クレアの正体
「私の正体……」
「クレアの母、アンジェラは天使族の女王だった。そしてアンジェラがクレアを生み落とした瞬間、女王の役割はクレアに受け継がれたのだ。クレア、其方は天使族の女王だ」
どうりで魔力が少ないわけだ。人間と混じり合ってはいるから魔力を持ってはいても、私は天使族の女王だ。魔力より聖属性の方が強いのだ。どう頑張ってもそもそも私は魔力を保有できる体ではなかったということか、と納得した。同時に、ある疑問が湧いて来た。
「……最近魔族が頭痛を訴えているのもこれらの事と何か関係がありますか?」
魔王が私に魔族の歴史を語ってくれたことには意味がある。
天使族の女王である私が魔王を抑える存在としてここにいるのに、魔族が頭痛を訴えていることに私は嫌な予感がした。
「儂の体がそろそろ限界に近いからだ。クレアが生まれた後でアンジェラが亡くなり、儂に聖属性の浄化魔法をかける者がいなくなった。女王が側にいない魔王の寿命は短い。
幼いクレアをダンテが側に置きたがったのもあるが、まだ浄化魔法をかけられるほどに魔力操作に長けてはいなかったのもあるし、魔族の国に呼ぶことも出来ず、また私がそちらに行くと騒がれてしまうので行けなかった。だからクレアが成人して十分に聖属性が成長するまで待つ必要があった。
それまではダンテに代わりに来てもらうことで、溢れ返る闇属性の魔力を抑えてもらっていたのだが……」
その先の言葉は私も知っている。ああ、そういうことだったのか、と血の気が引いていくのが分かった。ここに来たらルシファーが魔王にならないように出来ると思っていたのに。
「そろそろ限界なんだ。儂はもうすぐ滅びる」
「魔王様が滅びたらどうなるのですか……?」
魔王は言っていた。次期魔王はルシファーなのだと。滅びたらどうなるかなんて聞くまでもない。私はただ確かめたかった。魔王城に着いた瞬間に伝えてきた言葉は本当なのか。
私達は魔王の言葉に固唾を飲み込んだ。
「魔王という役割は寿命が来ると強力な闇属性を宿すことのできる身体を持った者に力と記憶を受け継ぐ事になっている。滅びる直前に探そうと思っていたが手間が省けたぞ、ルシファーよ」
やっぱりルシファーは魔王になる運命からはどう足掻いても逃れられないのだ。ルシファーの病んだ心によって引き寄せられたのだと私は原作を見て、そう思い込んでいた。病んだ心によって暴走したルシファーの強力な闇属性に魔王は引き寄せられたのだ。
病んでいようがいまいが関係なくルシファーは強力な闇属性を持っている。原作では暴走させた魔力が手掛かりになって魔王がルシファーを見つけただけに過ぎなかったと分かり、愕然とした。
とんだ思い違いをしていた。私は目眩のする頭を支えるようにこめかみに手を添えた。
「それで王国の人間で闇属性を持った者は行方が知れなくなっていたのでしょうか……」
ルシファーは青ざめた私の手をギュッと握り、力強い目を魔王に向け言葉を待っている。
「そうだ。儂もかつては人間だった。魔族よりも闇属性の魔力を身体に宿せる体質だったようでな。それでも保有しきれない闇属性によって、いつの間にか見た目も魔族になってしまった」
魔王はそう言って自分の頭に生えた角に触れる。ルシファーが王国を襲ってきた時の黒いマントの下には、もしかしたらルシファーも黒く大きな翼を隠していたのかもしれない。それが生えてきた事で、ついに限界を悟って王国にクレアを探しに来た、そう推測出来る。
転生したばかりで何も知らなかったとはいえ、私は自分の判断を悔やんだ。婚約破棄をしなければルシファーが魔王にならないと思っていたが、そんな話ではなかったのだ。本当にルシファーを魔王にしたくなければ、最初から魔王に話をしに行くべきだったのだ。
でも魔王はこうも言った。反転しているなら尚更次の魔王はルシファーだと。つまり、私が何をしたところでルシファーが魔王になるのを遅らせられるだけに過ぎないのだ。それでも、もっと早く会いに来ていれば何かが変えられたのかもしれないと思うと、悔やまずにはいられなかった。私は悔しさを吐き出すように口にした。
「そんなことなら私がもっともっと最初から魔王様に会いにこれば良かった……!」
「どの道儂はもう長くない。ダンテの元からクレアを引き離すこともしたくなかったのだ。分かってくれ」
私が項垂れていると、ルシファーは私の手を離し、背中に手を回した。ルシファーは微笑んでいる。まるで、私がいれば、それで良いとでも言うように。
魔王は次にリリスの方を向いた。
「そしてリリスよ。其方は天使族に戻れなかった魔族だ。今は人間でも魔族でもない、中途半端な失敗作だ」
また魔王が失敗作と言葉にした時、ここまでの話を聞いていたら流石に怒ることはないよな、と不安げにリリスの方を見てみる。
傷ついた! とか言って光魔法を今ぶっ放したら寿命間近の魔王は消滅しかねない。しかしヒヤヒヤしながらリリスの反応を待っていても私が心配した事にはならなかった。
「じゃあ、私は魔族から生まれたのね……!」
リリスは涙を流して微笑んだ。なぜリリスが喜ぶのか私には分からなかったが、きっと魔力が強いことで妬まれることもあったのだろう、と想像を巡らせた。自分の魔力がなぜ強いのか理由が分かって、嬉しかったのかもしれない。それにずっと両親に捨てられたと思っていた可能性だってある。両親は自分を捨てたのではなく、非人道的な実験によって死んだという事実の方がまだ救いがある。
私達が理解したのを見てこれ以上言葉は必要ないと判断した魔王は最後に私とルシファーに向かって言葉を残し、部屋を出て行った。
「だからクレアとルシファーは出来れば魔族の国に残って欲しい。次期魔王のルシファーよ。魔王と天使族の女王がつがいになった過去はないが、それもまた運命だ。二人で今後についてよく考えると良い。好きなだけここにいると良いぞ。いずれこの魔王城も其方達の物になる」
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