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「ウルズ! 無事か!?」 「大丈夫ですぅ!!」


「アルゴさん、よくこういうの思いつくスよねwww」

「鉱山の発掘作業をしたことがあるからな」


 コン、コン、と音を響かせているのは、エルフィリアの握ったナイフだった。

 彼女が持つ、刃物の切れ味を強化するスキルでそれを強化して、今、床を削ってもらっているのだ。


 結界を形成する呪玉の一つ、その周りの床を。


「せっかくのお宝だ。壊すのは勿体ない」


 おそらく前に入った冒険者は、呪玉を叩き壊したのだろう、と思われる状態のものが一つあった。

 それ自体は、どんな方法でか知らないが、おそらくはこのダンジョンを管理しているカラクリが修理したのだろう。


 そして、壁を壊せないまでも、凹んだ跡のある壁。


 イーサによると、この手のダンジョンの壁面は魔法が通じないように何らかの処置が施されているらしい。

 が、ある程度の威力があれば、刃物や槌による破壊は可能だろうと読んだのだ。


「オデッセイに強化魔法を掛けて叩かせても良かったが、派手にやってダンジョンに反応されても困るしな」


 今のところ、何らかの敵が現れる気配はない。


「これ、結構神経使うけどねー」


 エルフィリアが額の汗を拭うのに、アルゴは淡々と応える。


「これを持って帰れれば、売り捌いた半分はお前の取り分だ」

「助かる話だねー!」

「お宝に対する貪欲さと、他人に対する太っ腹さがヤベェっス、マジでw」

「ご主人様からは、一欠片たりともお宝を逃さない執念を感じますね! ご尊顔だけでなく内面も素敵です!!」

「褒めたところで、お前らの報酬は増やさんぞ」


 働いているのはエルフィリアである。


「しかし、何で反応しねーんだろうな!?」

「もしカラクリがゴーレムの類いなら、危機を感知する手段の中に入っていないのだろう。呪玉を〝掘る〟などという手段で、それを手に入れようと思わんからな」


 オデッセイが周りの扉を気にしながら声を上げると、サンドラは呆れたように首を横に振る。


「このまま何事もないのなら良いが」

「そんなに甘いわけがないな。呪玉を動かせば反応はする。そこからが勝負だ」


 とりあえず、指を差し込める程度に周りを掘った後、一度休憩を取ることにした。


 エルフィリアが作業する間に左右の扉を覗いて見たが、廊下だった。

 壁の形が壁に人くらいの大きさの巨大な卵を半分埋めたような奇妙な形であること以外は、特に変わった様子もない。


 ウルズを連れて左右に伸びる廊下を進んでみたが、どちらも行き止まりで、なんのためにあるのかは不明だった。


 とりあえず、部屋の中央に陣取って、イーサ製の活力向上剤(セーフドエルド)体力増強薬(バッカスドープ)をそれぞれに飲む。


 これで少し時間が経てば、一時的に消耗した体力が回復し、身体能力が向上する。

 アルゴが呑んでも、カラクリ相手には焼け石に水程度だろうが、三人の女性陣とオデッセイには多少の助けになるはずだ。


「おぇ……お酒と混ぜたバッカスはいいけど、何この、セーフのマズさ……デロデロに甘い……!!」


 エルフィリアがえずくのに、顔をしかめたオデッセイとサンドラも頷くが。


「バッカスの元の辛さと、この間のキノコの塩辛さに比べればだいぶマシだな」

「同感スwww」

「こんな甘いもの、隠していたなんてご主人様ったら! ……なんだか、お腹空いて来ました!」


 それぞれに反応したアルゴらに、二人は人外でも見るような目を向けてくる。


「いいか、俺サマたちじゃなく、テメェらがおかしいんだからな!?」

「全くだねー」

「うむ」

「多数決なら半数だが」


 言いつつ、アルゴは【カバン玉】に手を伸ばした。


「ウルズ」

「はい!」

「腹が減ったのなら、これでも食っておけ」


 と、アルゴが【カバン玉】から取り出したのは、この間のキノコである。

 もちろん煮詰めた後の、雷撃バチバチ薬だ。


 ちなみに、道中拾っては煮詰めていたので、どっさりある。


「もしカラクリが出てきたら効かんかも知れんが、腹は多少膨れるだろう」

「きゃー!! ご主人様ぁー!!♪」


 両手を頬に当てて大喜びしたウルズは、それをあっと言う間に食べ尽くした。


「お腹がくちくなりました! モリモリ元気になりました!!」

「そうか」


 電撃を纏い始めたウルズは、顔を上げると全員が自分を見ていることに気づいて、顔を覆う。


「オデッセイさん以外のご尊顔は、一斉にこっちに向けちゃダメですぅー!!」

「おい!!」

「そのお髭を剃ったらイケのメンなので、その時は数に含めますぅ!!」


