第90話 戦後処理の問題
こちらは本日2話目です。
前話は12時の更新となります。
未読の方は是非ご覧になってください。
レインとファナによる奇襲により、無事ゴブリンによる侵攻を乗り切ることができた。
正直言ってホッとした。
準備期間の短さ故に、守ることにしか手が回ったなかったからな。
奇襲が失敗に終わっていたら、こちらの攻め手がほとんどなかったんだよな。
これ以上の規模であった場合、無事に済んだとは思えない。
まあ喜ぶのは後にしておいて、きっちり終わらせないとな。
所謂戦後処理ってやつだ。
家に帰るまでが遠足ってのと同じで、戦争も戦後処理を終えることで初めて終戦だからな。
幸いにも、ハイゴブリン達を捕らえたことで周囲にいたキング種、ロード種のゴブリン達も無抵抗で降伏してくれた。
最悪の状況になることは免れたと言って間違いないだろう。
もし、徹底抗戦を決め込まれたら泥沼化一択だったもんな。
〈安息の樹園〉内に入れるのは憚られ、また堀向こうで話すのも万が一があるため、壁のすぐ内側で話し合いを行うことにした。
まずは戻ってきたレインとファナを労う。
「お疲れ様、怪我はない?」
「はい、問題ありません。」
「平気よ〜、ろくに戦わなかったしね。」
無事なようで何よりだ。
危険と隣り合わせなことを頼んだ自覚はある。
それだけに安心した。
それにしても、やはりファナは規格外だな。
オリ爺の報告を聞く限りは大暴れしたらしいんだが、本人的にはかなりあっさりとしている。
モノの数に入ったないんだろうな。
敵さんがちょっぴりだけ不憫に思えた。
そして、2人との会話はそこそこにして、捕まえたハイゴブリン達と向かい合う。
見れば見るほど、人間と変わらないな。
肌の色以外の違いを挙げろと言われたら、思いつかないぐらいだ。
くそ、本当に顔が整っているな。
あまりジロジロ見るものじゃないな。
とりあえず戦後交渉と行こうじゃないか。
「代表の者は誰だ?」
俺の問いかけに誰1人として答えようとせず、口を閉ざしている。
なんなら、目で射殺さんばかりに睨みつけてくる。
当たり前だが、友好的とは言えないな。
はあ、骨が折れそうだ…
「黙っていられても何も始まらない。こちらとしても不用意な殺生はしたくないのだ。」
こういう時に威圧系のスキルがあれば便利なんだろうな。
残念ながら、身長は高めのくせに俺に威圧感なんてない。
妹にも、怒らせない限りは人畜無害の顔と揶揄われたりしたからな。
うーむ、誰か威圧系のスキル持ってたっけ?
姫様が持ってたはずだけど、レベルもまだまだ低かった気がする。
それにあの容姿だ。
こういう場は相応しくない。
どうしたものかな…
静寂の時が流れていく。
決して穏やかとは言えないムードのまま。
すると、後ろにいたファナが前に出た。
なんだろうと思い、ファナの方を見ると、ハイゴブリン達にバレないようにウインクしてきた。
なにか考えがあるようだ。
「ねえアナタ達いつまでだんまり決め込むの〜?」
痺れを切らしたようにファナが問い詰める。
心なしか風が集まるような音が聞こえる。
気のせいってことにしておこう。
「敗者は敗者らしく従ったらどうなの?こっちは話を聞こうとしてるのに、そちらは話す気ないってことはまだ交戦状態ってことでいいのね?まあこのままじゃあ埒が開かないから、直接アナタ達の本拠地に乗り込んでお偉いさん叩きに行くわね〜。」
そう言ってレインと共に飛び立とうとするファナ。
それに対して慌てるハイゴブリン達。
『マ、待テ、ソレハヤメテクレ…話ヲサセテホシイ。』
「そんな言葉遣いして…ねえ、自分の立場分かってるの〜?」
『スマン、イヤスマナカッタ。話ヲサセテイタダキタイ。』
「最初からそうやって大人しくしてればいいのに〜。」
ファナのおかげでやっと対話できる状態になった。
まあ、あくまでも話ができるだけだ。
なるべくそのままでいてくれよな。
「俺はここの代表を務めている丈だ。そっちの代表は誰だ?」
