまでの光は始めてです! 私は祝福の祈りしかしていません!」
「ジェシカ! この子は大丈夫なの⁉」
も、もう無理だよ父さん母さん!出会って即座にグッバイ!きぃみぃの!だよ!絶対死ぬ!女神様の大嘘つき!って、あ、あれ?
「お、おお、光が収まったようだが……む? 何か刻印のようなものが胸にあるぞ」
嘘のように胸の痛みは急激に消えた。だが何やら胸にできているらしい。死ぬヤツじゃなかったようだ。ふぅ…あ、ちょこっと痛いってこのことか、ちょこっと程度じゃないぞ女神様よ。死を覚悟する程に熱く痛いの間違いだろ。
「この印は……あ、これって……」
ジェシカには心当たりでもあるのだろうか?
「「テッラの紋章!!」」
いやハモんな!全員で言うな!てかテッラの紋章って何よ?
「お、おいジェシカ! どういうことなのだこれは!」
「あの…ジェシカ? あなたこれがどういう意味なのかわかる?」
女性神官は首を振り、ブツブツ言いながら考え込んでいる。こんなことはあり得ないだの。紋章が身体に現れる意味とはどうのこうのと。
「埒があかんな。ジェシカ、能力鑑定の魔法をこの子に試してくれないか?」
父親がそう促すとハッとしたように女性神官が俺の方に両手を向け何やら念じだした。
「わかりました。能力鑑定!」
女性神官の手から光が俺に流れ込み、瞳が虹色に輝いている。これが魔法なのか。ていうか刻印?ができた瞬間から急に視界が明瞭になったな。
「な、こ、これは! す、すごい! なんなのこれ!」
あの、女性神官さん? なんか言葉遣いが崩れまくってますよ?
「ジェシカ! すごいではわからん! 何がわかったのか教えてくれ!」
「ジェシカ! 落ち着いて! ゆっくりでいいから教えてちょうだい!」
みんな大慌てだが目が虹色のヤバい女が大興奮の様子に俺は少々引いているぞ。追いつけないぜ。
「……どうやら【テッラの祝福】という加護がこの子にはあるようです。効果は……その、凄まじいです。凄まじさゆえにマクスウェル公と夫人のみに後でお伝えしますが、適切な訓練を施せばおそらく人類種としては最強の一角に数えられる成長を遂げられるでしょう。それほどの加護です。」
いや気になるわ!大体お願いした内容は覚えてるけど今言って!女神様のテキトーにパパッとの部分は俺も知りたい!てか女神様約束守ってくれたんですね!
だが待て、別に人類種最強の一角とやらには加わりたくないんですけど?
「そ、それほどの加護か! ていうか国王陛下になんと言えば良い!? これは側近を集めて会議をせねば!」
父よ、ていうかってなんだよ、それにこの長身金髪のナイスミドルがアタフタするのもなかなかに面白い。傑作だ。
「あ、あなたどうしましょう? 私は大変なことをしてしまったのかしら……?」
いやいや母さん、あんたは何も悪くないさ。悪いのはこんなド派手な演出仕込んだあのピンク髪ギャル女神様ですって!この場面を見ていたらゲラゲラ笑っていそうだ。
「マクスウェル公! 会議はダメです! て、ち、ちょっと待って! なんか鑑定文が変! 今書かれているみたいに! まさか神が書いているとでも言うの?」
いやもう今度は何よ!女神様やりすぎじゃない?
「何! どうした! 教えてくれジェシカ!」
何このくれくれオジサン、めちゃくちゃ面白いじゃん。笑いが止まらん。
「い、いえ、なんかだいぶ砕かれた文章が書かれていて……その、なんて言ったらいいものか……誰かが今書いてるとしか……」
「ジェシカ、教えてちょうだい!この子のことはきちんと知りたいの。」
くれくれオジサンとちょうだいオバ…お姉さんのタッグは酷すぎる。腹が捩れる。
「いえ、それが本当にこんなこと信じてもらえるかどうか……」
「言いなさいジェシカ!」
母さんちょっと怖いよ?
「私は絶対におかしくなってなんかいないからな! もういい! オーウェンもエミリアも心して聞けよ! ちゃんと言うからな! あと人払いをしてくれ!」
「わかった!皆すまないがしばし部屋から出てくれ!」
うんうん、勿体付け過ぎだって!もう言葉遣いもどうでもいいよ!鑑定文がなんなのかよくわからないけど早く早く!
人払いが済んだようだ。そして……
「ジェシカ、あなた気になるのは仕方がないけどちょっと鑑定するの早すぎよ? テッラ様だいしっぱ~い! 加護のことを教える人はよくよく考えて選んでね! 広めすぎたらその時は天罰ぶちかますから覚悟してよね! あとそいつ転生者で性格めちゃくちゃ終わってるわよ。赤ん坊だからって気抜いたらダメよ? それじゃみんなの最高最強最愛の女神テッラ様より♡♡♡あ、あと鑑定文は消しておくわね~バイバ~イ!」
やだもう何その言葉遣い、勝手に転生のこと暴露してるし、もうあんたが一番酷いわ……どうすんだよこれ。
女神様のノリがめちゃくちゃ軽いですね。