「……どこがSランクダンジョンなんだ?」 「あの二人が規格外過ぎるんだろうがァアアアアッ!!」
あれだけ襲ってきていたカラクリ人形は、なぜか不意に撤退を始めて、一斉に姿を消した。
イーサが言うには『一定数が破壊されると撤退する』と資料には書かれているらしく、それが起こったのだろうという話だったが。
「逃げたら、その後はどうなる?」
「よく分かんねースね。その後は最深部に到達しても、一切襲ってこないらしいスよw」
「……どこがSランクダンジョンなんだ?」
そんなアルゴの疑問に。
「あの二人が規格外過ぎるんだろうがァアアアアッ!!」
「弓も魔法もほぼ通用しない機械人形が何十体と襲ってきたんだぞ!? 十分にSランクだろう!?」
アルゴの発言に、オデッセイとサンドラが同時にツッコミを入れてくる。
「言われてみればその通りだな」
しかし、発生した問題に対処できる人員がいればいい、ということでもある。
ウルズとエルフィリアの二人で始末し切れる戦力を、Sランクの魔物狩りや傭兵どもは保持していないということだろうか。
「だが、そうなるとダンジョンアタックも、商売における問題の本質はそうそう変わりはないように思えるな」
例えば薬草売り抜きについては、市場調査から商品の確保から運搬、値付けなどの作業を、アルゴはほぼ一人で行ったが、ポーション作成はイーサに委託した。
売り手にしても、あらかじめウルズを雇い入れたのである。
専門性が高い作業はそれが出来る人間に、一人で回らないくらい作業が煩雑になるのなら、仕入れや運搬業務にも人を入れる。
「適切な人員が居れば何の問題もないのなら、攻略に失敗するのは適切な人員を揃えない側の怠慢だな」
「テメェから見ればそうでも、普通は、そんな化け物級の人材はそうそう揃わねーんだよ!! 俺の下にいた連中みたいなのが『普通』なんだよ!! そん中でやりくりしてんだよ!!!」
「ふむ、そもそも適切な人材が不足しているのか……それは一理ある。失言だったな」
アルゴは自分の発言を撤回した。
今回はオデッセイが正しい。
イーサが話に乗ってきたこと。
ウルズを勧誘出来たこと。
エルフィリアが薬草を纏めて買い上げてくれたこと。
オデッセイが義憤で動き、乗り込んできたこと。
Sランクダンジョン攻略のために準備を整える上で、必要な行動をアルゴが取ったのは事実だが、彼らの能力について完全に把握していなかったのもまた、事実だからだ。
冒険に必要な金銭を得ることが出来たのもそうだし、行軍に関してもサンドラを助けたから、余計な体力を消耗せずに、この場所まで来れたのも一因ではある。
「やはり運の良さというのも、商売や組織運営に必要な能力だな」
「何を一人で納得してんだよ……」
はぁ、とオデッセイがため息を吐いたが、それ以上は何も言わない。
「まぁ、アルゴさんの人柄はあると思うスけどねwww 並のヤツなら誰もついてこないっしょwww」
「ですねー。ご主人様が凄いから、周りに凄い人が来るんじゃないですかねー」
「それに関しては全く同感だねー。ボクもアルゴじゃなかったら協力してないし」
三人がうなずくのに、そういうものか、と思っていると、ドアを開けた先で少し広い空間に出た。
「お、ここを抜けたら、最深部スねーw」
イーサがそう告げると、部屋の奥を指さした。
そこにあったのは、厳重なほどに強固そうな金属製の扉と、その周りを覆う青い結界がある。
部屋にはさらに、自分たちが入ってきた方向と左右に扉があるようだ。
部屋の中には、ほかに何もない。
「あれが誰も突破出来てない謎解きっスw」
「どんなモノだ?」
アルゴが興味を持って近づくと、扉の横、結界の中に、どうやら腕を入れられそうな穴があった。
「結界に関する資料はないスねw」
「これが突破出来ていない、ということか?」
「多分違うスねw」
イーサは資料を査読し、軽く目を細める。
「多分、この結界までは誰かが攻略してるスよ。ただ、自分たち以外が攻略するのが嫌で、情報を明かさなかったんじゃないスか?w」
「なぜそう思う?」
「最後の鍵が突破出来ない、と書いてあるんスよねー。それと、謎を解いたら最後の敵が出現するとも書いてあるス。それが倒せないんじゃないスかねwww」
「なるほどな」
「最後の部分だけ詳細がないんスw 自分以外が得するのが嫌なクズどもの考えそうなことスよwww」
パタン、と資料を閉じたイーサは、結界に目を向けた。
「そんじゃ、考えましょw」
「解けるのか?」
「結界解除に関しては、実際に解けたヤツがいるんスから、俺でも解けるしょwww」
言いながら、イーサは気楽に謎解きに臨むようだった。