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『貴方に借金を背負わせた相手の、裏が取れました』 「ほう」

 

 階下の食堂の、遠い喧騒を感じながら、アルゴはベッドに腰掛けていた。


「何か、お分かりになりましたか?」


 街で手に入れたモノをどう売るか、と品定めをしていた最中、【風の宝珠】に連絡が入ったのである。

 相手は、スオーチェラ夫人だった。


 サンドラたちのことを報告するのにもちょうどいい。

 そう思いながら、話を聞いたのだが。


『貴方に借金を背負わせた相手の、裏が取れました』

「ほう」


 アルゴは、彼女の言葉に軽く眉を上げた。

 

「辿れたのですか」

『時間は掛かりましたが。隣国の者以外にも、複数の思惑が絡まっていたようですね』


 市場の是正を行うアルゴを目障りだと思っていた者は、思いの外多かったようだ。

 

 実際、ポーション枯渇の情報が広まってから薬草の高騰が露骨に起こったのは、市場がきちんと管理されていないことの証左でもある。

 アルゴに対して有利に働いたその状況は、市場を管理していた自分が是正し切れていなかった、という力不足ゆえだ。


「お聞きしても?」

『ええ。商会ギルドの長、タッカー氏に手伝っていただきました』


 アルゴにギルド除名を言い渡した張本人だ。


 もっとも彼自身はその決定に不本意な様子を見せていたので、相変わらずこちら寄りで居てくれるようで、ありがたい話ではある。


 どうやらスオーチェラ夫人は、カークが金を借りていた金貸しと、握った弱味をネタに何らかの交渉によって情報を引き出したようだ。


『あの金貸し自身は、隣国との直接の繋がりがあった、訳ではない、というわけではないのですが……』


 ずいぶん曖昧な言い方である。


『情報によると、犯人は、その先にいた、ある街で商売をやっている貴族だったようです』


 コルレオ、というらしいその人物は、港町と王都を繋ぐ交易で一財産を成した人物だそうだ。

 それを足掛かりに王都への進出を目論み、金貸しとの繋がりが出来たらしい。


『やり方が、ずいぶんと汚い人物だそうです』

「なるほど。港で隣国と繋がり、この国から外貨を奪いたい隣国と利害が一致した、と」

『貴方は、王都で一部の商人から評判が悪いので、目をつけられたのでしょうね』


 ずいぶんと優しい言い方である。

 アルゴは片頬を上げて、スオーチェラの言葉に応える。


「大半の商人、の間違いでは?」

『わたくしもそう思っていましたが、実際は違ったようです』


 彼女は、意外なことを言い始めた。


『たしかに上層部の覚え自体はめでたくないようですが、ギルド長の元には、貴方の除名を撤回するよう、かなりの数の匿名嘆願書が届いた、と。身を守るために権に伏してはいても、貴方のやり方は多くの商人に受け入れられていたようですよ』


 スオーチェラの言葉に、アルゴは唇を引き結んだ。


 ーーー下層の連中が。


 今の腐敗した構造を是正することを志したのは、そうした連中を食い物にされるのが気に入らなかったからだ。


 まともな条件で戦えば目もあっただろう者たちが、一部の者の利益のために不当に燻っている。


 なら変えればいい、と。


 そう思ってアルゴのしてきたことは、無駄ではなかったのを、スオーチェラはわざわざ伝えてくれたのだ。


「……ありがとうございます」

『話を戻しましょう。現状で益を得ようとしていたコルレオと思惑が一致した隣国は、貴方を陥れたのです。賓客として貴方に荷運びを依頼した商人は彼らの子飼いでした』


 そして、コルレオのもたらす隣国の装備や報酬などに目が眩んだ傭兵ギルドがそれに協力した、というのが大まかな真相だったようだ。


 大体の筋は、スオーチェラの情報から読んだ通りのものだった。


「金貸しは?」

『そちらの繋がりは、戻った時に貴方自身で確認されたほうがよろしいかと』


 含みのある物言いに、何かあるのだろうか、と思ったが、口には出さない。


 裏切ったとはいえ、懇意にしており、大金を貸し付けてくれた相手ではある。

 顔は馴染んでいる。


「ではそうしましょう。最後に、そのコルレオというのは、どこの街の貴族です? それと、フルネームを教えていただきたい」

『聞いてどうなさいます?』

「もちろん、落とし前をつけますよ。いずれね」


 借金については、チャラにはならない。

 ハメられたとはいえ、それは見抜けなかったアルゴの落ち度だ。


 しかし、知っておけば今後関わりが出来た時に、その段階で首を()ることも可能だろう。

 という判断だったが。


『コルレオ・アンドレイ。街の名は……』


 彼女が口にした名前と街に、思わずアルゴは喉を鳴らしてククク、と笑ってしまった。


『……?』

「いや、失礼。落とし前は、もうつけたようです。利子もつけれそうで何よりだ」

『何の話でしょう?』


 スオーチェラの戸惑いに、アルゴは説明した。


「コルレオには息子がいて、セガーレという名前ではありませんか?」

『その通りですが……まさか』

「ええ。つい先日、サンドラ、シシリィというエルフ族の冒険者を騙した貴族の息子がいましてね……」


 アルゴは、金を奪い取った相手と、その息子の悪行のことを暴露する。


「面白いことになってきた」

『……貴方は本当に無茶をなさいますね。ですが、有益な情報です。対処します』

「ありがとうございます。事の顛末を楽しみにしておりますよ」


 そうして通話を終えたアルゴは、軽く崩したオールバックの髪をかき上げて、笑みを深くする。


「いいな。運が好転してきた」


 明日からは、大森林に入って本格的にSランクダンジョン攻略の道程に入る。

 無事に目的を達成出来れば、晴れて本格的に冒険者ギルド構想が動き出す。


「ーーー俺は必ず勝つ。邪魔する連中を、結果で黙らせてやろう」

 

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― 新着の感想 ―
[良い点] 反撃の狼煙が上がったか あとはイケイケゴーゴーですかな?w [気になる点] 慕われていたのか 意外だw [一言] >息子がいて、セガーレ そのままかいw
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