第87話 侵攻の問題①
こちらは本日2話目です。
前話は12時の更新となります。
未読の方は是非ご覧になってください。
「ここまで来ると壮観だな…」
新しく作った壁と堀の内側に建てた櫓の上に上り、眼下に広がる光景を見る。
一面が蠢く緑一色。
その緑は木々などの植物ではない。
全てがゴブリンだ。
いよいよゴブリンの第2次侵攻が始まったようだ。
ゴブリン達は予想を裏切ることなく、東方面から姿を現した。
部隊を分けて、多方面侵攻されるかと思ったが、オリ爺の監視網に引っ掛かる様子がないため、眼前の大群だけらしい。
複数箇所攻撃されると人員的に厳しかったので、非常に助かる。
それでもやはり数が多い。
一度の視界に全てのゴブリンが入らないほど、横にも広がっている。
数万、いや下手したら6桁にもなるんじゃないか?
数だけが前回の違いではない。
前回はゴブリン種しかいなかったが、今回はそれ以外の魔物も見受けられる。
所謂ユニコーンらしき魔物やバイコーンらしい魔物がいる。
ふむ、相手もやる気というわけか。
すると、ゴブリンの軍勢の中から1人の緑色人間が出てきた。
その周囲は背の高いゴブリンーーゴブリンジェネラルによって、防御態勢が取られている。
外見的にハイゴブリンだ。
……うん、《情報分解》しても種族名はそれであった。
あいつが今回の親玉か?
このままあいつを殺せば、この戦は終わるだろう。
レインに目配せをして、魔法を打とうとした所で待ったがかかった。
『我ガ名ハ、ゴ=イレフ。猛将ゴ=ディオーン様率イル精強ナル西方面軍ノ使者トシテ参ッタ。伝エルコトハタダヒトツ。コチラノ要求ニ全面的ニ従エ!サスレバ無駄ナ犠牲ヲ出サズニ済ムゾ。』
まさかの使者だった。
流石に大将がいきなり出てくるなんてことはないか。
世の中そんなに甘くないらしい。
それにしてもなんて不遜な物言いだろうか?
敵愾心を煽りたいだけにしか思えないな。
ただ1つと言ってるくせに、要求に全面的に従えって、1つじゃないだろう。
数も数えられないのか?
この辺りはまさにゴブリンといった感じだな。
毅然とした対応をさせてもらうとするか。
「断る!まず他人に頼みごとするなら、丁寧な言葉遣いを選ぶんだな。そんなことも知らないのか?これだから、低能なゴブリンは…それに無駄な犠牲も何も犠牲が出ないんだから、無駄もクソもないな。」
全力で煽り返す。
ムシャクシャしてやった、後悔はしていない。
それにしてもこれが噂に聞く口上戦というやつか。
なかなか面白いな。
『馬鹿カオマエハ?コノ兵力差を理解デキナイノカ。呆レテ物モ言エンナ!』
「いや、物も言えないとか言いつつ普通に話してるんじゃん?馬鹿なの?言葉の意味も理解していないのに使わない方がいいぞ。自らが低能だと公開しているようなもんだからな。」
『……グ、オ、オマエェ!』
「なんだ言い返せないのか?まあそうだような。事実言われているだけだもんな…いや、俺が悪かったな。はいはい、ごめんなさいごめんなさい。本当のことを言って傷つけてごめんなさい。これでいいか?」
『オマエダケハ許サナイ!ソコヲ蹂躙シ尽クシタ暁ニハ、俺ガ直々ニ処刑シテヤル。四肢ヲ固定シテ少シズツ刻ンデ、ソレヲオマエノ口デ咀嚼サセテヤル!』
「なんでいいけど大袈裟なことをいうもんじゃないぞ?弱く見えるぞー。」
『ッッ!』
あいつは何も言い返せずに自陣へと帰って行った。
煽り耐性低すぎだったな。
口上戦は俺の勝ちでいいだろう。
ここ数日の建設作業で溜まった鬱憤を晴らせて、満足だ。
是非またやりたいが、それよりものんびりと暮らしたいから戦は巻き込まれるのはしばらくご遠慮願いたいな。
『ススメー!』
『『『『『グギャー!』』』』』
大地を割らんばかりの雄叫びと共にゴブリンの軍勢による侵攻が始まった。
身体が音響により震える。
知らずのうちに精神が昂ってくる。
例によって、ゴブリン達は弓矢による一斉掃射の準備を始めた。
目に見えるだけでも前回の数倍の量だ。
ただ、その戦法は既に前回より学んでいる。
今回は前回と違い、周辺環境に考慮しすぎる必要はない。
防御は最低限でいいのだ。
まさに相手は矢の無駄遣いと言ったところだな。
高レベルの《風魔法》持ちのレインとファナの下に分散して集まる。
そして各自、一斉掃射後に行う迎撃準備に取り掛かる。
「「逆巻け宙よ、翻れ奔流――ロート・ザ・ブレス!」」
ゴブリンにより放たれた矢を風により吹き返す。
前回十分機能した実績のある魔法だ。
見事全ての矢を跳ね返すことができた!
