第89話 侵攻の問題③
こちらは本日1話目です。
次話は18時の更新の予定となっております。
執筆の関係で多少遅れて投稿になるかもしれませんので予めご了承下さい。
俺の元を一陣の風が吹き抜けた。
限りなく無風に近い今日では考えられない、人工的な風だ。
来た、合図だ!
「総員はいちにつけ!」
俺は拠点内のメンバーに指示を出す。
同時に拠点内から様々な魔法が飛び出し、ゴブリンの軍勢を襲う。
未だ先ほどの混乱が解けていない状況に追い討ちをかける。
「「「ギャギャ!」」」
次々と前線の通常種のゴブリン達が倒れ伏していく。
そして少なくないジェネラル種も魔法の暴威に巻き込まれていく。
俺も指示だけでなく、仕事しないとな。
「《分解結界》解除。」
瞬く間にゴブリンの軍勢のあちこちが焔に包まれる。
予め樹木の中に前回活躍したお手製酸素爆弾を埋めておいたのだ。
一見すると乱雑に爆発しているようだが、その実計算されている。
ゴブリンの軍勢の退路を断ち、その場に留めることを目的にしているのだから。
ただ思っていたよりも前線が下がっていたな。
ゴブリンの本陣を残すつもりだったが、本陣が下がり切っていたら、後方の爆発に巻き込まれたかもしれん。
あまり喜ばしくない事態だな。
『主よ、敵方の本陣は無事でおりましたぞ。ちょうど《宿木》で制御下の樹木の下へおります。』
オリ爺からの報告が入り、ゴブリン本陣の無事が伝えられた。
ふー、最悪の事態は避けられたようだ。
ついでに本陣の状況も確認しておくか。
「相手方の人員及びその場所は?」
『件のハイゴブリンが合わせて4匹、その周囲を屈強なキング種、ロード種のゴブリン達が幾重にも囲っている状況です。場所はえる地点です。』
退路も絶たれたこともあり、徹底抗戦の構えか…
それにしても本陣の立て直しは早かったな。
やはり緑色人間は知能が発達しているようだ。
場所も分かったことだし、戦闘能力測るついでに仕掛けてみるか…
「リメ。」
その一言だけで俺の言わんとしたことを察してくれたらしい。
矢の形をした炎が本陣のある方向へと射出された。
ドンドンと速度を上げ、敵陣に迫る。
そして、木々の間を縫うように視界から消えた。
ターゲットの元へ届いたようだ。
すぐさまオリ爺へ確認を取る。
「どうだ?当たったか?」
『いえ、当たる直前に何かに阻まれるようにして消滅しました…』
流石に一筋縄では行かないか…
伊達にハイゴブリンしたないらしい。
それにしても、何かに阻まれるようにして消滅したか。
表現的に俺の《分解結界》に類するものだと考えられる。
自分で使う分には便利だが、使われる側になると厄介なこと極まりないな。
火属性以外の矢を放つようにリメに指示を出す。
水、土、風属性の矢や、純粋な無属性の魔力の塊を射出するも結果は同じ。
やはりというか何かに阻まれてハイゴブリンを害することは叶わないようだ。
このままだと埒が開かないな。
そんな時は、バンダーに聞いて見るのが1番だな。
少し離れたところへいたバンダーの元へ赴き、該当しそうな能力について教えてもらう。
知っていてくれるといいな。
《情報分解》で直接見れるに越したことはないが、如何せん距離が遠すぎる。
一応裸眼で両眼とも1.0はあるが、たかが1.0。
木々によって本陣の様子が伺い見れない今、対象をしっかりと捉えきることは難しい。
「……2つほど考えられる。」
ダメ元だったんだが、まさかの有益な情報を聞けそうだ。
「……1つが光魔法にある結界術だ。オレは使えないが、中級魔法にあるらしい。同じ光属性の攻撃以外は弾く、または軽減できると聞いたことがある。」
おいおい、《光魔法》のスキル持ちなら結界張れるということかよ。
なかなかお手軽防御じゃないか。
流石、異世界もので勇者がよく持っている属性だ。
「……もう一方は、魔法でなく直接的なスキルだ。文字通り《結界》で、こちらはオマエの能力に近いだろう。自身を害する外的要因を悉く弾く、または軽減する類のものだ。対象が広くなる分、スキル自体も稀になるぞ。」
よりタチが悪くなったぞ。
弱点らしい弱点が今の説明だけだとなかったぞ。
希少価値が高いなんて弱点じゃない。
くっ、どちらなのか見極める方法はないのか?
