シナリオが動き出す前に1(挿絵あり)
お父様が魔族の国に行くようになって六年の月日が過ぎた。私と攻略対象達は十六歳になり、ルシファーは十八歳になった。
お父様は魔族の国に旅立った日から三ヶ月して帰って来たものの、落ち着いて話が出来るような余裕はなかった。深刻そうな顔をして執務室に篭ると、その後は必ずと言って王宮に行ったり、魔導塔に行ったりと忙しく走り回っていた。
なぜお母様が失われた聖属性を持っているのか聞くタイミングを失い、結局なんとなく私の聖属性は遺伝したものなのだろうと思うに留めた。魔王から詳しい話は聞かされていないとお父様も言っていたので、お母様がなぜ聖属性を持っていたのかお父様も知らない可能性が高いと思ったのもある。お父様は国王に言われてなんの調査に行ったのかも聞きそびれてしまった。
ルシファーが魔王になった後、世界を滅亡させる鍵になっていそうだということは分かっていたので、私はパウロにお父様と話した内容と、原作については伏せて私の見解を説明した。
それから私はパウロと魔導塔で属性に関する調査を進めたが、パウロが言っていた国王と許可された者だけが読める『人類と魔力の属性の変化』の続編もいつまで経っても見つからず、何も分からないまま月日が過ぎていった。
時間が経てば経つほど、私は自分が悪役令嬢クレアであることを忘れ、攻略対象だけでなく教会の教育施設で友達になった原作では取り巻きだった令嬢とも友好な関係を築き上げていった。
私が十六歳になるより一足先にルシファーが十八歳になったのを境に、私はようやくハッとした。原作通りに進めば、そろそろルシファーが魔王になる頃だと思い出し、呑気にこの世界を楽しんでいたことに気がついた。
自分のことなのに、属性の調査もろくに進んでいないことに青ざめ、私は自分の十六歳の誕生日が近づくたびに怯えが増した。
原作の強制力が働いてしまえば、私が十六歳になった後はいつルシファーが魔王になってもおかしくない。ルシファーがいつ魔王になるのか毎日ヒヤヒヤしながら待っているのは心臓に悪い。
ルシファーはまだ魔王になる兆候を見せていないものの、どのようにシナリオが動き出すか分からない。万が一、今突然ルシファーが魔王になってしまったら婚約者である私はどうなるのか。
運が悪ければ私がルシファーを唆したとか謂れのないことを言われて追放されるかもしれない。そうなったらリリスは殺され、その挙句に魔王になったルシファーによって世界が滅ぼされてしまう。
原作ではクレアが十六歳になった数ヶ月後にリリスが十六歳を迎える。そのタイミングでルシファーがなんらかの要因によって闇属性の魔力を暴走させ、それを嗅ぎつけた魔王に体を乗り移られるというシナリオだった。自我がある内に慌てて王宮を飛び出したルシファーは、魔族の国に行ってしまう。こうしてリリスと三人の攻略対象は魔王になったルシファーを討伐しに魔族の国に旅立って行く。
男女共にこの世界では十六歳で成人と認められる。女性は十六歳で結婚できるが、男性は十八歳からと規定されている。十六歳になった今、原作とは異なりルシファーの婚約者である私にはまだ結婚式の話は出ていないが、その話も話題に上がり出す頃だ。私がルシファーと結婚式を挙げれば辛うじてルシファーが魔王にならない未来もありそうだが、確実な事は言えない。
お父様は私が十歳の時、まだ子どもだからという理由で魔族の国に行かせるのを嫌がっていた。つまりお父様は私が大人になる十六歳まで話を引き延ばす為に魔王と奮闘していたに違いない。
原作でのお父様はきっとクレアが大人になった時、魔王の元に行くのは嫌だというのを見越して、裏で動き回っていたのだろう。魔王を滅ぼす為に動いていたとは思えないが、運悪く王族から魔王が生まれてしまったことで滅ぼす大義名分が出来てしまったことが予想される。
今日に至るまで既に段取りが整っていたからルシファーが魔王になった途端に魔王討伐の編成が速やかに組まれることが出来たのだ。
そうこう考えている内に十六歳を迎えた私は決意を固めた。ルシファーが魔王になるのを待っているのは性に合わない。何も分からないなら、現魔王に直接聞けば良いじゃない。
リリスの誕生日は私の三ヶ月後だと言うことは分かっている。既に私の誕生日からは二週間が過ぎてしまった。これ以上は時間を無駄に出来ない。原作が動き出すのを待っているだけの私ではない。シナリオを知っているというアドバンテージを活かすなら今だ。
そう私は思い立ち、お父様に話をすることに決めた。
・・・
・・
・
コンコンコン
私はお父様の執務室をノックした。
「お父様、お仕事中ごめんなさい。入っても良い?」
「クレアか、丁度良かった。私も話があるんだ。入っておいで」
私が部屋にそろそろと入ると、お父様は書類の山に埋れて顔がチラッと見えるだけだった。
「お父様……机の上が大変なことになっているわよ」
「はっはっは! 魔族の国に行っていると執務に手が回らなくってね! それで、私の可愛い小鳥ちゃんはどうしたんだい?」
お父様の私の溺愛っぷりは今日も健在だ。私はお父様の机に近づき、適当に椅子を手繰り寄せると机の前に座った。
「以前聞きそびれてしまったことが聞きたくて。お父様がお母様と出会った時、お父様は魔族の国に何の調査をしに行ったの?」
「あー、それは魔族の生態調査だよ。基本的に魔族は大人しい種族だけど、遥か昔に一度だけ暴走した事があったんだ。今の国王陛下が即位されたあと、何かがあってからでは遅いからという事で調査しに行ったんだけど、結局アンジェラ以外の収穫はなかったよ」
お父様は当時のお母様を思い出しているようで、ニマニマした顔を浮かべて思い出に浸っている。私は微笑ましく思いつつも、原作で知ることのなかったこの国の過去について引っかかりを覚えた。
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