「全員が出来ることやるもんだ! 仲間なんだったらな!」
ーーーやっぱ、アルゴさんはカッケェなぁ。
本当に、出会った時からまるで変わらない。
それは悪い意味ではなく、自分の『芯』というものを持っていることへの憧憬。
イーサにとって、初めて『この人みたいになりたい』と、憧れた相手だった。
「だが、押さえられるのか?」
イーサは、そう問われて親指を立てる。
「当然スよw オレ、これでも武勇で鳴らしたトレメンス公爵家の次男坊スよ?w」
一歩前に出たイーサは、脇に浮かぶイフリートを見上げる。
ーーー久々だなぁ。まだ、オレとやってくれるか? イフリート。
心の中で獣の顔をした炎の精霊に呼びかけると、肯定を示す波動が返ってくる。
イーサは腰に手を伸ばすと、ローブの下から古ぼけた剣の柄と、赤い仮面を取り出した。
刀身のないその剣は、イフリートとの契約に使った宝具だった。
手首に嵌めた腕輪に釣った赤い呪玉を外して、その鍔の意匠に嵌め込む。
すると、イフリートとの意思疎通がより明瞭になった。
ーーー『再び剣を取るつもりになったか、我が契約者よ』。
「なったよ。この場面で戦らねぇなら、トレメンスの名を捨てなきゃいけなくなる。……ここは、そういう局面だ」
赤い仮面で目元を覆いながら、イーサは答えた。
トレメンス家、というよりは、自分たちが暮らすペンタメローネ王国に伝わる、貴族の剣技。
精霊を己の身に宿して戦うその剣技は『舞闘』と呼ばれている。
そして、剣技を修め、精霊との契約を交わしたイーサは、その使い手……『仮面舞闘士』の資格を得ていた。
元々、魔導士を目指したのは、家を継ぐ兄と違う自分が生きるため、手に職をつけるのが理由だった。
それもしばらく遊ぶための言い訳に過ぎなかったが、実際、剣の腕だけで生きては行けないし、舞闘士としての力は、門外不出。
『守るための力』と言われ、国や家族、あるいは仕える相手の守護以外の理由で、宗主の許可なく振るうことは本来許されない。
ーーーでも、アルゴさんはオレの支える主人スからね。
一言足りとも、本人には言わないし、他の誰にも言わないが。
イーサの忠義は、ただ1人、彼にだけ捧げている。
チャキリ、と剣の柄を顔の前に右手で立てて、イーサは口を開いた。
「見てて下さいよ、アルゴさん。…… 《精霊憑依》!」
その瞬間、ゴッ、と吹き上がる炎がイーサの体を覆う。
「ーーー我が身に宿れ、イフリィイイイイイイイトォオッッ!!」
※※※
アルゴは、目を見張った。
イフリートが炎の柱になったイーサに吸い込まれるように消え、その瞬間に炎がギュル、と凝縮してイーサの体に絡みつく。
ローブの上に赤い鎧として現出し、美麗な金の意匠が施された手甲や足甲、胸当てに変化する。
最後に角の生えたカブトが頭を覆い、剣の柄から炎が刃のように吹き出した。
身に纏ったローブの裾が、腰に巻いたマントのようにはためく。
「どうスか? これでも、結構剣士としてもイケてる才能あるんスよ、オレw」
カブトの奥からくぐもって響くイーサの声に、アルゴは軽く首を横に振った。
「お前には、いつも驚かされるな」
「奥の手は味方にも明かすな……ってのが、うちの家訓スからw」
トレメンスの血筋である以上、アナスタシアやスオーチェラ同様にその力を持っていても、決しておかしくはない。
だが、予測すらしていなかった。
「そうか。……だがやはり、お前は才能の使い方を間違えている気がするがな」
「オレにとって、これ以上有意義な使い方はねースよw じゃ、行ってくるス!」
なぜかイーサに狙いを定めたゴーレムに対して、彼は前のめりに足を踏み込んだ。
「さすがにこの剣なら、傷くらいつくっしょ?」
打ち付けられた拳を避け、イーサは炎刃をその手首に対して、華麗な動きで振り下ろす。
刃は腕の金属を溶かして切り裂いたが……それまでより明らかに鈍いものの、それでもゴーレムは再生する。
ーーー時間を稼いでくれている間に、やることをやらなければな。
アルゴは、力が入らず崩れそうになる膝に手をつき、気合とともに立ち上がる。
扉があるのは反対側だ。
急がなければならない。
大きく息を吐いて膝からアルゴが手を離すと、その腕をオデッセイが掴んだ。
「どうした?」
「強がるんじゃねーよ! フラついてんだろ? ……俺サマが連れて行く。武器もねーし、全員が出来ることやるもんだ! 仲間なんだったらな!」
ヒゲモジャの顔でニッと笑みを浮かべる彼に、アルゴは驚いた。
だが、すぐに納得してうなずく。
「そうだな。……なら、肩を貸してくれ」
「おうよ!!」