ん?
ちょっと待て…
全部跳ね返した、だと?
前回はそんなことできず、一部分はそのまま拠点に降り注いだ。
前回でそれなのだ。
今回はそれを超えるほどの矢が降り注ぐはずなのに、全て返せているのはおかしい。
側にいるレインに確認を取る。
「前回より出力を上げたりしたか?」
「い、いえ、そのようなことは…ご主人様が無駄な魔力を消費するなと仰っていたので…」
別の場所にいるファナにもアイコンタクトで確認を取るも、彼女は同様の答えを返して来た。
「――次射、もう来ます!」
ほとんど間を開けることなく、矢が降り注ぐ。
おかしい、何かが違う。
その異常の正体を探るべく、俺は敵陣の方へ目を向ける。
……ああ、なるほど。
弾幕の間越しに、その正体を見たり!
――三段撃ちか。
部隊を3つに分けて、射撃の間隔を短くする戦法。
有名どころで言うと、長篠の戦いだな。
織田信長が鉄砲を3列に分けて導入し、当時戦国最強の一角を誇った武田騎馬隊に大打撃を与えた、と伝わっている。
まあ、実際は行なわれた可能性が低く、創作されたものらしいがな。
それを奴らは実行しているようだ。
損害を与えることよりも、弾幕を途切らせずにこちらの攻撃を封じるということに狙いをシフトした感じだな。
やはり、前回の生き残りが…
くそ、このままだとジリ貧だ。
先にレインとファナの魔力が尽きてしまう。
「敵の攻撃が止むのを待たずに迎撃するんだ。相手の手が止まることはそうそうない。なるべく指揮官を潰せ!」
俺は皆に発破を掛ける。
すぐさま指示に従い、各自迎撃を開始した。
前回よりタチが悪いな。
《眷属召喚》が倒した側から順次使われている。
敵兵が減っている気がまるでしない。
何か打開策を講じなくては…
俺が悩む間も戦況は着々と進んでいく。
「敵歩兵動き始めました!」
レインが報告して来た。
見ると、たしかに弓矢を装備していないゴブリン達が次々と堀の方へと向かっていく。
本格的な侵攻開始というわけか。
木材を堀越しに壁に立てかけて登ろうとする一隊を見つけた。
結構しっかりと準備して来てるんだな。
まあ無理だろうけどな。
何も知らずに15m級の木材を壁に立てかける。
単純計算しても十分に足りる長さだ。
しかし壁に触れる瞬間、立て掛けることが出来ずに、木材は堀の中へと落ちていく。
一隊のゴブリン達は呆けた表情をしている。
馬鹿か?
そんな手を見過ごすとでも思ったのか?
俺は別に好きで、先ほどからゴブリンの軍勢の動向を探っているだけではない。
積極的に攻撃を加えたいし、矢の防御だって可能だ。
しかし、それをせずにただ静かにしていたのには理由がある。
壁より少し上方に《魔糸操作》で生み出した、分解結界》付与済みのミスリル糸を展開しているのだ。
理由は勿論、先ほどの木材のような乗り込む手段を排除するため。
壁から数10cmくらいに配置するだけで、引っ掛かる部分は切断できる。
その結果が、先の堀の中へ落ちていった木材だ。
さあさあお互いに打つ手なしかな?
俺は次なる策を講ずるために動き出す。
次回更新日は11/5(木)です。
良かったら評価の方よろしくお願い致します。
ブックマーク、感想、レビュー等頂けたら励みになりますので、併せてよろしくお願い致します。