光属性が使えれば問題ないのだが、生憎だが拠点内で光属性の魔法を使える者はいない。
ん、待てよ…
スキルか魔法かの違いを前に聞いた気がする。
確かスキルの発動は魔力を必要としないが、魔法は魔力が必須だったな。
つまり周囲の魔素をなくしてしまえば、どっちなのか見極められるんじゃないか?
ということで近くにあった手頃な石を握り、遠投の構えに入る。
しっかりと石に魔素を排除対象とした《素材分解》を施す。
無論人力じゃとてもじゃないが届かない距離だ。
リメ、身体強化お願い。
「フンッ!」
ピューーーン。
石が風を切る音はだんだんと聞こえなくなっていった。
結局当たったかどうかは、距離的に視覚でも聴覚でも分からず終いだ。
自分自身で結果を確かめたかったな。
「オリ爺、結果はどうだった?」
『結論から言えば、バンダー殿の言っておった前者のようですな。石は何かに阻まれることなく、敵将の元へと向かいました。ただ石自体は素手で捕られてしまいましたが…』
うーむ、何か悔しいな。
意表をついたつもりが、全く動揺が見られなかったな。
ただしかし、相手の能力の正体が分かっただけ御の字とするか。
光魔法由来の結界だったようだ。
これならまだやりようがあるな。
「――という結論に至ったんだが、問題ないか?」
『ええ、大丈夫よ〜。アタシに任せてね〜。』
さあ準備は整った。
俺達の陽動の役目も果たせただろう。
始めから正攻法でこの戦いに勝てるなんて夢見がちなことを言う気はない。
だからこその奇襲の一手を打った。
地球の第一次世界大戦はそれ以前の戦争と比べて、その規模は増大した。
原因は様々なものがあるが、その1つが航空機の導入であった。
今まではあくまでも陸対陸、陸対海、海対海といった平面上での戦いが主であった。
しかし、航空機の導入により、戦争は空という要素も加わり、3次元的な戦略が求められるようになった。
航空機による戦争への影響は大きかったのだろう。
第一次世界大戦の開戦時、両陣営とも100数機しか保有していなかったのだが、戦時中に増加し、数万機までになったらしい。
空という概念は始めからあったわけではない。
航空機という存在が生まれて始めて、ストラテジーに考慮されるようになったのだ。
だからこそ、相手側は空からの奇襲というのは思慮外なのだ。
空に浮かぶ雲から1つの影が落ちていく。
勿論俺はその正体を知っている。
《飛行》持ちのレインと《分析眼》持ちのファナである。
レインがファナを抱き抱え、高速で空から迫り、ファナが《分析眼》で対象を絞りつつ捕縛する。
これが今回の作戦、奇襲の一手だ。
そうこうしている間に2人は敵陣の目前まで至った。
これからは俺の視力では見えないから、オリ爺の報告頼りになる。
『サファナ殿が結界を無効化しました。』
端的な説明ありがとうよ。
結界破りに関しては詳細が知りたいんだがね。
『……詳しいことは分かりません。ただ、おそらく《精霊術》かと。結界が消える寸前に小さな光の塊が見えたので。』
精霊は誰の目にも見えるわけではないパターンか。
けどまあ、ファナは光属性を持ってたわけじゃないから、十中八九《精霊術》で間違いないだろう。
光属性の精霊か、それとも俺のようにただ魔素を操ったのかまでは定かではない。
『多少の抵抗はあったものの、ファナ殿の猛威の前に無力化。現在、魔道具にて捕縛、こちらへの輸送準備に取り掛かりました。』
ちなみに魔道具はファナお手製のを使った。
この数日間で用意したというのだから、とんでもなく優秀だな。
[魔力封じの手錠]
サファナ=ラ=ログワーツ作。
魔力を吸収する素材を使った手錠。
《魔力吸収》を持つ魔物の素材をふんだんに盛
り込んだ作品で、その価格は白金貨1枚。
まあ何はともあれ、今回の戦いはひとまず終了。
恥ずかしいけど、アレやらないとな。
スゥー。
「勝ったぞー!」
「「「「「おおっー!」」」」」
俺たちの勝鬨は夕陽に届かんばかりに大きかった。
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