シナリオが動き出す前に2
「魔族が暴走した過去って……? 現魔王陛下がお母様を取り返しに攻め入ってくる前のことよね。……なんで暴走したの?」
「それを知ってるのは国王陛下と魔王陛下だけだな。私も教えて貰えなかった。情報が足りなくて、魔族の国に行っても調べようもなかったよ。困り果てていた時にアンジェラが木陰からヒョイと顔を見せたんだ! それで調査を切り上げて帰ることにして、あの時のアンジェラの美しさと言ったらもう、」
「そっか、うん、何も分からないのね。オッケー」
お母様の話をしだすと称賛が止まらなくなるのをこれまでの経験から知っていた私は、はいはい、と聞き流した。やはり私が魔王に会いに行くしかなさそうだ。それを伝える前に、まずはお父様の話も伺うことにする。
「それでお父様は私に何が聞きたかったの?」
「ああ、そうだった。それなんだけど……クレア、魔族の国に行っても良いと言っていた気持ちに変わりはないか?」
私はここでピンと来た。原作のクレアならきっと全力で拒否したことだろう。泣き喚いて私は攻略対象と一緒になりたいからこの国を離れたくないと言っている様子が想像出来る。クレアの意に反して結局攻略対象達はヒロインと一緒に魔族の国へ行ってしまうこととは知らずに。でも私は前世の記憶を持っている私は原作のクレアとは違う。
「うん、変わりはないよ! 私もそれを言いに来たの」
「だよな、嫌だよ……え? いいの?」
私は呆けた顔をしたお父様にニコッと微笑み、いつか見せた事のある『私がいれば世界は安泰です』と言うように腰に手を当て胸を張る。
「勿論だよ! 私も魔王陛下に聞きたい事があるからね。善は急げとも言うし、一週間後に旅立つわ!」
「そ、そうか……」
寂しそうな顔をして頷いたお父様を見て、それを了承と取った私は早速準備に取り掛かろうと席を立つ。するとお父様が慌てて椅子から立ち上がった。その拍子にバサバサと書類が机から落ちていった。
「いやいや、待ちなさいクレア、まさか一人で行くつもりかい? そ、それは駄目だよ。危ないからね。道中何があるか分からないし。極秘任務になるから王宮の騎士も魔導塔の魔術師も動かせないから、あと三ヶ月半待ちなさい。そしたら丁度二回目の魔力検査があるだろう? その時に魔力の強い子を選んで、クレアの護衛につかせる手筈になっているから!」
やはりお父様は私が大人になるのを待っていたようだ。原作の裏側にはお父様の努力があったのかと納得がいった。でも三ヶ月後はリリスが十六歳になる時期だ。そうしたらルシファーが魔王になるかもしれない。原作が現実に起こってしまった場合、リリスの誕生日があった半月後に行われる魔力検査が、魔王討伐の選出試験に変わってしまう。私は原作通りに動きたくない。運命は自分の手で掴み取る!
「お父様、私は自分の護衛は自分で選びたいの。だから旅立ちの一週間後という時期を変更するつもりはないわ。今から挙げる名前にお父様から護衛の依頼をして貰えないかしら? それと、ルシファーはこの国の王子だし、同行できないだろうから、私からも話しておくわ。丁度今から王宮に行く所だったの。それじゃあ、行ってきます!」
私はお父様にパウロとダニエルの名前を伝えると、お父様の執務室を元気よく飛び出した。
「一応候補は決まってるんだよって、行っちゃった……。アダム殿下の万能な木属性と回復と防御役として強力な光属性を持つ平民の子は女性でもあるし、連れて行った方が良いんじゃないかなあ……。まあ、良いか。帰って来たら伝えよう。さあ、手紙を書くか〜」
その時お父様は床に落ちた四人の攻略対象のプロフィールが書かれた書類と、リリスの書類を拾い上げていることを私は知らなかった。
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馬車に乗った私は今から会いに行くルシファーや他の攻略対象の事を考えていた。十八歳を迎えたルシファーは原作の暗い雰囲気を纏った青年ではなく、聡明で冷静な王子に成長していた。
原作を知らなければ、ルシファーがもうすぐ魔王になるだなんてあり得ないと思ったことだろう。
実際、このまま上手く事が進めばルシファーが魔王になる事はなく、むしろ立派な国王になるのだろう。例え、原作のような魔王になってしまったとしても、今の私はルシファーを支え、立派な魔王にして見せる自信もある。
十歳の魔力測定時に公爵令嬢として恥をかかないためというのは勿論だが、ルシファーが万が一魔王になった時、私が抑えられるようにとも思っていた。だからこれまで聖属性を磨いてきたのだ。でもルシファーが魔王にならないに越したことはない。その為に私はシナリオが動き出すより先に動くのだ。
最初はただ、ルシファーに世界を滅亡させてはならないと言うこの世界に転生した者としての役割のような、使命感があって、ルシファーには好意的に接してきていた。ルシファーがこの世界の命運を握っていると知っていたから婚約も承諾したし、パウロやダニエルと訓練も頑張ってきた。
それなのに、この六年間でその意識はいつの間にか薄れていった。パウロとの魔力を伸ばす訓練は知識欲が満たされ、一つ物を知る度に私がこの世界に馴染んでいく気がした。
ダニエルと体術や剣の訓練すればするほど、私は一人でもやって行けると自信がついて、将来追放されることへの不安が消えていった。
教会の教育施設で取り巻きの令嬢たちと出会った時も、私がリリスを虐めなければ、令嬢たちもよき友人となった。
そして一週間、一ヶ月、一年と月日が過ぎていくと、私はこの世界に原作なんてものはないのだと錯覚するようになり、気がつけばあっという間に原作が動き出す十六歳を迎えていた。
まるでその六年間は動く時ではなく、ただただ私がこの世界で人生を謳歌する為のひたすらに楽しい時間なのだとでも言うかのように、私が原作を思い出すことは全くなかった。
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