丁寧な言葉遣いをしても良かったが、丁寧=下手に出てると認識されたら困るから、少し強気な口調で行く。
『ワシガ代表デアル、ゴブリニア西方面総大将ゴ=ディオーンダ。』
「名乗ってもらって早々で悪いんだが、生憎とそれが事実であるという確証が取れない。すまないが、《鑑定》をさせてもらう。」
そう言いながら俺はすぐさま《情報分解》を使う。
《鑑定》ではないが、真実を伝える必要はないからな。
《鑑定》ってことにしておく。
名前:ゴ=ディオーン
種族:ハイゴブリン
立場:[敵]ゴブリニア西方面総大将
能力:《鑑定》《繁殖》
《眷属召喚:ロード以外ゴブリン種》
《統率者:ロード以下ゴブリン種》
《領域感知》Lv5《身体操作》Lv6
《火魔法》Lv7
ふむ、軍隊の総司令官というのはあながち嘘ではないだろう。
だがしかし、俺の質問に対する答えとしては嘘を答えたことになりそうだな。
俺はゴ=ディオーン以外の者も視界に入ったため、同時に《情報分解》を使ったのだ。
そしたら、想像以上の大物がいたのだ。
「お前が代表で間違いないんだな?」
『アア、ワシハ総大将デ最モ高イ地位ニアル。』
「じゃあ、そこの姫様はどうでもいいんだな?」
と言って俺はゴ=ディオーンの真後ろに立っていた人物を指差す。
瞬く間にハイゴブリン達に動揺の色が見られた。
人間だと青白くなるって言うけど、ハイゴブリンだとむしろ綺麗な緑色になるな。
パステルグリーンってやつだ。
『バ、バカナコトヲイウナ。』
「いや、馬鹿もクソないさ。俺の鑑定結果に出てきてるんだ。ゴブリニア王女ってな。」
『ソンナコト《鑑定》ニデキルハズガ…』
「まあ俺のはちょっと特殊なもんでね。ということできちんと挨拶してもらえますか?」
言い逃れできない状況であると認めたのか、その件の王女様が後ろから出てきた。
一見すると、男にしか見えない。
男装美人って本当に実在したんだな。
名前:ゴ=レーア
種族:ハイゴブリン
立場:[中立(観察)]ゴブリニア王女
能力:《鑑定》《隠蔽》《繁殖》
《王威》Lv4
《眷属召喚:ロード以外ゴブリン種》
《統率者:ロード以下ゴブリン種》
《領域感知》Lv3《身体操作》Lv2
《光魔法》Lv7
初の光属性持ちだ。
当初は大将が持ってると思ってたんだが、まさかの姫様が《光魔法》持ちとはね。
おっと、いかんいかん。
ちゃんと話をしなくてはな。
『先ニ名乗リ出ナカッタノハ、用心シテイタタメダ。モシ不快ニ思ワセテシマッタノナラ謝罪シヨウ。改タメテ、ゴブリニア王女デ正統後継者ノゴ=レーアト言ウ。』
やはり王族というか支配層ということもあり、不遜な物言いだな。
『言葉遣イガ不快ニ思ウダロウガ、予メ謝罪シテオク。何分コレ以外ノ言葉遣イヲ知ラナイ者デナ。』
その目は実に申し訳なさそうにしている。
別に煽りたくてやっているようではないようだな。
支配者層というのも面倒臭い文化があるようだ。
「じゃあ言葉遣いは不問にしよう。その代わりにこちらの質問にはしっかりと答えてくれ。」
『アア、了解シタ。答エラレルコト全テ答エヨウ。』
それにしても、立場が分かっているのかゴ=ディオーンの方は俺のタメ口に非難の声をあげないな。
どっかの誰かさんとは大違いだ。
その当人の方へ視線を向ける。
俺以外も同様のことを思ったらしく、何人かの視線が集まっていた。
ふん、と鼻を鳴らして目を背ける。
OXさんも、自覚はあったんだな。
「じゃあ最初に聞こう。何故この拠点を襲ったのだ?」
これを聞かなきゃ何も始まらないな。
だが、この判断にのちの俺は後悔する。
安易な気持ちで聞くべきではなかったと。
『端的ニ言うと、国カラ逃ゲル道中ニアッタカラ潰シテ通ロウトシタ。』
あれ、聞き捨てならない言葉聞こえたな…
気のせいであってくれ。
「えっと、国から逃げるため?」
『ウム、ソウダ。』
「…………」
似たような案件を同時に持ち込まないでください。
次回更新日は11/10(火)です。
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