リリスは魔族の国を目前に3
クラーケンの触手がルシファーの頭上から振り下ろされる!
ヴォン!
「うぐっ!」
間一髪の所でクラーケンの触手が直撃するのを避けたルシファーは腕に切り傷を負う。腕から流れる血にルシファーは顔をしかめた。
「ルシファー!」
クレアは素早くクラーケンに近づき、胸元からまた暗器を取り出し、クラーケンに投げつける!
「聖なる光よ! 癒しの力で我が前の敵を浄化の炎で焼き尽くせ!」
暗器を中心に広がった光が爆発音と共にクラーケンの体を包み込む! 光属性魔法なのに、まるで炎で焼かれているかのようにクラーケンからジュウっと肉が焼ける音がした。
「キィィィィイイイイ!」
叫び声を上げたクラーケンの触手が無数にドサッと船上に空中から落下した。とどめを刺すべく、ルシファーが詠唱する。
「闇よ、その力をもって彼の者を飲み込み安寧の境地へ誘え」
ルシファーが剣を構え、詠唱と同時に動きが止まったクラーケンを真っ二つに斬り裂いた! 剣を覆った闇属性の魔法がクラーケンを飲み込み、クラーケンが跡形もなく消滅した。
クラーケンに刺さっていたクレアの暗器がカランと音を立てて床に落ちた。
光魔法で攻撃? そんな事ができるの? おかしい。魔物は自然に大地から発生する生き物なので人間のように属性を持たない。闇属性の強い魔族であれば光属性魔法は有効だとはいえ、魔物にも浴びせるだけで有効だとは聞いた事がない。防御と回復しかできないはずの光属性魔法でなぜ魔物が倒せるのだろうか。
クレアが投げた暗器の力なのかもしれない。剣に属性魔法を付与したとしても、相手が魔族でない限り、光属性魔法で命を削ることはできないはずだけど……。
(何が起こっているの?)
静寂が訪れた船上でクレアの声が響き渡った。
「ダニエル!」
クレアの声でハッとした私は防御壁の展開をやめ、ダニエルに治癒魔法を浴びせた。
「光よ。癒しの力でこの者の回復を促せ!」
パアッと私の手から光が溢れてダニエルの全身を包む。でもダニエルは目を覚さない。息をしている気配はあるが弱々しい。軽い傷ならこれで回復させられるはずだが、脳震盪や内臓の傷までは高度な技術なので私にはまだ難しい。クラーケンになぎ払われた時に内臓をやられている可能性がある。
「後頭部を打ち付けた時にもしかしたら……」
脳を損傷したのかな? ダニエルはこのまま命を落としてしまうかも知れない。そう言い切る前に、クレアが詠唱を行った。
「聖なる光よ。我が親友に愛をもって祝福と癒しを与えたまえ」
クレアの手から優しい光が放たれ、温かい空気に全員が包まれた。すると血が流れていたルシファーの腕からは傷が消え、私からは魔力を失ったことによる気怠い疲れが吹き飛んだ。力が腹の底から溢れるようだ。
「ううっ……」
「ダニエル!」
目を微かに開けたダニエルにクレアが覆い被さった。
「クラーケンは?」
クレアにのし掛かられたままダニエルがクレアに尋ねると、船の操縦席から降りてきたパウロがクレアをダニエルから引き離した。
「クラーケンはクレアとルシファー殿下が倒しました。ダニエルは大丈夫ですか?」
パウロがそう言いながらダニエルの上半身を起き上がらせ、体の状態を確かめるように観察する。
「大丈夫だ。倒れる前より元気なぐらいだ。すまない、意識が飛んでいた」
「ううん、ダニエルが無事で良かった! そうだ、ルシファーも腕の傷は大丈夫?」
「ああ、クレアの治癒魔法が効いて血は止まった」
この状況のついていけてないのは私とアダムだけで、他の四人はクレアの発動した魔法に何の疑問も抱いていないようだった。
「どういうこと? ダニエルは死にかけていたのよ。脳に損傷があった可能性が高いわ。内臓への損傷を光属性魔法で治すには時間がかかるし、かなり高度な技術よ。それにあの攻撃魔法は何? 光属性魔法で敵を攻撃することは出来ないはずよ。おかしいわ」
「クレアならこれぐらい出来て当然だ」
ルシファーはそう言うけど、盲目的にクレアを信じ切っているから当てにならない。
「無事だったのだからなんだって良いでしょう。それより先へ進みましょう」
パウロに一喝されてそれ以上何も言えなくなった私は唇を強く噛んだ。魔力値200だったクレアがなぜあれほど強力な治癒魔法を発動できるの? 十歳の時から多少成長していたとしてもこれほど著しい伸びを見せるものなのだろうか。意味が分からない。
「アダム、船の操縦は戦っていないお前がやってくれるな?」
ルシファーがパウロの言葉に頷き、アダムに向かって言った。
「勿論です。今まで見えていた陸も幻影だったのですね。本当はまだあんなに遠く……」
アダムが言うように、陸はまだずっと先に見えている。今までは同じところをずっとグルグルと周回させられていたのだろう。
「まだ魔族の国に入るまで一日はかかるだろうな。アダムが操縦を握っている間、各自休憩だ。クレアは一眠りして回復すると良い。あっちで一緒に休もう」
「うん、ルシファーも疲れたでしょう? 一緒に眠りましょう」
「……っ! わ、分かった。一緒に眠ろう」
クレアを留意する必要はないと思っていたけど、間違いだった。クレアは私が魔王を殺す邪魔になる存在かもしれない。いきなり正面から相対するつもりだったのに……作戦変更だ。暗殺するしかない。魔王を私が弱らせ、アダムに止めを刺させるにはどうしたら……。
防御壁もまだ完璧ではない。魔導塔でクレアが見せたぐらいの声も通さない強度に仕上げなければ。
私はこれからなすべきことに思いを巡らせ、遠くに見える魔族の国を睨みつけた。
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