第91話 共犯の問題
以前書きましたように、本日はこの1話のみの更新となります。
既に同じ案件を抱えてるんだよな。
というか、この短期間で何故こうも厄介事が転がり込んで来るんだよ。
まさかとは思うが、ここはもしかしてゴキブリホイホイならぬ亡命者ホイホイだったのか?
拠点名も〈亡命の地〉とかに変えた方がいい気がしてきたぞ。
まあ待て、まだ慌てるような時間じゃない。
話を聞いてからでも遅くないだろう。
実際そんな面倒臭い案件じゃないかもしれないからな。
ただの家出とか。
俺は内心の困惑ぶりをおくびにも出さずに、ハイゴブリンの姫様――レーアに質問を繰り出す。
「国から逃げて来たのか…それまた何故なんだ?」
『ウム、少シ長クナリソウダガヨイカ?少シバカリ我ガ国ニツイテ話サナイトイケナイカラナ。』
長くなるのかよ。
出来れば端的に答えて欲しかったんだが、何かしらのメカニズムが原因なら、背景知識がないと困るしな。
しょうがない、ここはしっかり聞くことにしよう。
「構わない、話してくれ。」
『ウム、感謝スル。』
そして、レーアによる説明が始まった。
〈安息の樹園〉から東におよそ200kmの位置にレーア達の母国である〈ゴブリニア〉がある。
元々はゴブリンの集落に過ぎなかったが、遥か昔に1匹のハイゴブリンが生まれたことで状況は一変、周囲の魔物を駆逐しながら規模が拡大し、小規模ながら国の形を成したらしい。
現在では、国民はハイゴブリン及びジェネラル以上のゴブリン種のみの単一民族国家なのだとか。
そして国のトップである王は、代々ハイゴブリン種が務めている。
王の選定方法は前代の指示に従うらしく、前代存命中に行われ、その方法は時々で異なるらしい。
話し合いによる平和的解決した例もあれば、血を血で洗うような殺伐とした例もあったとのこと。
それで問題となるのが、現在王位にある、レーアの父であるゴ=ロクノス。
典型的な力こそ全ての思想の持ち主らしく、併せて権力に強い執着を示すらしい。
自身の死まで王位を手放すつもりはないが、慣しに従い、次代の王の選定を渋々と実施。
その方法は継承権を持つ身内同士の殺し合いであった。
レーアは破竹の勢いで対抗馬を屠り、わずか1月の間で
だが、勝ち得たレーアに待っていたのは父ロクノスによる敵視でだった。
ロクノスは争いこそ好む存在であるのに対して、レーアは無駄な争いや殺生を忌避する存在であった。
2人が相容れないのは最早必然であった。
娘を見る目ではなく、自身の地位を揺るがす敵として認識され始めたのだ。
直接的な行動こそ起こされることはなかったが、側から見るとその心情は丸わかりであった。
だが、ついに事件は起こる。
ある日、〈ゴブリニア〉の制圧下にある土地に海食洞が発見された。
その海食洞には多くの魔物が存在し、いつ外に溢れ出てもおかしくない状況であった。
それに対して、ロクノスは己の力を示さんばかりに海食洞内部を蹂躙。
見る見るうちに魔物はその数を減らしていった。
殲滅後、部下の者に海食洞内を探索させていると、緑色に光る球体が発見された。
始めはその正体が分からなかったが、《鑑定》を使って結果、スキルオーブであることが判明し、すぐさま自身の物とした。
そのスキルオーブに宿っていた能力は、《不老》。
寿命による死を超越したことにより、王位に居続けると宣言した。
また、それに伴い自身の王位を脅かす可能性のある存在の排斥を開始。
王位継承権を持つレーアは真っ先に自分が狙われてしまうだろうと考え、逃避行を決意。
同じく狙われる可能性がある縁者のゴ=ディオーンと共謀し、ゴブリニアを脱出した。
『――トイウ訳ダ。理解シテモラエタダロウカ?』
まさかスキルオーブが自然に存在しているとはな。
もしかしなくても、その海食洞はダンジョンってやつだったんじゃないだろうか?
くっ、俺の初ダンジョンチャンスが潰されてしまった。
「《不老》の能力の詳細は分かるか?」
『スマナイ、ソコマデハ把握デキナカッタ。』
見もしない事物を《情報分解》はできないからな。
ただまあ名前のニュアンスでなんとなくだが、絞れはするが。
それにしても、好戦的で《不老》持ちか…
いつになるかは分からないが、少なくとも侵攻してくるのは間違いない。
今回された侵攻は俺達からすればかなりの大規模だった。
しかし、〈ゴブリニア〉からしたら、西軍の一部でしかないのだ。
完全に包囲されそうだな。
この生活を守るためにも、その事態だけは避けたい。
……思いついた、いや思いついてしまった。
上手くいけば、俺はその事態を避けることがきっとできるだろう。
しかし、そのためには俺は外道に身を落とす必要がある。
利益重視の打算な心と共に、善人のような面を取り繕って、心にもない言葉を並べる。
かつての俺なら嫌悪した。
――弱肉強食。
気がつかないうちにこの世界の考え方に毒されて来てるんだろうな。
俺がレーアに言わせたい言葉は決まった。
しかし、それをレーア自身が進んで言うことはないだろう。
争いを好まないと言うからにはどこかで抵抗があるのだろう。
会話を誘導しまくって、言わせるしかないか…
「お前が望むことはなんだ?」
『無論コノ拠点ヲ通リ抜ケテ、サラニ西ヘ逃ゲルコトダ。』
やはり言わない。
想定どおりの展開だな。
ただその凛とした顔にはどこか影が落ちている。
言いたいことが喉のところで引っ掛かっている、そんな感じだ。
助け舟を出してあげることにする。
「……それは本心なのか?」
ただしその助け舟は何の素材でできているかは分からない。
泥かもしれないし、金属製かもしれない。
その一言で途端に表情を崩すレーア。
心の内を探ることは俺にはできない。
ただ葛藤していることだけは間違いないだろう。
『……タイ。』
「ん?どうした?」
レーアは蚊の消えるような声でポツリと言葉を発した。
無論、俺は難聴系主人公ではないから、しっかりと聞き取れた。
しかし、まだ弱い。
どこか躊躇している気がする。
俺は無様な抵抗を試みるレーアの弱々しい邪魔な思考を潰す。
「はっきりと声高に発してくれ。レーア、お前の望みは何だ?これが最後のチャンスだ。」
『父上ヲ排シタイ!不必要ナ戦イヲ求メル父上ヲ打倒シタイ!』
はっきりと口に出させることで、あたかもそれが優先すべき本心であると錯覚させる。
これでレーアは父親の地位の簒奪に舵を切ったのだ。
「よく言った!ならば俺達も手を貸そう。」
静かに話を聞いていた他の面々にも緊張が走る。
だが、自然と目的を察したのか、どこか納得したような表情を浮かべる。
……文句は出ないようだな。
これで俺達は共犯者、お互いを自身のために利用する存在。
俺はこの拠点の生活を守るため。
レーアは無駄な争いを起こさんとする父親を排除するため。
ウィンウィンの関係というやつだ。
その後、レーアが考え直す隙を与えないように王位の簒奪計画の詳細を詰めていった。
後戻りなんかさせない。
俺は自分達の、〈安息の樹園〉の平和のために利用させてもらう。
次回更新日は11/15(日)です。
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