第十二話 親子。会話。
読んでいただけたら幸いですm(_ _)m
父親の登場で仕切り直した俺達は、食堂の大テーブルへ座り直し、父親が話し始めるのを待った。
「まずは改めて、皆今日は本当にご苦労だった。キュロスとジャクソン、今は警戒にあたっているガドインや警備隊も含め【闇武】の刺客を相手に、よくぞ大した怪我人も出さず済んだものだ。感謝する」
「とんでもございません旦那様。こちらこそ寛大なお心遣いに感謝致します」
アルが頭を下げると、キュロスとジャクソンの二人もそれに続いて頭を下げた。
「「ありがとうございます旦那様」」
「うむ、では…そうだな。どこまでを子供達に話したのか聞かせてくれるか?」
「はい、では私が……」
するとアルがかいつまんで父親に説明した。
「……と、そこで旦那様がお戻りになられた次第であります」
「あいわかった。では私からこの公爵家の家人について話すことは無さそうだな」
「はい、大丈夫かと」
「……グレイス、ソフィア、ミスト」
父親は俺達を順に呼び、それからまた続きを話した。
「全ては……私とエミリアで決めたことなのだ。もちろん最終的には私が決断した。お前達に家人の素性を教えなかったのは、ただただ親として余計な心配をかけたくなかったのだ」
「心配ですか、何に対する心配でしょうか?」
俺は今一つ意図が読めず、つい聞いてしまった。
「ミスト、よく聞いてくれ、お前達は成長すれば否が応にも貴族として相応の振る舞いを周囲から求められることになるだろう。それを思うと家人の素性を教えたことで優しいお前達のことだ、きっと見方が変わってしまうと思ったのだ。私は、いや、私とエミリアは少しでもお前達に自分のことに焦点を定め、今を充足した日々にして欲しい……と、そう思ったのだ」
なんか大げさな気もしてしまうけど、本心からの言葉なのはわかった気がする。
「ちゃんとお前達に話すことは決めていたんだ。それもそう遠くない未来の話のはずだった。だが、今回のことが起きてしまった。こうしてなし崩し的に伝えなくてはならなくなってしまったことが、悔やまれてならんよ」
「そんな! 父様は私達のことを思ってくれたのでしょ!? 私は気にしないわ!」
「グレイス……お前という娘は……」
俺はこのトキ王国の貴族というものがわからない。自分の家のことでさえもよくわからない。だがこうして言うからには父親にも身につまされてきた経験や思いがあるのだろう。
「父様、私も大丈夫です。家の人達がどんな過去をもっていようと、みんな優しくて、いい人達だと思います」
きっと父親が言っているのはそういうことではない。だが、ソフィア姉さんの言葉はどうしてか心を打つものがあった。
「ソフィア……ありがとう。私は嬉しいよ。」
なんだかな……ガラじゃないけど、この場で俺もちゃんと伝えないとな。
「父様、僕も誰の過去にもこだわりません。この家の誰もが皆、公爵家に大恩ある者達ばかりだと聞きました。こんなことを言うと、まだ子供の分際でと思われてしまいそうですが……」
少し勇気がいるな、この先は……。
「将来のことは覚悟しています。そして僕のことを……僕が転生者であると知っても、家族として迎え入れてくれたことが、息子として扱ってもらえていることが……その、本当に嬉しいんです」
なぁ……おい、女神様よ。
「いけませんね。女神様に天罰を下されてしまうかも知れません。アハハ」
もし天罰下すなら、俺だけにしてくれないか?
「ミスト……お前、それは……」
「自分はなんとなくわかってましたぜミスト様! なんていうかその、ちょっと賢すぎるっていうかなんていうか、こんな5歳児はどこ探したっていないってことだけは! アハハハハハ!」
「ちょっとロス! 急に大声出さないでよ! ビックリしたじゃない」
「あ、アハハ……すいませんグレイスお嬢様、なんかミスト様がらしくないっていうか、心配になっちまったもんで……」
「キュロス、ありがとう」
お前、良い奴だな。
いや、ちゃんと言えよ俺、感謝はしっかり言葉で伝えないとな。
「ミスト様、私もなんとなくですが凄い人なんだと思っていましたよ。あなたは到底子供とは思えないぐらいのお方だと」
「ジャクソン……」
「ミストは私の弟です。ただ、ちょっと出来が良すぎるだけ」
「ソフィア姉さん……」
「ミストは凄いんだから! 転生者? っていうのがなんだかわからないけど、母様やリリアンが言ってたもの! こんなに早く色んな物事を理解するなんてミストは凄い! って」
いやグレイス姉さん、母親のは意味が少し違うと思うぞ。本当に転生者なんだって確信する方のヤツだと思う。
姉妹の気質は母親似なのかな?