 どこまでも変わらないウルズのノリにアルゴは和みかけたが、そうしていていい状況でもない。


「オデッセイ。そろそろやるぞ。呪玉を、削った床ごと持ち上げろ」


 結界の中までは流石に刃を入れられなかったが、半面の床は丸く削ってある。

 後は床から引き剥がすように持ち上げれば、呪玉が外れて結界が解けるだろう。


 オデッセイが、ふんぬぁ! と力を込めて持ち上げると呪玉が動き、予想通りに結界が消えーーー。




 ーーー今までで最大のビー! ビー! という音が鳴り響いた。




 そして、部屋の中が赤い光に満たされる。


「やっぱ結界解除が鍵だったスねぇw」

「どこから来るか分からん。警戒しろ」


 ウルズが拳を撃ち合わせ、エルフィリアが大太刀を手に周りを警戒する。

 そしてサンドラが、弓に矢を(つが)えたところで。


 バン! と行き止まりだった左右の扉が開き、一斉にカラクリたちが飛び込んできた。


「……どこにいた?」

「あの波打つ壁の中じゃないスか? ほらwww」


 ウルズたちが臨戦態勢に入る背後で、イーサがヘラヘラと開いた扉の奥を指差す。


 壁に埋まった卵がカパっと左右に開いていた。

 なるほど、中に収まっていたらしい。


「だが、結局カラクリが大量に発生するだけなら……」


 と、言いかけたところで、妙なことが起こった。


 カラクリたちがウルズらの元へ向かわず、固まったまま部屋の中心でお互いに衝突したのだ。


「あ?」


 アルゴが、いぶかしんで眉根を寄せると……カラクリたちが絡まり合うようにその場で山を築き、ガキガキガキ、と何かの金属がぶつかり合うような音が響く。


 すると、ドンドンと折り重なるカラクリたちで、巨大な人型を形成し。


 天井につきそうなほど巨大な、見るからに凶悪そうなゴーレムが、出現した。


「……なるほどな。コイツが最後の敵とやらか」

「あー、流石にマズそうスねぇ……」

「おい、アルゴ!! 俺サマもやる! この呪玉どーすんだ!?」

「下せばいいだろうが」


 言いながら【カバン玉】を手にしたアルゴが、彼の下ろした巨大な呪玉を吸い込むと、ゴーレムが動き始めた。


 一直線に、思った以上の速さでこちらに突っ込んで来る。


「チッ……!」


 お宝を手にした奴を許さないらしい。


「アルゴ!!」

「ご主人様!!」


 エルフィリアとウルズが声を上げ、ウルズが進路上に入り込むが、電撃を弾かせて一瞬だけ拮抗した後に弾かれる。


 だが、彼女が時間を稼いでくれたおかげで、イーサと共に左右に飛んで、逃げることは出来た。

 ゴーレムが振り下ろした拳を間一髪で避けると、壁の補修部分が思い切り凹む。


 ーーーなるほど、アレは冒険者の仕業ではなく、コイツの仕業か。


 よほど奥に、侵入されたくない何かが眠っているらしい。


「面白い」


 アルゴは、ゴーレムから離れながら【カバン玉】を扉に向かって転がした。

 呪玉を持っている相手を狙うなら、アレを手にしているのは危険だ。


 狙い通りに扉に当たってその場に転がった【カバン玉】は、後で回収すればいい。


 ゴーレムは、最奥の扉から全員が離れたのを確認すると、ゆっくりとこちらを振り返った。

 そのまま止まってくれる、という訳ではないだろう。


「ウルズ! 無事か!?」

「大丈夫ですぅ!!」


 空中でクルリと回転して着地した彼女のフードが落ち、銀の髪と耳が現れる。

 だが、前髪を気にしている余裕はないのか、左右に払って美貌を出した彼女は、獣のように牙を剥いていた。


「ご主人様を狙うのは、許さないですよ!!」

「全くもって、オレもそう思う」


 アルゴとは逆に跳んだイーサが、珍しく真剣な顔で腕をかざした。


「やるっスよ? アルゴさん」

「ああ」


 暑いだのと、言っている場合ではない。


「制約と誓約において命ずる。焼き尽くせーーー〝炎の精霊(イフリート)〟」


 完全な呪文をイーサが唱えると、幻出したイフリートが体に纏う炎が赤から、青へと染まる。

 

 そのまま、精霊が炎の球と化して衝突すると、凄まじい炎の柱が、ゴーレムを包み込んで天井を焼いた。

 

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― 新着の感想 ―
[良い点] そうか 将を射んと欲すればまず床を壊せ ですねw 合体するなんてダラ●ガ-15か?w [気になる点] 合体するときは組体操みたいなのか?w [一言] ハリウッド版トレンスファーマーみたい…
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