「オデッセイ、人間、諦めが肝心スよwww ーーー相手は〝狂精神〟のアルゴなんスからw」
「今まさに、沼跡みたいな姿に擬態してるんスよねー」
イーサの言葉に、アルゴは改めて目の前の景色に目を向ける。
「積極的に動いたり襲ったりするようなモンではないんスけど、捕食最終段階の爆発に巻き込まれたら死ぬっスw」
下生えが埋まったようになっているのも、木々が内側に傾いているのも、この辺り一帯がそのスライムに取り込まれ、消化された結果なのだろう。
というか、これが体だというのなら、単純にデカい。
「……コイツの対処法は?」
「倒す方法はないスねw いや、あるかもしんないスけど、少なくともオレは知らねースw」
肩をすくめたイーサは、そこでサンドラたちに目を向けた。
「そちらさんは、何か知ってるスか?」
「倒す方法は知らんが、動きを止める方法は、長老から聞き及んでいる」
森に住み、古い智慧を持つエルフ族は、同じく森に在る存在に精通しているようだった。
「〝大きな音を立てること〟だそうだ」
「音?」
「ああ。ここからは推測になるが、シミュレイト・スライムは分裂によって増殖する魔物で、同属で群れを作ることはない。意思もないと言われている。……多分だが、同属同士が出会えば、お互いに消滅させられる可能性があるからだろうな」
「同属が最大の敵というわけか」
「そういうことだ。対象を粘体に取り込んで爆裂し、細かく砕いて溶かす性質上、その捕食段階では巨大な音が立つのだろう。それを感じたら、もう一つの能力である、硬化を使用するのだろうな」
つまりこのスライムは、液体状態では、炸裂液であるディナマイトとしての性質を。
固まった状態では、超鋼金属であるアダマンタイトの性質を持つ。
ということなのだろう。
「なるほどな」
硬化した状態だとある程度、強烈な爆発の影響を免れるのなら、生半可な武器や魔法の攻撃は通らないだろう。
「エルフィリア。お前の剣技で硬化状態のアレを斬れるか?」
「分かんないけど、多分無理かなー。アダマンタイトでしょ? ……斬撃の威力は、吸収されちゃうんじゃないかなと思うけど」
それに刃こぼれしたら嫌だし、とエルフィリアは腰の大太刀を撫でる。
彼女でも傷を与えられないとなれば、捕食を始めるまで、ほぼ手の出しようがない無敵状態。
そして捕食されてしまえば一撃必殺の威力を放つ。
確かに、危険極まりない。
アルゴはそれを理解した上で、そのまま言葉を重ねる。
「ーーーでは捕食状態にしてから、一部を採取しよう」
「待て待て待て!! 今の話を聞いてなんでそうなる!?」
オデッセイが間近で声を張り上げたので、思わずその大きさに眉をしかめた。
「生きていようが死んでいようが、つまりコイツは金目のモノだろうが。しかも、金銀財宝よりもよほど価値がある」
手を出さない理由が、どこにあるというのか。
しかも所有権を主張する者もいないとなれば、取り放題だ。
「いくら頭のイカれた商人だろうが、イカれ方には限度を持てよこの無謀野郎っ!! どうやって採取すんだよ!? その時点で爆発したら死ぬぞ!?」
「だが、魔導具や装備としての使用法があるということは、当然採取法があるはずだ。イーサ、違うか?」
「あるスねw 」
イーサはあっさりとうなずいた。
「小分けにして瓶に詰めたらいいスよ。コイツの爆裂反応が起こるのは、自分の中に何かを取り込んだ時なんでw ただ、革袋だと動けるんでダメだと思うスw」
「テメェも何で知ってんだよ!? そんで教えんなよ!!」
「問題は、どうやって切り分けるかと、切り分ける時に炸裂させないことだな……」
「採取する事自体が問題だろうガァアアアアッッ!!」
本気で止めにかかっているらしいオデッセイは、エルフィリアたちに目を向ける。
「あんたらも何とか言ってくれよ!! どう考えても無謀だろ!?」
すると女性陣は、目を見交わしてそれぞれに意見を述べた。
「アダマンタイトが手に入るなら、ボクも欲しいなー」
「採取法や対処法が目の前で見れるのは、森を生きる者として少々興味深くはある」
「ご主人様は、ああなったら止まらない気がしました!!」
絶句するヒゲモジャの肩を、イーサがヘラヘラと叩いた。
「オデッセイ、人間、諦めが肝心スよwww ーーー相手は〝狂精神〟のアルゴなんスからw」