「ミストリオン様、私もマクスウェル公爵家の長男とは言え、いくらなんでも出来が良すぎるとは思っておりました。ですが……まさか転生者だったとは、このアルフレッド、齢62となりましたが、その人生の中でも最大の驚きです」
「アル……」
さすがに引くよな……?
「ですが、かと言って何かを変えるつもりなどありません。いえ、むしろ前世の知識があるというのならば、一層強く貴族としての規範を教え込まねばなりませんな」
まったくこの家の連中はさ……俺前世じゃ結構涙腺緩んできてたんだよ?やめてくれない?
「アル、ダメよ! ミストには優しくしてあげて!」
「ミストをいじめないでください。お願いします」
姉妹達よ、どうか中身オジサンを泣かせないでくれ。
「ふふふ……いえ、失礼しました。いじめるなどとんでもない、そのようなことは致しませんよ。お嬢様方、このアルフレッドめが教えて差し上げます。ミストリオン様は、恐らく……そうですね……あの好奇心が童心からくるものでないとするならば……きっと旦那様と同じか、それよりも歳上だと私は推測します」
「「ええ!!」」
アル的確!怖いよその観察力!
「そりゃあ驚きですわ!」
「まさかそこまでですか?」
「ところで……私も喋って良いかな?」
放って置かれていた父親が少し入りづらそうに聞いてきた。
「どうぞ、旦那様」
「ゴホン……うむ、どうやら子供達への配慮は完全に杞憂だったようだ。こうしてちゃんと話してみれば馬鹿馬鹿しくすら思えてくるほどだ」
「ふふ……まったくですな。しかし旦那様もお人が悪い、ミストリオン様のことはせめて私には話していただけていれば良かったのですが」
「まあそう言うな。さっきミストが言った通り、あまり言いふらすとテッラ様が天罰を下すと申されたものでな。まあ申すと言ってもその……な。本当にテッラ様なのか、かなり疑わしい部分はあるのだが……」
女神様よ、変なノリで鑑定文の内容いじくるから疑われてんぞ。
「あの父様、ここだけの話ですが女神様は実際あんな感じの方ですよ。僕は転生する前に直接お会いしているので保証します」
「それは……そうか……誠なのか……私も衝撃だが、さすがに教会や神殿には恐ろしくて言えんな。ジェシカは……改めて聞いたらさぞ落ち込むだろうな……いや、むしろ今も本心から信仰しているのだろうか……皆目わからんな。」
もしかするとだけど女神様は自分を敬う人々に、あの性格を知られたくなかったって説も浮上してきたな。
「父様すいません。なんだか話を逸らしてしまったみたいで……」
「なに、構わんさ。ミスト」
みんな少しは安堵したのかな?だいぶ穏やかな雰囲気だ。
「……そういえば旦那様」
「どうした。アルフレッド」
「王都ではどのような話に?」
「ふぅ……それなんだがな……」
父親はみんなの顔を見渡し、姉妹のところで目が止まった。
「今宵はもう遅い……今日はせっかく腹を割って話したのだ。この際子供達にも、いや、特にミスト。お前にも聞いて欲しい」
「父様……わたしも……聞きたい……れす」
「すぅ……すぅ……わた……しも……」
「ふ……もちろんだとも……」
父親は立ち上がり、姉妹のアタマを愛おしそうに撫でた。
「だが、今日のところは休むとしよう。明日、またここで大切な話をする。皆、良いな?」
「畏まりました。旦那様」
アルがそう言って頭を下げると、キュロスとジャクソンもそれに倣って頭を下げた。
「うむ。ではこの場は解散だ。グレイスとソフィアを部屋まで連れていってやってくれ」
「はい。では……ジャクソン、手伝っていただけますか?」
「もちろんです」
「お願いします。キュロス、あなたはミスト様を」
「了解です」
席を立ち、キュロスと自室に戻ろうとした俺は、後ろ目に見たテーブルに1人残り、コーヒーを啜る父親の様子に何かを感じて、ふと声をかけた。
「あ、父様」
「む、どうしたミスト? まだ何かあるのか?」
「あ……いえ、何でもありません。おやすみなさい」
「……? ああ、おやすみ。さすがに明日はいつもみたく早起きして来なくとも良いからな」
「ありがとうございます。それでは……」
「さあ、早く寝なさい。子供は寝るのも仕事のうちだからな」
そう言って優しく微笑む父親に、俺は故郷にいる父親の姿を重ねていた。
一瞬垣間見た彼の顔は、積み重ねてきた苦労の為だろうか、とても疲れ切っていた。
やけに長く感じた一日が、ようやく終わりを告げた。
長い一日編はこれにて終わりです。予定として、この後は物語の展開が早まります。
更新は遅くなると思いますが、楽しんでいただけたら嬉しいですm(_ _)m
 




